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ポテトグラタンと魔獣


 【業務用スーパー】の効果を大体理解したのでさっそく夕飯を作る準備に取り掛かった。

 

 イリスは何も言わないがスキルを使うのを陰で見守っている。キッチンで夕飯の準備をしているときも、イリスは何やら落ち着かない様子。何を作るのか気になっているのだ。


 この世界の住人は召喚された勇者が何やらスキルを持っていて、特殊なことが出来ることを知っている。だから勇者の肩書を持っているとある程度尊敬されるらしい。

 ただ、イリスによると今までいきなり目の前で食パンを出した勇者は一人もいなかったらしいが。


 【業務用スーパー】を見つつ、とりあえず夕食用に食材の確保と調味料を購入した。

 夕飯のメニューを色々と考えた結果、スキルでの出費は1300GP近くになった。


――――――――――――――――――――

 ポテトサラダ1kg:450GP

 スライスチーズ15枚入り:300GP

 カットトマト缶2個:220GP

 粉末コンソメ300g:360GP


 合計出費:1330GP

 残金:380GP

――――――――――――――――――――


 結構出費をしたように思えるがこれも色々と考えてのことだ。

 コンソメは調味料として応用が利くし、ポテトサラダもジャガイモなので主菜として使い勝手が良い。これらはコスパを考えると買っておきたい食材だ。

 基本的に毎日使う食材や調味料は大容量で買っておいて損はない。


 前世でも業務用スーパーで買い物する時には長持ちして大容量の商品を惜しみなく買っていた。そうすれば長い目で見て値段を抑えることができる。

 そのセオリー通り、この世界でも値段よりも量が多く長く使えることをを優先した。


 食材を取り寄せると食器や調理器具の確認をしながらさっそく夕飯の準備をする。

 こちらの世界にも最低限の調味料はあるのだが、さすがにコンソメほどの便利な調味料は無い。よって、万能系調味料はこれからも買って損は無いだろう。

 

 さて、今回作るのはポテトグラタンとトマトスープ。

 レシピは簡単だ。ポテトサラダはそのまま食べてもいいのだが、コンソメを少量加えてその上にチーズをのせて焼くと簡単なグラタンになる。

 チーズをのせたポテトサラダにほんのり焦げ目が出来たところで器に乗せて完成。


 カットトマト缶はお好みで水で割って、こちらも少量のコンソメを入れる。鍋でひと煮立ちさせれば立派なトマトスープになる。

 本当はニンニクを入れるともっと美味しいのだが今はこれで我慢だ。

 

 どちらも簡単に作れて安いし十分美味しいはず。あちらの世界で時間がないときに作っていたズボラ飯の経験がここにきて役に立った。

 あっという間に出来上がったグラタンとトマトスープにイリスは驚いていた。


 「見たことがない料理ですが美味しそうです!」


 「じゃあ早速食べようか」

 

 イリスはおそるおそるトマトスープを口に運ぶ。


 「これは今まで食べたことがないほど美味しいスープですね!温かくて幸せな気持ちになります」


 トマトスープはカットトマト缶だけだと素朴な味わいになるところをコンソメで旨味を足した。酸味と旨味がうまくまとまり体が温まる優しいスープに仕上がる。

 

 ポテトグラタンの方も中々の出来だった。

 見た目は単にポテトサラダにチーズをのせただけのグラタン。


 食べてみると程よいジャガイモの歯ごたえとチーズの旨味が存分に発揮されており、文句のない美味しさだった。

 マカロニや野菜があればもっとまともなグラタンに出来るがこちらも今は我慢して手軽さを優先した。


 食べるのに夢中で気づかなかったがイリスがやけに静かだ。イリスの方を見ると何やらグラタンを食べる手を止めて俯いている。


 「どうしたんだ?」

 

 よく見るとイリスは静かに泣いていた。

 

 「あまりにもこの料理が美味しくて・・・」


 「泣くほど美味かったのか?」


 「ええ、このグラタンという料理、チーズとジャガイモの相性が抜群でいくらでも食べてしまいそうです!」

 

 泣きながらグラタンのおいしさについて語るメイドにどう言葉をかければいいか分からなかったが、イリスの口にも合うことが分かって良かった。


 「良かったらこれからも色んな料理作るからさ、泣き止んでくれよ」


 「すいません。久しぶりにこんなに美味しい料理を食べたものですから」


 「普段はどんな料理を食べているんだ?」


 「パンやじゃがいもをよく食べますよ」


 軽く話を聞いたところ、この国では手の込んだ料理はあまりしないようだ。調味料も貴重なので塩コショウのみで味付けするのが多いらしい。

 朝食だけでなく昼食や夕食も芋かパンを食べることが多いそうだ。


 今回のグラタンとトマトスープはイリスの口にも合ったようであっという間に2人で完食した。食パンを出した時も思ったが、イリスは結構食べるのが好きなようなので作り甲斐がある。

 

 初めて異世界で振舞った料理にしてはなかなか上出来だったのではないだろうか。

 こちらの世界でも【業務用スーパー】を使えば自炊経験を生かして元の世界と同じ料理を食べることが出来るのは大きな発見だ。


 あとは食べ物を取り寄せる時に必要なGPの稼ぎ方ももっと研究しないといけない。このまま業務用スーパーで買い物をしているとGPが減る一方なので早めにどうにかしたかった。


 解決しないといけない問題はあるが、外れスキルをうまく使ってスローライフっぽくなってきた。明日もマイペースに頑張ろう。



 その日の深夜。

 自分の寝室で寝ていると何やら外から鳴き声が聞こえてきた。寝ぼけ眼をこすっていると急に屋敷の窓が割れる音がした。


 何事だろうと驚き、自分の部屋の窓から覗いてみると、屋敷の前で灰色の数匹の異形が棒のようなものを振り回し、屋敷の窓を割っていた。

 あれが魔獣というやつなのだろうか。そういえばゲームなどで見るゴブリンと似てる気がする。俺は驚いてイリスを起こしにいった。


「お、おい!イリス!屋敷の外にゴブリンみたいなやつらがいるぞ!」


 俺は驚いて寝ていたイリスの部屋に行き呼びかける。


「ふわぁ、おはようございます。ついに来ましたね」


 イリスは眠気眼でゆったりと起きる。

 ついに来ましたね?何のことだ。


「お聞きにならなかったのですか?この屋敷はよく魔獣に襲われるんですよ」


 イリスはさも当然のように説明した。

 この屋敷には近くの森から魔物が抜けだしてきて襲いに来るのだという。


 イリスは玄関から外に出るとダガーを振り回し慣れた手つきでゴブリンたち切り裂き、あっという間に息の根を絶やした。


「庭が汚れてしまいましたね。ってダイスケ様大丈夫ですか?」


 屋敷の周りではゴブリンの死体が散乱している。イリスも返り血を浴びていて周りもまだ暗いので軽くホラーである。魔獣のいかつい形相と血まみれのイリスに恐怖して体の震えが止まらない。


 俺はてっきりこんな立派な屋敷でゆっくりとスローライフが出来ると思ったのだが大きな勘違いをしていたようだ。

 こんな化け物を対処しながら生きて行かなきゃいけないのか?こっちは弱小ステータスのおっさんなんだぞ?

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