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折れた翼の英雄譚  作者: 猫の人
3章 英雄の台頭(王国歴145~148年)
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帰還

「いやぁぁーーっ!! ジーナぁっ!!」


 目の前で友人が死んだ事で、生き残った片割れがこれまで以上に大きな声を出した。

 だが、それを成した騎士は何も言わない。

 彼女に構う余裕が無いからだ。



「≪マイティストライク≫か。まぁ、ありえない威力だよなぁ」

「貴様……っ!」


 なぜなら、イルムがもう一人の騎士を殺していたからだ。

 騎士たちの意識がイルムから外れた瞬間を狙い、縛っているロープを引き千切って不意打ちをしたのである。


「素手でもなんとかなるものだな。頭を狙えば首の骨が折れる。装甲の硬さは関係ない。殴れば殺せる。

 まぁ、防御系スキルを持ってなかったのも関係してると思うけど」


 イルムは殴った手をプラプラとさせ、感覚を確かめる。

 倒された騎士、彼は黒装束で分からなかったが鉢金を身に着けており、金属を殴った拳を少し痛めたからだ。

 イルムの体はスキルによって強化されているが、金属以上の硬度を持っていない。金属を殴れば、痛いのは当たり前である。


 ただ、その痛みもすぐに引く。これもスキルによる回復効果だ。

 ほんのわずかな傷も不確定要素も打ち消すように。

 それを、手の甲にあった傷が消えていく様を、信じられない物を目にした騎士は僅かに震えた。



「さて。大人しく付いてきてくれるなら、少なくともこの場では殺さないよ。

 引き渡した後の事は保証できないけど、一言口添えをするから。たぶん殺されないんじゃないかな?

 ああ、そうだ。この取引ってさ、完全にバレているから。逃げれるなんて甘い考えは持たない事をお勧めするよ」

「……」

「分かった、従おう」


 そんな完調のイルムは何事も無かったかのように生き残りの二人へと「自分に従え」と笑いかける。

 ただし、笑ってはいるが目には「従わないならここで殺す」という強い意志が宿っている。誰が見ても分かるほどに。



 言われた二人は対照的だ。


 生き残った娘の方はいまだ現実が見えておらず、涙をポロポロとこぼしながら無言で首を横に振る。裏切りの罪悪感、まだ会えない恋人、友人を殺された恐怖、全てが誰かの手の上である無力感。それらは彼女の心のキャパシティを超えている。

 そして騎士は抗うことを諦め、手にしていた剣を捨てた。不意を打たれた事は分かったが、その時に実力差を把握したからである。彼は生き残る可能性に賭けた。生き残ってこそ出来る事もあると、この場では(・・・・・)大人しくしておくのだ。


 イルムはそんな二人を見て、どうしようかな、と悩む。

 元部下の方はどうでもいい。一応は連れて帰るが、先ほどのやり取りなどを見ても話が通じる種類の人間に見えなかったからだ。

 騎士の方は瞳に抗う意思が見えるものの、ちゃんと話が通じる。敵ではあるが、こちらが誠意をもって相対すれば特に問題ないだろう。


「じゃあ、そこの騎士さんは連れの遺体を持って来て。ちゃんと埋葬したいからさ。そっちのはいいや。――ここに埋めていくよ。

 じゃあ、陣地に戻るから付いてきて」


 イルムは魔法を地面に打ち込んで大きな穴をあけると、そこに手ばやく両断された死体を放り込み、雑に土をかぶせる。

 そして騎士の使っていた馬に荷物として元部下を縛り付けると、その上にまたがった。


 騎士の方も、死んだ仲間の遺体を馬に載せると、素直にイルムの近くへと馬を寄せる。

 そして二人は、オマケを連れて本陣に戻るのだった。

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