閑話4 グリーゼの記憶 後編
紅い目をしたそいつは、俺たちと同じ言葉を話せるようだ。
「お前は、誰だ!魔獣を操ってるのか?」
ものは試しと聞いてみる。
「そうだ・・・おまえらも良くやったがここで終わりだ、お前たちの仲間も後を追わせてやる。」
くそッ!こいつは俺たちが陽動でこちらに魔獣を集めているのを知ってやがる。
こいつを倒さなければ・・・
俺の考えがわかったのか、ゲロルトとアルノーがこちらに駆けてくる、
俺も女の方に駆け槍を振るった、
女は槍を軽々とかわし剣を振るう、
俺の鎧を剣がかすめ、切り飛ばされた破片が飛び散る。
ゲロルトの矢を軽々と交わすと女は魔法を唱える、
{ダークアロウ!}
漆黒の矢が生まれ飛んでいく、矢は避けようとしたゲロルトののど笛に突き刺さった!
そのまま貫かれ倒れるゲロルト、即死か!
俺とアルノーは間合いを詰めて女に挑む、魔法を使わせる暇は与えない、
剣と槍が打ち合い火花を散らし、掠めた剣が傷を穿つ、
奴には剣も槍も届かず、こちらの傷は増えていく。
アルノーの剣を避けた奴がわずかに隙を作った、
俺は槍を思い切り振りかぶり突進する、
振り下ろした槍にわずかに反応の遅れた奴は切っ先が掠めたのか、
鎧の肩の部分を飛ばした、わずかに下の肌に傷をつけたようだ。
「おのれッ!」
女は歯噛みし、なおも迫るアルノーに向け手のひらを向けた、
「アルノー避けろ!魔法だ!」
叫ぶが、奴が魔法を放つのが同時だった。
手から放たれたのは雷だった、アルノーはそれに焼かれ消し炭のようになった。
「アルノー!」 カチヤの顔が浮かんで消えた、くそったれめ。
ひるまずに突進し、奴に肉薄する、槍を投げ奴がはじく隙をつき、抜いた剣で切りつける。
{刻槍} 奴の魔法だ。
漆黒の槍が現れ俺に飛んできた、避ける事は出来なかった、
剣ではじくが、その剣が触れた時に折れてしまう、
弾いたはずの槍はそのまま俺を貫いた、
「ガハッ!」 こみ上げる熱いものを吐き出す、血だ。
奴の目の前にいながら何も出来ないのか・・・
足の力が抜けていく、崩れ倒れないようにするのがやっとだ、
目の前の紅い瞳が憐憫の色を帯びているように見えた、
「尊敬に値するが・・・終わりだ。」
剣を構えている、まだこちらにも切り札はあるが、間合いが遠い、だめか・・・
ドスッ! 矢が女の肩口に刺さる、目だけでその方向を見ると、ヨハンだ・・・
屋敷で手当てされそのまま脱出してなかったのか・・・
「おのれ!」
女は剣を飛ばし、剣はヨハンののど笛をえぐった、
倒れる前にヨハンは俺に向けて笑っていたように見えた。
女に隙が出来た、この機を逃すわけには行かない!
俺は腰の後ろにさしていた山刀を抜き横一文字に振った。
先祖が百年以上前に人族との戦争で使って折れた剣を打ち直して作った山刀は、
厚い鎧兜でも真っ二つにできる、間合いがあれば有効な武器だ。
女の鎧は左の肩口から横に真っ二つになり胸を切り裂いた。
わずかに浅かったか・・・
驚愕を貼り付けた顔をしている女。
盛大に血を吹いているが致命傷にはなりそうにもない、
だが、これ以上奴も戦うことは出来まい。
俺はそのまま崩れ倒れた。
奴らがどうしたのか知りたかったが、そのまま意識が無くなっていく。
これが、死というものなのか・・・
いろいろなことが浮かんでは消える、友のこと、里のこと、両親の事、カチヤの事、
カチヤにまともな返事が出来なかった、これだけは後悔だ、
彼女は俺の事を一途に思ってくれていた、受け入れてやれば良かったのか?
もう少し、時間があれば・・・
そこで、不意にテレーゼのことが頭をよぎる。
このまま会うことも出来ずに去るのか?
会いたい!・・・
そして意識が完全に消えた。
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どれくらい時間がたったのだろうか?
まだ意識があることに気が付いた。
死ななかったのか?
体を動かそうとしたが全く動かなかった、何も見えない、何も聞こえない。
どういうことなのか?
しばらく考えていたが、他に考えられない、
俺は死んでいるが、まだ魂が体に止まっているのだと。
そしてそれをしているのは「未練」なのだということを。
そして、しばらく時間が経ったのだろうか?
死んでいる身では、時間の感覚も無いのか・・・
すると急に足音が聞こえてきた、地面を踏みしめる、足音。
声がする。
「ここに居るのが最後の一人か・・・」
男の声だ、救援に来た兵士だろうか?
うつ伏せになっていたのを起こされる。
目が薄く開いていたせいか見ることが出来た。
男の顔が見える、若いな、人族だと!
なぜ里に人族がきたのか・・・人族の国から援軍が来たのか?
疑問に思っていると彼は俺を抱えると運んでいく、
このまま埋葬されるのかと思っていたら、
「グリーゼ!どうして?」
懐かしい、一番聞きたかった声がした。
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俺は地面に降ろされていた。
声の主は這うようにして俺の元まできた。
見える、懐かしい顔が。
テレーゼは俺にすがり付いて泣き出した、
俺を探して運んできた男も痛ましい顔をしている。
俺は、しゃべろうとした、言わねばならない、言いたかったことを。
「・・・レーゼ、テレーゼ」
何とか声が出たらしい、テレーゼと男が驚いた顔をしている。
俺はテレーゼに自分の気持ちを伝えた、
好きだったゆえに縛るようなことをしていたこと、
せめて一目会いたいがためにここに止まっていたことを。
それを話すと、すっと軽くなった気がした、きっと魂は今ならこの体から
離れることが出来るだろう。
最後に一緒にいた人族の男に話しかける、
テレーゼとここまで一緒に来るほどだ、きっと彼女を大切にしてくれるはずだ。
彼女を頼んだ、幸せにしてやってくれ。
するとすっと抜けていくような感覚が起こった、魂が天に向っていくのだろう、
さようなら、テレーゼ・・・・
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俺は今獣王都の難民キャンプにいる。
アウラートゥスの里に帰還が決まったと聞いたのでその手伝いのためだ。
先遣隊を送って向こうの仮の住居の設営などを行うために準備が進められている。
物資や、人員は俺やおおすみたちと転移で運ぶので問題はない。
里長のところで俺はグリーゼの最後の戦いの話をしていた。
聞いていたのはテレーゼとその両親、グリーゼの両親とカチヤだ。
カチヤは父親のアルノーを戦いで失っていた。
その最後を教えて欲しいと頼まれたのだ、
あと、俺が本当のグリーゼかどうか疑っていたので真実を話すことにしたのだった。
カチヤは泣いていた、父親の死とおそらくはグリーゼの死の両方だろう。
テレーゼが肩を抱くと、すがり付いて嗚咽を漏らした。
{リードブレイン}の魔法は記憶を深く読み込むほど副作用が強くなる。
本当は死ぬ間際だけを読むのが正しい使い方だ。
しかし、この加減が難しいので使いこなせない魔法、禁呪とされたのだ。
俺も簡単に読んだつもりが結局グリーゼの最初の記憶まで読んでしまっていた。
あまりに膨大なので、すぐには思い出せなかったのは整理できてなかったのかも
しれない。
深く読むとその記憶の擬似人格が出来上がる、ほとんどはそこで元の人格と
ぶつかり合って自滅してしまうのだ、
俺は、人格を融合させることでそれを回避した。
そのために俺には二人分の記憶がある、
転生もしてないのに転生者みたいである。
融合したことで、グリーゼがテレーゼをいかに愛していたかを知った。
もともとその前から付き合っていたのだがより愛しく思えるようになったのだ。
不思議な感覚だ、だがそれは大事にしたい、俺はグリーゼでもあるのだから。
カチヤの事もある、グリーゼはカチヤを受け入れるつもりだったようだ、
両親も、里長もそうして欲しいらしい、俺はカチヤの気持ちを尊重して欲しいと言った。
きっとグリーゼもそういっただろうから。
外に出ると日は暮れて夜空には星の瞬きが見える、地球で見た星空とは違うが、
これはこれで美しい、グリーゼの記憶ではこちらでも星座等があるようだ。
見入っていると傍に立つ気配がした、視線を移すとテレーゼが立っていた。
「綺麗な星空だ。」
「良く星を見てましたね・・・二人で。」
「そうだったな・・・星の世界はどんなところだろうって言ってたな。」
「良く覚えてますね、手を伸ばしたら届きそうなのにって言ってましたね。」
「そんなに近くの物じゃないんだけどね。」
そうして俺は地球で得た星の話をテレーゼにしてやるのだった。
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次回投稿は6月30日18時予定です。




