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やり直し悪役令嬢は、幼い弟(天使)を溺愛します 2023/7/15コミックス2️⃣巻発売!  作者: 軽井広@北欧美少女2&キミの理想のメイドになる!
第二章 王太子という名の危機

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XXVII どうなりたいか

 ともかく、わたしは王宮に行くことになった。

 なるべく早く屋敷に戻りたいところだけど、当面は仕方がない。

 王太子がそう望んでいるのだから。


 なぜ王太子がわたしを王宮へ連れて行くのか。

 それが問題だ。


 前回の人生では起きなかったイベントなのだから。


 王立空軍所属の飛空戦艦『アガフィヤ』の甲板の上に立ち、わたしはため息をついた。

 強い風が吹き付けて、わたしの焦げ茶色の髪を揺らす。

 アガフィヤはさすが空軍の戦艦だけあって、その大きさは空飛ぶ要塞といってもおかしくないほどだ。

 洗練された機能美が、この船にはある。


 飛空艇大好きなわたしだから、普段ならテンションが上がるところなのだけれど。

 前回の人生でわたしを捨てた相手に連れられての旅だから、気分は浮かない。


 とはいえ、フィルやアリスたちがわたしについてきてくれている。シアもついてきているのだけれど、病気だといって自室に引きこもってしまった。王太子の名前を聞いて以来、シアの様子がなんだかおかしい。


 わたしは、遠く雲の向こうに輝く夕日を見つめた。

 もうすぐ、夜が来る。

 

「……クレアお姉ちゃん?」


 声に振り返ると、フィルがいた。フィルは恐る恐る、といった様子で、こちらに歩いてくる。

 飛んでいる船の上だから、怖いんだろう

 わたしはにっこりと微笑み、そして、フィルの手をつかんだ。

 そのままフィルを抱き寄せる。


「これで怖くないでしょう?」


 フィルは恥ずかしそうにうつむきながら、こくこくとうなずいた。

 わたしは手すりのついた柵の向こうを指差した。


「あれは、たぶんアンカーストレム公爵領ね」


 真下に見えるのは、城壁に囲まれた都市だった。

 一面が雪景色だけれど、教会の尖塔や公爵邸のような大規模な建物がいくつか見て取れる。


 アンカーストレム公爵は、リアレス公爵と並ぶ帝国七大貴族の一つだ。

 この公爵領を超えると、いよいよ王都、ということになる。


 フィルは興味深そうに、飛空戦艦から見える景色を眺めていた。

 わたしはフィルに尋ねてみる。


「王都からうちに来るときは、飛空艇から景色を見なかったの?」


「うん……ずっと部屋に閉じこもっていたから」


 リアレス公爵領に来る前、フィルは孤独だった。


「王都にも……いい思い出がないよ」


「ごめんね。わたしのわがままでフィルにまでついてきてもらっちゃって」


 フィルは慌てて、ふるふると首を横に振った。


「ううん。ぼくも……お姉ちゃんと一緒にいたいから。それに……いまはお姉ちゃんがいるから、王都もきっと悪くないと思う」


「そっか」

  

 わたしは嬉しくなって、フィルの頭を軽く撫でる。


 足音がした。

 気がつくと、王太子アルフォンソ殿下がわたしの後ろにいた。

 王太子の金色の髪の幾筋かが、風に吹かれて舞っている。


「ここにいたのか……クレア。探したんだよ」


「申し訳ありません。なにかご用事がありましたでしょうか?」


「ああ、まあね……」


 そして、王太子はちらりとフィルを見た。

 フィルはびくっと震え、そして、わたしを一度見上げると、たたっと駆け出して、船内へと戻っていった。


 せっかくのフィルとの時間だったのに。

 でも、婚約者である王太子殿下を邪険に扱うわけにはいかない。


「弟と仲がよいのだな」


「ええ」


 王太子の顔に、憂鬱そうな色が浮かんだ。

 フィルと仲良くすることが、王太子には気がかりらしい。

 婚約者だからヤキモチを焼いている、とかならいいのだけれど、そうではない気がする。


 王太子は甲板の柵の手すりにもたれかかった。そして、その青い瞳でわたしを見つめる。

 夕日に照らされた殿下は、改めて見ても美しかった。


 王太子という至高の身分を持ちながら、その容姿も抜群に優れている。それだけでなくて、12歳にして剣術の腕も一流で、学問にも熱心だった。


 一点の非の打ち所もない完璧超人。それが殿下だ

 とても真面目で、努力家で、優しい性格をしている。

 と、前回の人生のわたしは思っていた。


 だけど、殿下はわたしを捨てた。だから、わたしは殿下をまっすぐな瞳では見られない。

 王太子はゆっくりと口を開く。


「……クレアは、大人になったら、何になりたい?」


 唐突な質問に、わたしは面食らった。

 お菓子屋さんになりたいとか、そういう話?


 ……そういえば、この質問、前回の人生でも王太子にされたような……。

 あれは学園だったか、わたしの家の屋敷だったか、王宮だったか。


 思い出せないけれど、大人になったら何になりたいか、と12歳のときに聞かれた記憶がある。

 そのとき、わたしは王太子のことが好きで、そして、自分が未来の王妃になると信じていた。

 だから、「立派な王妃になりたいです」と答えてみたと思う。

 そのとき……王太子は「そうか」とつぶやき、なぜか冷たい瞳をしていた。

 

 あの答えは、もしかして、間違いだったのかもしれない。王太子に嫌われる最初の原因だったのかも。

 理由はわからなくて、あのときの王太子の冷たい反応にわたしは戸惑った。ただ、ともかく、今度はべつの答えをしたほうが良さそうだ。


 それに、立派な王妃になるつもりなんて、欠片もない。

 わたしは飛空艇の外を指差した。


 空を一羽の鳩がゆっくりと飛んでいる。飛空戦艦よりも鳩は遅くて、どんどん小さくなって、やがて見えなくなった。


「ああいうふうになりたいですね」


 王太子の顔に疑問符が浮かんだ。

 わたしは肩をすくめる。


「わたしは、鷲や鷹のような偉大な鳥になりたいとは言いません。でも、鳩でもいいから、自由に空を飛んでいたいんです」


「不思議な答えだな」


 王太子がきょとんとした目をしているのを見て、急に恥ずかしくなってきた。

 もっと、普通の回答をすればよかったかも。

 でも。


「何になりたいか、なんてわかりません。でも、どうなりたいかなら、わかるんです。わたしは自由でいたいだけですから」


 王妃なんて高望みはしない。

 ただ、自由に楽しく生きていられれば、それでいい。そして、フィルやアリスがそばにいてくれれば、幸せだ。

 

 王太子は憂いを帯びた瞳で、空を見つめていた。


「そうか。そうだな……私も自由でありたいよ。だが……」


 それは叶わない。

 殿下は王太子なのだから、それに伴う責任がある。


 ただ、前回の人生で、殿下は無理にでも、シアを選ぼうとした。


 それだけの魅力がシアにはあったんだと思う。まあ、もちろん婚約者のわたしの立場からすれば、たまったものじゃないんだけれど。

 でも、殿下もその気になれば、自由になれるはずだ。


「きっと、殿下を自由にしてくれる方が現れますよ」


「そうかな」


「はい」


 わたしが微笑むと、王太子は軽くうなずき、わたしに微笑んでみせた。

しばらく更新頻度が落ちます。次回の更新は火曜日ぐらいです。


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