#56‐1 港湾新都心・遊園地デート大作戦! ①
二週間のお休みをいただき大変申し訳ありません。今週から連載を再開させていただきます。
久々に乗った高速鉄道。とんでもない速度で流れていく車窓から海が顔をのぞかせた。
「もうすぐだよっ! ほら、見えた!」
窓にべったりくっついてはしゃぐ白髪ロングの少女——マーキュリーが指さしたのは、巨大な丸いもの。
「——港湾新都心の観覧車! 楽しみだね、遊園地!」
そう、今日は遊園地に行くのだ。
とはいえ、なんでも揃っている学園都市とはいえど流石に遊園地はない。なので、少し離れた大都市の巨大な遊園地に行くことになった。
「ペアチケット、友だちからもらっちゃったから……断れなくってさ」
「でも、なんで僕を? クリスかアリアでもよかったじゃん」
「えっと……真っ先に思いついたのがソーヤくんだったから……」
照れながらはにかむ彼女の頭に、思わずそっと手をおいた。
「ひゃっ、なにするのぉ! な、撫でないでぇ!」
彼女の醸し出す小動物的な可愛らしさに、思わずふわふわの髪を撫でる手が止まらなかった。
……こころなしか嬉しそうに見えたし。
「そういえば、今日の服どう?」
マーキュリーは唇を尖らして、僕をじっと見つめる。
彼女はひらっとした白いワンピースにクリーム色のボレロを羽織っていた。
なんというか、かわいいけど……。
「……寒くない?」
「もうっ!」
ぷいっとそっぽを向いた彼女に、僕はちょっと笑って。
「すっごくかわいいけど……その、風邪引いちゃわないか心配で」
「かわいいだけで十分なの! ……でも、心配してくれてありがと」
はにかんだ彼女に、僕は再び頭を撫でた。
「もうっ……」
やっぱり嬉しそうで、こっちも思わず口角が緩んだ。
*
「なによあいつら……公衆の面前でイチャイチャして……」
高速鉄道。ソーヤたちの数個後ろの席で、私は歯を食いしばった。
「クリスさん、羨ましいんでしょう?」
「わかってるわよアリア……今日はマーキュリーが主役なのよ……」
こらえろ私。念じる私に、隣りに座るアリアはくすっと笑う。
「帰ったら、ソーヤくんにいっぱい甘えましょう!」
「ノーテンキなあんたが羨ましいわ」
「なんですとぅ!?」
状況を説明しよう。
マーキュリーはおせっかいな誰かさんに遊園地のペアチケットをもらったらしい。そして、真っ先にソーヤを誘って、デートにこぎつけた。
で、残された私達はアリアの持ってたペアチケットでそれにこっそりついていくことにしたというわけ。
なんでかって? ……チケットがもったいないじゃない。
「そう言っちゃって、ホントはマーキュリーさんが心配なんでしょう? ツンデレさんめー」
「モノローグに口出しすんなバカ!」
いちいち本音を漁ってくるのが腹立つ。
唇を尖らせた私に、アリアは微笑した。
「まあまあ、あの子が心配なのはわたしも同じですからっ」
……それもきっと本音なんだろうなってわかるから、別に本気で嫌がってはいないんだけど。
「とにかく、今日は目一杯楽しみましょう! マーキュリーさんの行く末を見守りながら」
「そうね……」
軽くため息をついて、私はもう一度前方の二人を見た。
……カラ元気なの、わかってんだから。ちょっとは気が晴れてくれるといいんだけど。
*
「ついたね……」
マーキュリーが呟いた。僕は軽く息を切らしながら「……うん」と返事。
眼前、賑やかな人混み。レンガ舗装の道に、カラフルな装飾の数々。そして、巨大な遊具の数々。
「これが、港湾新都心の遊園地かぁ……。おっきいね、ソーヤくん」
「そうだね——うわっ」
頭上の鉄パイプのようなレールの上を、小さな車体が高速で走り抜けた。これがジェットコースターか……。
轟音を立てて通り抜けたそれに、僕はただ呆然とするばかりだった。
港湾新都心。内陸にある学園都市から、都市間を結ぶ高速鉄道で大体一時間半。海に面したその街は、百年以上もの歴史ある巨大な貿易港——だった。
近年、とは言っても僕が生まれる少し前くらいの頃に、港の機能の一部が別の新しい港に移されることになったという。そしていくつかの旅客船ターミナルを残して大体空っぽになってしまったこの港では、大規模な再開発が行われることになった。
学園都市とはぜんぜん違う、高層ビルが立ち並ぶ都市。どうにも慣れない最新鋭の都市を抜けたところに、それはある。
現在も行われている再開発の、およそ第一弾とも呼べるような時期に建設されたのがこの巨大遊園地だ。
時間を数字で表示するタイプの時計がついたとても巨大な観覧車、魔力ではなく重力で動く超高速なジェットコースター。そんな特徴を持ったこの遊園地は、この「港湾新都心」と呼ばれるようになった街の新たなランドマークとして今日も人々を楽しませている。
というわけで。
「なにから行こっか」
マーキュリーに尋ねられ、僕は少し悩んで。
また音を立てて頭上を通り過ぎるジェットコースターを見て、指さして。
「……あれ、乗ってみない?」
「え、怖いよぉ……」
「でも、おもしろそうじゃない?」
「ま、まあ……うん。ソーヤくんが乗りたいなら、一緒にがんばる」
こくこくと頷くマーキュリーに、僕は少しだけ不安になる。
……自分で提案しちゃった手前だけど、本当に大丈夫かなぁ。
目をそらして「やっぱり無理なら——」と譲歩しようとする僕の手を、マーキュリーは引っ張った。
「行こっ!」
今日のマーキュリー、ちょっと変かも。無理に楽しもうとしていると言うか。
若干の違和感を抱きつつ、僕は彼女に手を引かれてジェットコースターに向かった。
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