39:城塞都市ナイニタル 南門 騎士隊長:トリグラフ(3)
トリグラフの視界が開けた。
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開門と同時にトリグラフは確認することもなく、愛馬ツマグの横腹に軽く拍車を入れた。その軽さと反比例するように掛け声は大きかった。
「ハァア!!」
腹の底から声を上げ、中腰の姿勢で内腿に力を込める。尻ではなく、鐙ではなく、身体の芯に重心を集めるようにして前方に意識を集中する。ツマグは引き絞られた矢のように飛び出した。
南門外縁は混乱の極みだ。倒れ臥した大鎧、獣機の胴体。そしていまだ立っている大鎧、獣機の脚。それらは進路を塞ぐ岩石や樹林のよう。そしてそんな障害物の間を駆け回る歩兵たち。中には丸まってうずくまっている者たちもいる。大地は振動し、土煙を上げている。その震源地はアルマムベトの操る白き大鎧<ペルン>だ。すり足で素早く駆けまわりながら必殺の一撃を繰り出す際の「踏み込み」は重く、衝撃を大地に伝えた。そして撃破され転倒する機体が揺れを、土煙を増幅する。これは好機だ。これは悪劣だ。
だが、トリグラフは拍車を入れる。掛け声を重ね、先を見据える。ツマグは駆ける。ただ一直線に駆ける。街壁を抜けて広がった視界は、速度を上げることによりすぐに狭まった。左右の景色は白い線に変わり、前方は丸穴から覗き込んだような景色と化す。洞穴を抜け続けるかのような景色。足下にはツマグの熱と鼓動、自身と繋がる鼓動と熱。
細く狭い視界。音と風と皮膚感覚を頼りに、一瞬の判断で駆け抜ける。進路を誤れば愛馬ツマグは転倒する。判断を誤ればトリグラフが鞍から転がり落ちる。運が悪ければ――とにかく一瞬で終わる。肉塊になる。馬蹄の染みとなる。頬の筋肉が硬くなる、奥歯をぎりりと噛みしめる。浅く浅く早い呼吸。乾ききった喉が鳴る。そんなトリグラフの後には、彼の判断を信じた50騎が、触れそうな距離を保って追随する。
左右の騎兵がら「ひゅっ」という音が漏れる。進路を塞ごうと槍を構えた敵兵が、弓を番えた敵兵が、ぱたりぱたりと倒れる。左右の騎兵から「ごっ」という音が漏れる。体当たりを迫ってきた敵兵が消え、騎兵の蹄音がいくつか消える。
前へ、前へ、前へ。
機体の林を抜け、倒壊した柵の狭間を抜け、ただ前へ。金糸銀糸で色めいた天幕目指して騎兵たちは駆ける。土塊を蹴り上げ、小石を弾き、騎兵は駆ける、ただ駆ける。そして左右から削れるように騎兵は減る。外周を担っていた仲間の気配、馬と仲間が発する熱が消え、やがて己が外周に立つ時が来る。責務を果たすべき時が来る。そして次を仲間に託す。そんな騎馬と人の塊が、ひとつの目標に向け1本の槍のように突き進んだ。
そして瑠璃青と漆黒の、機体の傍らを駆け抜けて、大天幕の外周へ。
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トリグラフの視界が開けた。




