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XXXX お茶会しましょう!

「ところで、あたしは王宮のなかで情報収集してきただけではありません」


 アリスがいたずらっぽく灰色の目を輝かせ、フィルが首をかしげる。


「情報収集以外って……アリスさん、何してきたの?」


「あ、フィル様、あたしのことは呼び捨てで大丈夫ですよ! あたしは男爵の娘とはいえ、公爵家のメイド。つまり、フィル様の家来なんですから!」


「け、家来なんて、そんな……」


「もちろん家来以上の関係になっても大丈夫です。次期当主と年上のメイドの禁断の恋……劇的な感じがしますね!」


 などとアリスが早口で冗談を言うと、フィルは「え、えっと……」と顔を赤くして、わたしの後ろに隠れてしまった。

 ……幼いフィルには早すぎる冗談のような……それに、アリスも「年上のメイド」といっても、まだ14歳の女の子だし。


 わたしは軽くアリスを睨む。


「フィルをとっていっちゃダメなんだからね?」


「わかっていますってば」


 うふふ、とアリスが微笑む。

 わたしは肩をすくめ、シアとレオンは顔を見合わせていた。


「あのー、それで、アリスさんが王宮でしていたことって……」


 おずおずとシアが話を本題へと戻そうとする。アリスはぽんと手を打った。

 

「おっと、本題を忘れるところでした。ですが、シア様も、あたしのことは呼び捨てでいいですよ。あたしは公爵家のメイドで……」


 話がさっきと同じ流れになりそうだったので、わたしはアリスを止めた。

 アリスはおしゃべりで冗談好きで、そして、人がたくさんいるとテンションが上がるタイプだった。

 アリスはさっと小さな箱を出した。


 白くて綺麗な紙の箱だ。

 アリスが胸を張る。


「さあ、この中身は何でしょうか?」


「中身……?」


「みなさん、甘いものは好きですか?」


 フィルとシアとレオンは顔を見合わせて、そして、全員、こくりとうなずいた。

 アリスはますます上機嫌になる。


「それは良かったです」


「お菓子でも入っているの?」


 とわたしが聞くと、アリスはそのとおりと答えた。


「厨房の方と仲良くなりまして。はちみつ漬け果実(メンブリージョ)とチーズ、それにおいしそうなパンをいただいたんです」


 そして、アリスが白い箱を開ける。

 そこには、ルビー色の綺麗な粒が入っていた。

 正方形に整えられたそれは、どうやらジャムのようだった。わたしは見たことも食べたこともない食べ物だ。


「フィル、これ、知ってる?」


「うん……。カリンの果実をね、はちみつとレモン汁で煮込んだものだと思う。チーズに合わせると……とってもおいしかったと思う」


 さすがフィル。食べ物のことなら何でも知ってる。


「クレア様とフィル様が、お屋敷で一緒にお菓子を食べていたと聞いて、羨ましくなって。なので、ここでちょっとしたお茶会をしましょう」


 いつのまにか、レオンがポットを手に取り、紅茶の準備をしていた。その顔は生き生きとしていて、お菓子を食べるのを楽しみにしているみたいだった。

 シアも同様で、わくわくとした表情で、お茶が入るのを待っている。

 

 部屋は広めで、ちょうど中央にテーブルがあって、6人分の椅子がある。

 わたしたちは5人だから、座ってお茶をできるはずだ。

 

 楽しそうなアリス、シア、レオンを見て、フィルも柔らかい表情を浮かべていた。


「……お姉ちゃん」


「なに?」


「公爵家の人たちは、みんないい人だね」


「そう?」


「うん。前の家では、こんなふうに、みんなでお菓子を食べることなんてなかったし……」


 王族の家にいたとき、フィルは孤独だった。誰にも愛されていなくて、使用人みたいに扱われていて。

 料理のことには詳しいけれど、仲の良い人と一緒に食べるなんてこともなかったと思う。


 でも……今は違う。

 わたしはもちろん、アリスも、フィルの味方だ。シアも最初こそフィルとぎくしゃくしていたけれど、最近ではそうでもないみたいだし。

 それに、レオンはフィルの友達だ。


 レオンがティーカップをフィルの前に置く。

 レオンは小声で「どうぞ」とフィルに言った。

 フィルは微笑んで「ありがとう」とつぶやく。


「……その……こないだ……フィル様の作った乳粥(アロス・コン・レチェ)、おいしかったです」


 レオンは照れたように下を向き、言う。

 フィルはびっくりしたように、綺麗な黒い瞳を見開いた。


「……褒めてくれて嬉しいな」


 二人のあいだには、和やかな空気が流れていた。

 ……レオンのやつ、わたしにはこんな態度を見せないくせに。


 いつかは、レオンと仲良くなろうと心のなかで決意していると、わたしの分のお茶もレオンは渡してくれた。

 いよいよ準備が整って、わたしたちはみんなテーブルの前の椅子にちょこんと座った。

 アリス以外はまだ小柄な子どもだから、椅子がちょっと大きすぎる。


 わたしも他のみんなも、待ちきれないとばかりに、お菓子に取り掛かろうとした。

 さあ、どんな味だろう?


 わたしがわくわくしていたそのとき、部屋の扉がノックされ、一人の少年が入ってきた。

 彼はわたしたちを見ると、青く澄んだ瞳をぱちくりとさせた。


「……なにやってるの?」


 王太子アルフォンソの問いに、わたしたちは顔を見合わせた。

メンブリージョはこの話を書くためにスペインのお菓子をいろいろ調べていて知ったのですが、画像検索するととても美味しそうな見た目です……。一度食べてみたい。


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