乙女心、解決策
「私が……勇者……ですか?」
「ああ。王国1の弓の名手であるお前なら、問題ないだろ。」
「でも、私、女…ですよ?」
「女勇者なんて、別に普通だろ。」
「「「「普通じゃねえよ!!」」」」
男性陣が声を揃えてツッコミを入れてきた。漫才をしたつもりはないのだが。
全く、どいつもこいつも神様の素晴らしい提案を否定しやがって。
「大体、カフィのような美少女を勇者なんかにしたら」
「旅の途中で魔物や人攫いなんかに捕まって」
「あんなことやこんなことを」
「されてしまうだろうが!」
「「「「だから、ダメ!!」」」」
再び4人の声が揃う。
この変態共め……
「じゃあ、他にどうするってんだよ。」
「レスト君、君…本当に勇者になってくれる気は無いのかね?」
「ああ、これっぽっちも。」
「な ぜ だぁ〜!何故やってくれないんだあ〜〜!!」
うわ、面倒な方のファレスがでた!
こいつらには、俺の目的を分からせとく必要があるな。
「いいか。俺はな、民衆共に讃えられる英雄になりたい訳じゃあねえ。ただ魔王を倒したいだけだ。」
すると、皆、首をかしげて、「何を言っているんだ?」というような顔をした。俺なんか変な事言ったか?
「何を言っているんだ?君は」
ついに言われたよ。
「魔王を倒して、英雄にならん訳がないだろう。」
「は?」
「魔王は今や全人類の脅威です。そんな存在を倒したとなれば、貴方がどれだけ拒もうと、英雄として讃えられますよ。」
ええーー……
「それはヤダ。」
「なら、どうするのです?」
「やっぱり、カフィが勇し
「「「「それはダメ!!」」」」
ちっ。変態共が……
これじゃあ拉致があかない。
それを分かってか、クレナリアさんが言った。
「一度この話はやめましょう。とりあえず、レストさんの騎士団への入団は無しです。今後勧誘することも禁止とします。いいですね?」
おお、ナイス。
だが、オッサン達は諦めきれていない様子だ。
「…ああ、分かっている、分かっている
が………」
諦めきれないネクロス公爵に、クレナリアさんが冷淡に告げた。
「いい加減しつこいですよ、あなた。男同士が賭けをしてまで決めたことでしょう。」
「…すみません…………。」
ああ、ネクロス公爵、奥さんのクレナリアさんに頭が上がらないんだな。
クレナリアさんの鶴の一声で俺達は解散し、俺は王宮の部屋に戻った。
あれ、ベッドの下にカフィがいる。何でだ?……………まあいいか。
ベッドに寝そべり、天井を眺める。
悩みごとが1つ増えた。……早く新しい勇者を決めなければ。
ファレスはどうだ?あいつは実力もあるし、王宮警備隊の副隊長ともなれば、周囲からの信頼も厚いだろう。だが、たまに変な奴になるからな。あの状態のファレスは実に面倒だ。あと、さっき分かったが、変態。うん、ダメ。
じゃあノルフに引き続き任せるか?あいつは確かに人間の中じゃあ強いかもしれんが、カフィと結婚することしか考えてないお嬢様狂いの変態野郎だからな。こいつもダメだ。
ネメスさん。もうじーさんだし、とてもじゃないが戦えるとは思えない。何より、週3で風俗に通ってる変態だ。ダメ。
ネクロス公爵や国王は公務とかがあるし、娘や姪に対して変なこと考えてる変態共だ。ダメだな。
………………この国の男って、国王をはじめ、変態しかいないのでは?国名を「変態王国」に変えた方がいいと思うぞ。
「はぁ」
俺はため息をもらす。人間ってのがこんなに厄介だったとは。
やっぱカフィしかいねーなー。でも、カフィに勇者やらせようとすると、変態共が猛反対してくるんだよなー。
女勇者の何がいけないんだ。日本の王道RPGゲームにも出てくるんだぞ。やったことはないがな。
「レストさん、何かお悩みですか?」
ベッドの脇からカフィがひょこっと顔をだした。
「…どっから入った?」
「ふっふっふっふ。王家の者しか知らない秘密の抜け道です。」
……なんでこんな堂々と嘘を…
「…本当は?」
俺がそう尋ねると、カフィは半目になって頰を膨らませた。
「…レストさんより早く部屋に来ていました。」
うん、知ってた。
「いつから気づいていました?私が部屋にいたこと。」
「部屋に入った時から。」
「なっ……なのに、無視していたのですか?」
「ああ。」
「…本っっ当に、酷い人ですね。」
「なんとでも言ってくれ。」
「…私、泣きますよ?」
「勝手に泣いてろ。」
「この王宮内で私が泣けば、すぐにたくさんの衛兵達がやって来るのです。」
なんでこいつはさっきから得意げなんだよ。
「ふーん。で、その衛兵達に俺がどうにかできると?」
「…思いません。」
「ならやめとけ。」
俺がそう返すと、カフィは唇を尖らせ、ぷいっとそっぽを向いた。
「……………」
「……………」
しばらくの沈黙の後、カフィはこちらに向き直った。その目には涙がたまっていた。なんで?
「なんで何も言ってくれないのですかー!!」
「え?」
何だこいつ。自分から会話切ったのに。
「え?じゃありませんよ!なーんにも分かってませんね!」
なんか怒ってる。
「分かってないって、何をだよ。」
「もう、いいです。」
再びの沈黙。
「…レストさんて、意外と頭弱かったりします?」
「んなっ…な、何故それを……⁉︎」
「やっぱりですか。バカなんですよ。バカ。」
………神が人にバカ呼ばわりされるとはな。
「俺は今、結構真剣に悩んでたんだよ。それを、いきなり出て来てバカとはなんだ、バカとは。」
「だってバカじゃないですか。」
「だから何がだよ。」
さっぱり分からん。
「もういいですよ。きっと、ハッキリ言わないと分かってくれないと思いますので。」
「じゃあハッキリ言ってくれよ。」
「…イヤです。」
「はあ?」
分かってほしいのかほしくないのかどっちだよ。
「今は、イヤです。その…そのうち、ちゃんと言いますから。」
カフィは頰を赤く染めて呟いた。さっきまで怒ってたのに、変な奴だなー。
「と、とにかく、もっと勉強した方がいいですよ。乙女心の勉強。」
「はあ?乙女心ぉ?」
なんだそれ。言葉しか知らない。
カフィが部屋を出て行ったので、俺はさっきの続きを考えることにした。
____3時間後____
………………なんにも思いつかない。
どうしよう。カフィ以外に勇者出来そうな奴がいない。何度か妥協しようともしたが、やっぱダメでした。
うーん、どうしようか。
「貴方がどれだけ拒もうと、英雄として讃えられますよ。」
先ほどのクレナリアさんの言葉が、ふいに脳裏をよぎる。
あ…………思いついた。
カフィを勇者にする方法。なってしまう方法。
「……無理矢理なってもらうか…」
俺は天井に向かってそう呟いた。