13話 街の外に出よう
モニカとリリベルは冒険者としての依頼を受けるため、街の外へと向かう。
彼女らに同行するアレスも、二人と共に街を囲う城壁の門をくぐった。
「おお、のどかな場所だなぁ……。そうそう、こういうのだよ、こういうのを求めてたんだ」
城壁の外の風景を見たアレスが感嘆の声を漏らし、満足げにうなづく。
目の前に広がっているのは広大な草原だ。
起伏の少ない平原に丈の短い緑の草が青々と生い茂っていて、少し遠くには草を食む羊の群れと、それを見守る羊飼いたちの姿が見える。
転生してからずっと自然環境の一切ない精霊界で暮らしていたアレスにとって、その牧歌的な風景はとても感動的なものだった。
「なに言ってんのよ。こんなの、どこにでもある田舎の景色じゃない」
アレスが風に香るすがすがしい草の匂いを楽しんでいると、その様子をジト目で見つめていたリリベルがどこか呆れた様子で声をかけてきた。
「いやいや、そこがいいんじゃないか。それに、どこにでもあるからといって、その良さが失われる訳じゃないだろ?」
「言われてみれば……確かに……。――っ!? フン、へ、変なヤツ!」
それがどうした、とでも言うように問いかけるアレスに、リリベルは少しだけ関心したような表情になるが、すぐにハッとした表情に変わり、無理やり不機嫌そうな顔を作って視線を逸らす。
そんな素直じゃない反応にアレスが肩をすくめると、二人のやり取りを見守っていたモニカがクスリと笑みをこぼした。
「な、なに笑ってんのよモニカ!?」
「ふふふ、なんでもないですよ?」
「だーかーらー! その意味ありげな笑顔はなんなのよ!?」
「いえ、ただ、リリベルさんのこと、今までちょっと誤解してたんだなぁ、って分かって嬉しかっただけですよ」
わずかに頬を染めたリリベルが決まりの悪そうな様子で講義するが、モニカは優しげな笑顔でその追及をかわし、こっそりとアレスに耳打ちをする。
「アレスさんの言った通り、リリベルちゃんって、不機嫌そうな顔してる時も別に怒ってる訳じゃないんですね」
どうやらモニカも、リリベルの反応を第三者の目線で観察することで、彼女の素直でない性格に気づけたようだ。
「誤解が解けたようでなによりだ。分かりやすい子だったでしょ?」
「はい! とっても安心しました!」
「ちょ、ちょっと!? その内緒話はなんのよ!? こ、コラ、二人して微笑ましいものでも見るような目を向けんな!?」
必死に抗議するリリベルだったが、アレスとモニカはそれを笑顔であしらう。
そんな騒がしいやり取りをしつつ、三人は街の門から外へと延びる道を進んでいった。
草原の中を走る道は踏み固めて作られたむき出しの土の道で、少し歩くと、前方に木がまばらに生えた林が見えてくる。
「おっ、あそこが目的地かな?」
「はい、あの林に生息するエレメントスライムってモンスターを駆除するのが今回の依頼内容ですね」
「スライムか……」
元日本人のアレスにとって、スライムといえば某国民的RPGに出てくるなんの能力も持っていない最弱のモンスターが真っ先に思い浮かぶ。
だが、他の作品では強力な酸で装備を溶かしたり、人の姿に擬態したりする凶悪な設定で出てくる場合もあると知っているため、この世界でのスライムの扱いは予想しにくい。
「どんなヤツなの? やっぱり魔法が使える学生への依頼だし、なにか特別な能力を持ってたりする?」
「そうですね、エレメンタルスライムは普通の武器で攻撃しても効果がないので、魔法じゃないとなかなか駆除することができないんです」
「魔法の使えない普通の冒険者にとっては、逃げるしかないほどの強敵ってことか」
「この林には一般の冒険者の方はもちろんですが、周辺の村から木こりの方とかも来ますから、スライムの駆除は魔法学院の生徒の重要な役割になっています。動きは遅いので、攻撃魔法が使えれば簡単に駆除できるんですよ」
「なるほど、そんなモンスターがいるのに魔法を使える人材が少ないんじゃ、学生の動員も仕方ない話だな」
モニカの説明を聞いてアレスが頷いていると、横からリリベルが口を挟んでくる。
「なによ、あんた依頼の内容も知らずについて来てたの?」
「まあ、ギルドで騒動に巻き込まれる前は薬草採取の依頼を受ける気だったからなあ。それに、どんな依頼だろうと俺がやることは変わらないから」
「あっそ。なら、せいぜい邪魔だけはしないでよね。ほら、もう林に入るわよ」
アレスはリリベルの相変わらずなそっけない態度に苦笑を漏らしつつ、林の中に目を向ける。
「この辺はスライムが結構多いな……というか、スライム以外はもっと奥に行かないといないのか」
「そうだけど……っていうかなんで分かんのよ?」
「魔力を探れば周囲一帯の索敵くらい簡単だ」
「へえ、そんなことがホントにできるのなら、なかなか便利じゃない。で、範囲はどのくらいなの?」
「この林全体と、その奥にある森も全部分かる。やろうと思えば学院にいる人間の位置だって探知できる」
「は、はあ!? なに言ってんの!? そんなことできる訳ないじゃない!?」
リリベルが驚愕の表情で否定するが、アレスには実際にできてしまうのだ。
「まあ、人間の常識に当てはめたらそうだろうな」
「リリベルさん、アレスさんは龍王さまですから、それくらいできてもおかしくないですよ」
「だから、私はそんなの信じないって言ってるでしょ!?」
モニカがフォローするも、リリベルは頑なに信用しようとしない。
「おいおい、そんなこと言ってる場合じゃないぞ。騒いだせいでそこそこの数が近づいて来た」
「っ!?」
アレスの警告に、リリベルとモニカは即座に迎撃態勢を取る。
二人が緊張した面持ちで周囲を見渡していると、近くの茂みから突然複数の影が飛び出してくるのだった。




