テルフラント、白竜
部屋を出た俺は、並んでいた侍女の1人に尋ねた。
「医務室はどこだ?」
「現在位置が東棟二階最奥の部屋前、医務室はこの下の一階にございます。」
「分かったありがとう。」
俺は階段を下りて、一階の医務室に向かった。にしても、広い!まあ神界の神殿の方が広かったが、あそこは瞬間移動し放題だったからな。
階段を下りてすぐのところに、医務室はあった。ここにテルフラントがいるはずだ。
医務室のドアを開けると、何人もの白衣を着た医者がいた。ベッドの上に横たわっているのは患者だろうか。
「お怪我ですか?ご病気ですか?」
医者の1人が聞いてきた。
「テルフラントはいるか?」
「少々お待ちください。」
医者は医務室の奥に消えていった。
この宮殿は医務室まで広い。ここまで広いと、この宮殿の人達は大変だろう。
少しして、テルフラントが現れた。
「おや、貴方は先ほどの…」
「お前さっき回復魔法使ったとき、白竜がどうとか言ってたろ。」
「ええ。」
「それについて詳しく教えて欲しい。」
テルフラントが険しい表情になった。
「…貴方も、白竜様を狙う輩ですか?」
「いや、そんなことに興味はない。」
「…ならばお話しましょう。トレン王国北東部、アレキメドラ帝国との国境に、『白竜山脈』という名の山脈があります。」
白竜山脈……やはりそうか。
「私はその麓にある、『白竜の民の里』の出身です。」
白竜の民の里?なんだそりゃ?
「白竜の民は、かつては白竜山脈最奥の神殿に祀られている白竜様の従者だったそうで、山脈の洞窟などで生活していたそうですが、白い嵐の吹き荒れる白竜山脈の厳しい環境下で人間が生き延びることは難しく、麓に下りて集落をつくった……という言い伝えがあります。」
神殿…白い嵐…どうやら間違いなさそうだ。
「その里は今でも?」
「はい、私も年に一度は帰郷していますし、毎月里から手紙が送られてきますので。」
よし、まだあるんだな。
「我々白竜の民は、白竜様の加護を受けているので、〈白竜魔法〉という特別な魔法を使えるのです。まあ、通常の魔法より消費魔力が少ないだけで、効果は通常の魔法と同じですがね。」
なるほど。つまり上級回復魔法を連発できるのか。そりゃ王宮専属の医師になってもおかしくないわな。
「あの、待たせている患者がいるので、私はこれで……」
「ああ、どうもありがとう。」
「はい。では……」
「あ、あとそうだ。その白竜様ってのを狙う輩ってのは?」
「白竜様は伝説に等しい存在。白竜山脈を登るには、我々白竜の民の許可が必要なのですが、神殿に祀られている御神体の鏡を狙って許可なく山に登る輩がいるのです。」
どこの世界にもそういう奴はいるもんだなー。
「そうか。じゃあ話を聞かせてくれた礼に、そいつらなんとかしといてやる。」
「え?あ、はい…。」
「じゃあな。」
俺は医務室を出た。
王宮の長く広い廊下を一人歩く。
辺りは静まり返っていて、俺の足音だけが響く。
白竜………まさかこの世界にいたとはな……。
第3代最高神が創った、全ての世界のバランスを保つための存在、白竜。
悠久の時を生き、世界を渡る。その1億年に一度の世界渡りの際、それまでいた世界を滅ぼす。そして、次の世界に着くと、次の世界渡りまで1億年間眠り続ける。
その竜はまるで山脈のような巨体を持ち、白い嵐を纏う。そして背には………第3代最高神が飾りで取り付けた神殿ある。
…………なんて迷惑な。その世界の奴らからしたらふざけんなって話だよな。
白竜の民って奴らがどうやってでてきたのかは知らんが、〈白竜魔法〉とやらが存在してるところをみると、全く無関係って訳じゃあないらしいな。
取り敢えず、次の目的地は白竜山脈に決定だな。