XXVIII 監禁?
飛空艇アガフィヤ号に乗って、わたしたちは王都アストゥリアスに到着した。
王立学園は王都にあったから、前回の人生でも王都は見慣れている。
それでも、久しぶりにその街並みを見ると、ため息が出てくる。
公爵領の町とは、やっぱり規模が違う。
放射状に広がる街は、巨大な城壁に囲まれている。
街の中心にあるのが王宮で、それを貴族の屋敷が取り囲み、さらにその外側に商人や職人の住む市街地が広がっている。
わたしたちが飛空艇から降りたのは、王宮近くにある空軍の港だった。
さすがは王太子殿下のお戻りだけあって、多くの軍人たちが出迎えに来ている。
フィルは完全に怯えていて、ぎゅっとわたしにしがみついた。
歩き出そうとする殿下を、わたしは呼び止める
「あの……やっぱり、わたしたちは王都の公爵屋敷に滞在しようかと思うのですが……」
王都には、リアレス公爵家の屋敷もある。
当主が王都に来たときに滞在するためでもあるし、王都の政治について情報を集めるために有能な家臣たちもたくさん詰めている。
けれど、王太子殿下は首を横に振った。
「クレアには王宮に住んでほしくて、王都まで来てもらったんだから」
どうしても、王太子はわたしを自分のそばに置いておくつもりらしい。
わたしたちは、王太子に連れられて、広大な庭園と、白い美しい壁を持つ王宮へと入った。
内装も立派で、見るだけで最高級品だとわかる装飾で埋め尽くされていた。
フィルやアリス、レオンたちは目を丸くして、王宮を眺めていた。
「さすが王様が住むだけあって、すごい場所ですねえ」
とメイドのアリスはつぶやき、フィルがそれにこくこくとうなずく。
二人も、わたしと一緒に王宮に滞在することになる。
フィルも王族だけど、傍系の父セシリオ殿下の屋敷にずっと住んでいたから、王宮に入ったことはないみたいだ。
「……クレアお姉ちゃんは驚かないんだね」
「うーん、そうね。わたしは何度も入ったことがあるから」
「王太子殿下の婚約者だから?」
「そうそう」
わたしがそう言うと、なぜかフィルは「ふうん」とつぶやいて、複雑そうな顔をした。
王宮なんてできれば来たくなかったけど。
でも、フィルもアリスもいてくれるし。
それにシアも。
そのシアは緊張した様子だった。でも、それはアリスたちの緊張とは少し違う気がする。
「クレア様の身に危険なことが起こったら……私が命にかえてもお守りします」
「ありがとう。でも、ちょっとおおげさかな」
わたしはくすっと笑った。
ここは王宮で、危険なことなんてあるはずもない。今のところ、王太子も敵じゃないし。
とりあえず、わたしは王太子の部屋に呼ばれることになった。
フィルが不安そうに、黒い瞳でわたしを見つめる。
「クレアお姉ちゃん……その……」
「大丈夫。また後ですぐに会えるから。それまではアリスお姉ちゃんとシアお姉ちゃんと一緒にいてね」
わたしが冗談めかしていうと「任せてください」とアリスは胸を張ってみせた。
「あたしがフィル様を可愛がってさしあげますから!」
「え、えっと……」
フィルが怯えたように後ずさる。
アリスはそんなフィルを見て、くすくすと笑った。
「でも、やっぱり、フィル様にとっては、クレア様だけがお姉ちゃんなんですね」
「うん……クレアお姉ちゃんがいないと……ぼくはだめだから」
フィルがそう言ってくれるのは嬉しいけど、アリスにはある程度懐いてもらわないと困る気もする。
一方のシアは上の空で、フィルと同じように、紅い瞳でわたしを心配そうに見つめていた。
なにがそんなにシアを不安にさせているんだろう?
わたしはフィルの髪をくしゃくしゃと撫でた。
フィルは不安そうな表情のままだったけど、少し嬉しそうにしていた。
わたしはシアの頭にもぽんと手を乗せた。
シアはきょとんとし、それから顔を赤くした。
「く、クレア様……」
「シアもわたしが戻ってくるまで、いい子にしていてね?」
「は、はい……」
わたしとシアは同い年。でも、誕生日はシアの方が後だったはず。それに、今のわたしは中身17歳だし。
今回の人生では、シアはわたしの妹ということになっている。
いろいろあったけど、前回も今回も、シアは素直で、わたしを慕ってくれる良い子だ。
わたしは二人にひらひらと手を振ると、王太子殿下についていくことにした。
「きっと私の部屋を見ると驚くことになるだろう」
「そんなにすごい部屋なのですか?」
「ああ」
王太子はなぜか上機嫌だった。
王宮の奥になればなるほど、重要な王族が住んでいる。
だから、わたしたちは王宮の奥へと向かっているんだけど……王太子の部屋って、前回の人生では、別の方向にあったような……?
でも、わたしは「まあ、いいか」と思って、そのまま王宮の五階の部屋に連れられてきた。
そして、王太子は部屋の扉を開ける。
立派な部屋なんだろうなあ、というわたしの予想は完璧に裏切られた。
豪華な部屋であることには間違いない。
でも……窓には鉄格子がはめられていた。
部屋の手前あたりには檻があって、出入り口と部屋の中心部を区切っている。
「これは……」
わたしが慌てて、振り返ると王太子に軽く突き飛ばされた。
わたしがよろめいて、檻のなかに入ると、王太子は檻の扉を閉め、そして鍵をかけてしまった。
「で、殿下……どういうことですか!?」
「悪いね、クレア。でも、これも私とクレアがずっと一緒にいるために必要なことなんだよ」
殿下は青い瞳を輝かせ、そして不思議な微笑みを浮かべた。
次回は王太子視点です(更新は金曜日ぐらいの予定です)。
面白い、続きが気になる、という方は
・ブックマーク
・評価の「☆☆☆☆☆」ボタン
で応援いただきますととすごく嬉しいです。







