三日目 7
弥生ちゃん?
頭の中でその名前を反芻すると、コンコンとドアをノックする音が聞こえてきた。
「まだかしら?つかえてるんだけど」
「どっちにしろアンタはここを使えないんだよ!」
「何騒いでんのよ。じゃあ弥生ちゃんによろしく言っといてね。あっ、たしか秘密にしてって言われてたんだったわ」
「えっ?あっ、ちょっ……!」
気になりすぎる呟きを最後に通話は途切れてしまった。
「何かヒントをもらったようね」
「いや、ていうか、まあ、ヒントというか……名前を教えていただきました」
「…………」
「弥生、お姉ちゃん」
「……ごめん。先に次の目的地に行っててくれる?」
ツアコンさんがそれだけ言い残すと、足音が遠ざかっていった。
その事をしっかり確認したうえで、俺はポツリと呟いた。
「……わかんねえ」
何でわかんねえんだよというツッコミはなしの方向で頼む。
ただ……マジで思い出せない。
しかも、つい思い出した雰囲気出して、弥生お姉ちゃんとか言っちゃったよ!バカなの、俺!?あの反応からして、もう後戻りできないやつじゃん!
いや、落ち着け。俺は記憶を取り戻したいだけなんだ……この文章だけ切り抜くと物語のジャンルが変わりそうだな。
俺はトイレから出て、しばらく考えながら歩いて、最早観光することすら忘れていた。
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とりあえず、ツアコンさん……弥生さんとしばらく別行動のうちに色々と考えとかないといけない。
とりあえず、無理やり思い出すのは難しいだろう。それができてるなら今頃テスト満点出まくりだろうし。
そうなると俺にできることは……
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金閣から龍安寺に向かい、そろそろ到着しようかという段階になって、なんと門の近くにツアコンさんが立っていた。この人ワープでもしたのか。ぶっちゃけ、この人の能力が気になってきた。当たり前のように短期間で転職しちゃってるし……。
だが今はもっと気を配るべきことがある。
「翔太くん、久しぶり」
「さっき会ったばかりじゃん……弥生、お姉ちゃん」
「ふふっ、その呼び方懐かしいわね。色々と予定がズレたけど、思い出してくれて嬉しいわ」
「…………うん。そうだね」
すいません……何一つ思い出せておりません。
だが、最早これしか道は残されていない。
こうやって話を合わせながら、何とかして過去の話を引き出して記憶のピースを繋ぎ合わせていく。
かなり気を遣う作業だがやるしかない。
こうして俺の負けられない戦いが本格的に幕を開けた。




