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ヒノマツリ

——魔法がまだ、世界の呼吸であった頃。

後に『最後の賢者』と呼ばれた少女は、まだ己の運命を知らなかった。


いつもやさしくおだやかに笑っていたそれは、誰も気が付かぬうちにゆっくりと、しかし確実にそれはそれは大きな怪物へと進化していた。

「ユイ早くしなさい。今日はお祭りでしょ。」

アルデン王国の辺境の街、そのはずれの木漏れ日の美しい村に、12歳になったばかりのユイ・ベルナーは母のアンナと二人で暮らしていた。

今日は恒星ノヴァリアに作物を奉納するヒノマツリの日。街で開かれたお祭りにユイは母と共に参加している。

「お母さん!あれも食べたい!」

ひどく困窮してはいないが贅沢はできない暮らしの中、お祭りはユイにとって年に一度のわがままを聞いてもらえる日だった。

賑わっている屋台の人混みの中に、お祭りを楽しむ様子もなく人々を訝しげに見渡す、一際背の高い男がいた。不思議に思ったユイが母に聞くと、魔法の偉い人だという。怪しい人が悪いことをしないように民を守ってくれているんだと。

これまで生活魔法しか触れたことのないユイにとって魔法で身を守ることができるというのは目から鱗だった。確かに、水を沸かす時に使う「灯火」は人に向ければ凶器になり得る。興味の湧いたユイは、アンナがお祭りに気を取られている間に友達のテオと共にあの不思議な人に話しかけてみようと追いかけた。

人混みを縫うように男を追うユイ。

「ユイちょっと待ってよ!」

テオはユイの一つ下の11歳、いつもユイの後ろをついて回っている赤毛のくるくるな男の子だ。

「大丈夫だって!お母さんが守ってくれる人だって言ってたもん」

角を曲がった先の路地裏で、男は足を止め、振り返った。その鋭い視線に気押されつつも、ユイは意を決して声を張る。

「あの! 人を守る魔法って、どうやるの?」

男は一瞬目を見開くと、ふっと小さく口元を緩めた。

「魔法は願うものじゃない。書き換えるんだ。……そんなことも学ばぬか」

呆れたような、けれどどこか懐かしむような言葉。男が翻した漆黒のローブの隙間に、ユイは見慣れぬ複雑な幾何学模様の刻印を目撃する。

それが、現象そのものを支配する「命令型魔法」との、そして彼女の運命を変える最初の出会いだった。

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