10話 友達ができたようです
「ですから、安全性の観点より、この依頼はおひとりでは受けられないというだけです」
「そんなの護衛を雇えばいいだけでしょ!?」
「はぁ……あなたは平民じゃないですか」
「だからどうしたっていうのよ!? 私はフラウゼル商会、商会長の娘よ! 護衛を雇うお金くらい十分持ってるわ!」
冒険者ギルドの受付窓口で、ギルド職員を相手にリリベルが抗議の声を上げている。
どうやら、リリベルが受けようとした依頼の手続きを断られたようだ。
「そうですか。ですが、当ギルドでは貴族でなければ護衛を雇えないことはご存じで?」
「護衛を雇うことくらい、こっちの自由でしょ!」
「当ギルドでは主に、学院に通う貴族の方々の安全のために優秀な冒険者を護衛として集めているのです。あなたのような平民のための護衛なんてひとりもいません」
「そんなのおかしいじゃない! 私だって貴族と同じ学費を学院に払ってるのよ!?」
「だからなんだというのですか? あなたは所詮、平民じゃないですか」
「ああもう!! これだから貴族ってやつは!!」
おざなりな態度の職員にあしらわれ、怒り心頭といった様子で憤慨するリリベル。
そんな様子を少し離れた場所から眺めていたアレスが、気になったことをモニカに問いかける。
「護衛が雇えないなら、他の学生とパーティを組めばいいんじゃないの?」
「そうなんですけど……リリベルさんにもいろいろ事情があって、いつもひとりで行動してるんです」
「どこかの商会長の娘だとか言ってたけど、その関係?」
「はい……リリベルさんのお家は帝国有数の大商会をやっていますから」
「それならむしろ、いろんな思惑の人が周りに集まってきそうだけどなあ」
「そういう訳にもいかないんです。貴族のみなさまはどんどん大きくなっていくフラウゼル商会のことをあまりよく思ってなくて、それに、この学院は貴族さまの影響力がとても強いんです」
「なるほど、リリベルと関わると貴族の学生に目をつけられるって訳ね」
貴族たちは、貴族に迫る影響力を持ち始めた大商会を警戒しつつ、生意気だと毛嫌いしているのだろう。
「ちょうどいいじゃないか。お互い学院では肩身の狭い身なんだから、協力し合えるんじゃない?」
リリベルの起こした騒動を絶好のチャンスと見たアレスがモニカを促す。
「でも、わたし、リリベルさんのこと怒らせてばっかりで、嫌われてるんじゃないかって――」
「いやいや、そんなことないさ。あの子もモニカと仲良くしたがってるから。モニカがなにか困ってるとき、よく手を貸してくれるんでしょ? 嫌ってたらそんなことはしない。怒ってるように見えるのは、素直じゃなくて誰かに好意を伝えるのが苦手だからなんじゃない?」
「そうなんでしょうか……?」
「まず間違いなくそうだろうね。だから、モニカから好意を伝えてみればきっと仲良くなれる。それに、さっき助けてもらったお礼に、今、モニカがあの子の助けになってあげるべきなんじゃない?」
「……」
アレスの助言に、モニカはうつむいてしばらく考え込んだ。
だが、やがてモニカは顔を上げ、決意を固めたような目でまっすぐにアレスを見据える。
「そうですよね……わたし、ちょっと行ってきます!」
「うん、がんばって」
緊張した面持ちで宣言したモニカを、アレスは笑顔で送り出す。
モニカは、受付でギルド職員に抗議を続けるリリベルの元へゆっくりと歩いて行った。
「あ、あのっ!!」
「なによ! 今ここは私が使ってんの! なにか文句ある!? ……って、も、モニカ!?」
モニカが精いっぱいの勇気を振り絞るように大声で呼びかけると、振り返ったリリベルが声の主を確認して驚きの声を上げる。
「えっと、その……わたしとパーティを組んでくれませんか!!」
「ええっ!? ど、どうしたのよ、急に!?」
「その依頼、ひとりで受けられないなら、わたしと一緒に受けませんか!?」
「あ、ああ、そういうこと……確かにそりゃそうだけど……でも……」
突然の申し出に、リリベルは戸惑うように口ごもった。
すると、周囲で騒動を見ていた学生たちが騒ぎ立てる。
「おい、あいつ、例のまともに魔法も使えない落ちこぼれだろ?」
「ははは、なんだ、ただのお荷物か。まあ、あの鼻持ちならない商人の娘にはお似合いの仲間じゃないか」
そんな二人を嘲るような会話がギルド中に広がっていく。
「ああもう! ちょっとこっち来なさい!」
「へ? わっ、わわわ!」
ギルド内の空気にしびれを切らしたリリベルが、モニカの手を引きギルドの外へと引っ張っていく。
そして、冒険者ギルドの脇にある路地裏まで連れていくと、険しい表情で問いかけた。
「あんた、正気……!? わたしとパーティを組むなんて、カトリーナは絶対いい顔しないわよ?」
「……そうかもしれません」
「じゃあ、どういうつもりなのよ!?」
「それでも! わたし……リリベルさんと友達になりたいんです!」
「……っ!?」
モニカが思い切ったように自分の思いを告げると、リリベルは面食らったように赤面する。
「今まで、リリベルさんのやさしさに甘えてばかりでしたけど……昨日、やっと魔法をちゃんと使えるようになったので、少しくらいなら、わたしでもリリベルさんの手助けができると思うんです! わたしとパーティを組んでいただけませんか!?」
「べ、別に恩を着せようとしてたわけじゃ……」
モニカの真摯な言葉に、ばつが悪そうに口ごもるリリベルだったが、しばらく視線をさまよわせると、わずかに頬を染め、そっぽを向きながらぎこちなく言葉を紡ぐ。
「じゃ、じゃあ、さんづけでなんて呼ばないでよ……と、友達なんでしょ……?」
その言葉を聞いて、モニカはパアッと花が咲いたように嬉しそうな笑みを浮かべる。
「は、はいっ! 分かりました! リリベルちゃん!」
「ちょ、ちょっと! ちゃんづけはよしなさいよ!? ……は、恥ずかしいじゃない」
「え……ダメ、ですか……? でも、わたし……呼び捨てにするのは、ちょっと抵抗が……」
「わ、分かったわよ! べ、別にいいわよそれで!」
悲しそうな表情になるモニカに、焦ったリリベルが慌てて言葉を翻す。
「いいんですか? ……えへへ、ありがとうございます!」
「ま、まったくもう!」
嬉しくてたまらないといった満面の笑みを浮かべるモニカと、頬を染めながらも照れ隠しをするように不機嫌そうな表情をつくるリリベル。
二人にこっそりとついていって影ながら見守っていたアレスが、そんな初々しいやり取りを見て優しげに微笑んだ。
その後、モニカとリリベルの二人は、依頼を受ける手続きをするために再び冒険者ギルドへと入っていった。
アレスも二人に合流しようと後に続く。
すると、ギルド内に不穏な空気が流れていることに気づく。
ギルドの中央で、三人の少女たちがモニカたちを待ち構えていたのだ。
「あ~ら、モニカさん。貴方がギルドで騒ぎを起こしていると聞いてわざわざ来てみれば、なんて勝手なことをしているのでしょうか」
「か、カトリーナさま……」
三人の少女の中心に立つ、カトリーナと呼ばれた赤髪縦ロールの少女は、どこかとげとげしい威圧的な口調でモニカに声をかけてくるのだった。




