XXX わたしのメイド、フィル!
王宮ではメイド服まで豪華なのか、白い布地に綺麗な金色の糸で刺繍が縫い付けられている。
ふわりとしたスカートは、ぱっと見ただけで高級品とわかった。頭には愛くるしいデザインのカチューシャがついている。
メイド服だから当然女物の服で、それを着ているのも、どう見ても黒髪の可愛らしい少女だ。
ただ、わたしはその子が女の子じゃないことを知ってる。
「ふぃ、フィル……!?」
わたしの言葉に、メイド服を着たフィルが顔を真赤にした。
どうしてフィルが女装しているんだろう?
部屋の檻の前で、シアがしれっとした顔で言う。
「男性はクレア様との面会が認められないので、フィル様には女装してもらいました」
「な、なるほど……」
わたしはつぶやいて、あらためてフィルをじっくりと眺めた。
黒い綺麗な髪に可愛らしいリボンもつけていて、スカートの裾の下には、白くほっそりとした足が見えている。
黒い宝石みたいな瞳は、とても恥ずかしそうに潤んでいた。
フィルには悪いけど……かなり似合っている。
思わず、檻をつかむ手に力が入る。
監禁されていなければ、フィルを抱きしめたいところだけど、あいにく部屋の手前の檻が邪魔をしている。
シアが言う。
「王太子殿下は、侍女一人のみなら、クレア様のおそばにいてもいいとおっしゃていました。そうでないと気が滅入るだろうから、と。つまり、同じ部屋で寝泊まりするということですね」
「なら、アリスが……」
「いえ、アリスさんには、クレア様の解放のために働いてもらわないといけません。本当だったら、ぜひ……ぜひ、私が一緒の部屋で寝起きしたいところなのですが……」
「シアも他に用があるのね?」
「はい。私も一緒になって監禁されてしまってはクレア様を助けることができませんから」
たしかに、そうだ。
王太子の監禁から、私を救ってくれそうなのは、シアとアリスぐらいだ。
「そこでフィル様の出番です。クレア様のそばに、フィル様は侍女として仕えていただきます」
「へ? でも……フィルって男の子……」
「だから、女装していただいているんです」
フィルと二人きりで一緒の部屋……。
悪くない。
悪くないけど、監禁という状況でなければもっといいんだけれど。
シアによれば、これはアリスの提案らしい。「フィル様が一緒にいるのが、クレア様にとっては一番いいでしょうから」というのがアリスの言葉で、シアもしぶしぶそれにうなずいたらしい。
やがて王太子の部下らしき人がやってきた。その人が檻の鍵を開けてくれて、フィルはしれっとわたしのメイドということで、部屋の中に入った。
「いいなあ、クレア様と一緒の部屋……」
シアは小さくつぶやきながら、王太子の部下とともに、名残おしそうに去って行った。
残されたのは、わたしとフィルのみとなる。
メイド服のフィルがおずおずとわたしを見上げる。
「あの……お姉ちゃん」
「なに?」
「ぼくのこの格好……変じゃない?」
わたしはにっこりと微笑んだ。
「ぜんぜん! とてもよく似合ってる!」
「……あ、ありがとう」
「すごく可愛い!」
「ぼく、喜んでいいのかな……」
フィルが複雑そうな表情をして、首をかしげる。
わたしは、カチューシャのついたフィルの頭を軽く撫でた。
フィルのメイド服姿なんて、なかなか見れない。
「フィルがわたしのメイド……。ね……メイドっぽいこと言ってほしいな」
わたしがフィルの耳元でささやくと、フィルは顔をますます赤くした。
そして、小さな声で言う。
「お……おかえりなさいませ、クレアさま」
「やっぱり……フィルって可愛い。まるで妹みたい」
そう言うと、フィルは涙目で頬を膨らませた。
「ぼ、ぼくはクレアお姉ちゃんの弟だよ」
「うんうん。わかってる。だからね、お屋敷に戻ったら、わたしのドレスを着てみない?」
「わ、わかってない……」
「きっと似合うと思うの」
「そ、そうかなあ。……でも、クレアお姉ちゃんが見てみたいなら、一度ぐらい着てみる」
「楽しみにしてるね、フィル」
わたしはもう一度、フィルの頭を撫でると、フィルはこくっとうなずいた。
さて、屋敷に戻るには、王太子の監禁から逃れないといけない。
問題は、どうしてわたしが監禁されているのか、だ。
監禁令嬢クレアとメイド少年フィルの生活の始まり。次回は土曜日ぐらいの更新です。
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