誘拐されたおっさん
ある日、眼鏡を掛けた若い男が兵士たちを引き連れて屋敷に来た。
その男は屋敷の周りの異種族たちを見ながら「やはりか・・・」と呟いている。
俺は突然の訪問者に困惑していた。いきなりやってきて何だこいつらは。
「私はベルトランという者だ。ダイスケというのは貴様か?」
この男どこかで見たことある。王都で屋台を出した時に王女アナスタシアの隣にいた男ではなかったか。もしかしてあの国王の差し金か?
そうだと答えた瞬間。俺は意識を失った。
◇
目を覚ますと俺は椅子に座っていて手を縛られていた。見渡すとそこは牢屋のような場所。
「手荒な真似をしてすまないが聞きたいことがある」
机を隔て目の前のベルトランが尋ねてくる。
「最近、離れの屋敷で何やら怪しい行動をしているそうじゃないか」
「そんなことはしていない。こっちは平穏に暮らしているだけだ」
「貴様がそう思っているだけで我々にはそうは見えない。まずは貴様の奇怪なスキルについて説明してくれ。少しでも嘘をついたら国家反逆罪で処刑する」
有無を言わせない高圧的な態度。いきなり処刑されて死ぬのも嫌なので正直にスキルのことを話した。
「なるほど、どおりで食料には困らないはずだな。では実際に見せてくれるか?」
あまり気は進まなかったが【業務用スーパー】を開く。どんなスキルなのか説明するために何かを取り寄せてやるか。
俺が選んだのはみんな大好きカスタードプリン。業務用スーパーの定番商品で牛乳パックのような容器にたっぷりプリンが入っている。甘いものを食べさせてペルトランの態度を和らげようという考えだ。
「なんだこの美味さは。異国の甘味よりも質が高いぞ」
ベルトランは恐る恐るプリンを食べたが気に入った様子。夢中で全て食べ終えると何事もなかったかのように話を元に戻した。口の端にプリンがついている。
「ふん、中々美味かったな。しかし別に私は食べ物を求めて貴様をさらったわけではない。本題はそのスキルで食料を大量生産できるかだ。つまり限界があるのか知りたい」
最近知ったがこの国の食糧事情は芳しくはない。その理由は魔獣が各地に出没するので農地が限られてしまい農作物の収穫量が少ないことが原因だ。
昔は農作物が多く取れた地域があったのだが今はゲイブランドという国になって独立して敵対してしまったのだという。
今は大陸からの輸入で賄っているがいつ飢饉が起きてもおかしくはない状況らしい。そこでベルトランは俺のスキルに目を付けたということだ。
「確かにこのスキルを使えばいくらでも異世界の食料を取り出せるぞ。だけどそれより魔獣を浄化させて自分たちで農地を拡大させた方が根本的に解決すると思うんだが、どうだろう」
俺が持論を言うとベルトランは怪訝な顔をした。
「魔獣を浄化?そんなこと出来たら苦労はしない。あの忌まわしき灰魔の呪いによって飢餓状態になれば皆魔物に変異する。そんなことも知らんのか」
灰魔の呪いについては聞いたことがある。それは人間や異種族が飢餓状態になれば魔人や魔獣に変異する呪い。要するに極度の空腹になると魔物になってしまうのだ。
ああ、そういえば屋敷の連中以外は俺が魔獣を浄化できるのを知らないんだな。ベルトランに今まで魔獣たちを浄化させ仲間にした経緯を話した。
「魔獣を浄化する?そんな能力聞いたこともないが・・・。いやなるほど、だからあの屋敷の周りには異種族が住み着いているのか」
頷くベルトランに俺は言葉を続けた。
「このスキルを使えば魔獣を浄化して元の異種族に戻せる。みんな魔獣に怯えているから農地が広がらず農作物が生産できないんだろう?魔獣を浄化したほうが狩り続けるよりよほど現実的じゃないか?」
ベルトランは真剣に耳を傾けていた。先ほどの高圧的な態度は鳴りを潜めている。
しばらく考える素振りをみせると口を開いた。
「そのスキルは同様に魔人も浄化できるのか?」
「魔人?魔獣じゃないのか?」
ベルトランは返答を無視して俺を檻の外に連れ出した。この牢獄のような場所には同じような檻の部屋が続いていた。
しばらく歩いて一番奥の檻まで来るとベルトランは立ち止まった。中には他の檻と同じように人間が投獄されている。しかしこの檻だけが複数人が一緒に放り込まれていた。
「灰魔の呪いは人間にもかかるのは知ってるか?」
檻の中をよく見てみると中にいたのは普通の人間たちではなかった。
中にいる集団は全員痩せこけて灰色の肌をしている。そして焦点が合ってない虚ろな目。明らかに他の人間とは違う何か。
それは全員、魔人と化した元人間たちだった。




