イリス視点
私はダイスケ様と一緒に離れの屋敷に追放されたイリス。
元々は王都の王宮メイドです。
ただ、王宮メイドといっても主に食器の皿洗いをする下級メイドでした。
王宮では陛下や城内の皆様の目に触れないよう地下に大きな調理場があり、それと併設された洗い場があります。私はそこでずっと洗い物をしていました。
数年この仕事をしていましたが流石に手が荒れてきて腰や足が痛くなります。
それでもこの仕事を長年やっていたらいずれ料理を任されたり上級使用人になるのが普通だと言われていました。
そのはずなのですが、私はお皿を割ってしまったり時間内に仕事を終えることができなかったりと仕事を満足にこなせないことが多々ありました。
「イリスちゃん、またお皿割っちゃったの?」
「す、すいません。いつもドジしてしまって」
大半の人は笑って許してくれましたが、一部の人は私のことをトラブルメイカーのイリスと呼び始めました。
「あの子、いつもああなんだってさ」
「まさにトラブルメイカーだな」
自分でも気をつけているのですが時間に追われていると焦ってしまい失敗することが多くありました。そのせいか皿洗い以外の仕事はさせてもらえませんでした。
本来私はメイドではなく冒険者になろうと思っていました。
それは父親が理由です。父は冒険者で生計を立てており戦闘や護身術を私に教えてくれました。
しかし、父親が亡くなると母親と私の懐が厳しくなりました。
「親戚が王宮で働いていてイリスもそこで働いてもいいと言われたわ。そこでお金を稼いでちょうだい」
母親の決定で私は王宮の下級メイドとして雇われることになりました。
王宮の仕事は忙しく毎日くたくたになるほど働かなくてはなりません。
いっそのこと、こんな仕事を辞めて父と同じように冒険者として生きていくことも考えました。しかし、この国で冒険者をするというのは日々の食事や生活に大きな問題があります。
それは何と言ってもセデリア王国のどこにいても魔獣と出会う可能性があるからです。
この国では魔獣に畑や家畜が荒らされるせいで食料が十分に生産できず、食べ物を十分に食べずに飢餓状態になる国民が出始めて問題になっています。
そんな環境の下で冒険に行くことは餓死することと同義でした。それに比べれば王宮は辛い仕事だとしても襲われる心配も餓死する心配もないので安全です。
それでもいつかこの退屈な仕事の状況が変わることを待ち望んでいました。
メイド仲間はほとんどが良い人ですが、中には暴言や八つ当たりなどしてくる人もいます。これは私の立場が低いことが原因です。
お金がないことを理由にこの仕事をしていましたが、さすがに色々と限界が訪れようとしていました。
そして年に一度の勇者召喚の日がやっていきました。
毎年セデリア王国は異世界から勇者様を召喚して北方のゲイブランド魔人国に派遣しています。
勇者様には特別な力が授けられているようで、その能力をスキル鑑定で確認します。
今年も何人かの勇者様が召喚され軒並み良いステータスとスキルを所持しているようでした。
しかしその中の一人、ダイスケ様はあまり良い能力を持っていなかったようです。
神父様と国王陛下、宰相様はそのことについて話し合われたようで、なぜか私が呼ばれました。
玉座の間で私は国王陛下とダイスケ様のやり取りを見ていました。
「無能同士離れの屋敷で暮らすが良い」
陛下はなぜか私を指名してダイスケ様と暮らすように命じました。これには驚きました。
皿洗いだけをする下級メイドが勇者様の身の回りの世話をすることは異例です。もしかしたら上司や同僚が厄介払いのために国王陛下に提案したのかもしれません。
しかし、私にとってはこれは幸運でした。なぜならもう皿洗いだけの毎日を過ごさなくて良いのです。少なくとも皿洗いだけして見下される日々は今日で終わりです。
不安はもちろんありました。
そもそも王都から離れてどうやって生きていくか考えないといけません。
今までは王宮で生きてきたので少ないながらもお給金はもらえていましたし、寝所や身の安全は最低限確保されていました。しかし、命じられたのは離れの屋敷です。
その離れの屋敷は昔から権力闘争で敗れた人物や王宮で処分された人物を追放する場所として利用されていました。
屋敷の近くには広大な魔物の森が隣接しており常に危険が迫る場所です。離れの屋敷に住むなら魔物から身を守る準備はしたほうが良いでしょう。
私は何が起こっても良いように準備をしていました。
魔獣が襲ってきたらどうするか、食料が無くなったら近くに生えている野草やキノコを食べよう、などと考えていました。しかし、少なくとも食料に関しては杞憂に終わりました。
なぜならダイスケ様が持っていた【業務用スーパー】は食料不足を解決する最強のスキルだったからです。




