190.
190.
「なんだかんだでプリン風呂が採用されるんじゃないの?」
「……はい」
「まったく、無駄なあがきするんじゃないわよ。みっともないわね~。二コラ、ダメよ?あんな大人になったら」
「ぼくの目標はカイ兄ちゃん!」
「あら?レモ君じゃないの?」
「レモ兄ちゃんは師匠!目標はカイ兄ちゃん!」
「豪華な二人ね」
「えへへ~」
二コラはいいよな。それで褒めてもらえるんだから。俺は懸命にプリン風呂を作ったとしよう。プリン風呂で汚れたまんまでうろうろする妖精さん達の2次災害(他のところも汚して飛び歩く)の責任は懸命にプリン風呂を作った俺になる。理不尽だ……。俺が褒められることはない。妖精さん達に褒められるか?それも微妙だ。
「レモ……まさかただ単にパンにハチミツつけただけとか好きなのか?」
「美味しいよね~。コペルがいるパン屋さんのおかみさんに教えてもらって以来ちょっとしたマイブーム」
「とりあえず、毎日朝晩きちんと歯を磨けよ。虫歯になる」
「歯医者はヤダ~」
「そう思うなら尚更だ!」
「レモ兄ちゃん!歯を磨かないと口も臭くなって他の人に嫌われちゃうんだよ?」
「それもヤダ~」
「そういうわけだ。歯を磨いてくださいね、レモさん」
スッゲー。周りからの後押し。
うーん、ハチミツまみれの妖精さん達よりはプリンまみれの方が掃除しやすいしいいかな?
俺は自暴自棄になっていたような気もする。
「ほれ、プリン風呂を超えて‘プリンプール’を作った。好きなだけ入れよ~。んで、入った後な。この温水の風呂で体を濯げ!」
『え~?プリン風呂じゃないの?』
プリンプールで遊んだ後にプリン風呂?ないだろう?
「体を洗うんだよ。プリンにまみれてたら光ってるだけじゃなくて、プリンで居場所が特定されるぞ?変なオッサンに連れて行かれるかもな。だからきちんと洗うように!」
プリンの匂いするから、最近頓に場所が特定しやすくなってるというのに。こいつらの危機管理はどうなってるんだ?
『わかった~。変なオッサンに連れて行かれたらレモに二度と会えなくなるんでしょ?ヤダ~!』
『ヤダ~!』
『ちゃんと洗う~!』
よしよし。しっかし…本当にレモ大好きだよな。
『プリンプール楽し~!』
全員入れる設計だからな。
『でもさぁ。こう、流れるプールとか良くない?』
この場合、お前達が流されることになると思うけど?
動力に妖精さん達の魔力を拝借しちゃうけどいいのかな?
「カルロ……。カルロの部屋、すごいことになってるな。久しぶりに来てみれば。妖精さん達、プリンプール?で、飛び散ったプリンでカルロの部屋がプリン臭い」
「そう言うなよ、作業場を汚すわけにいかないからな。カイが怒る」
「あー、わかる。あいつは職人気質なんだよな」
久しぶりのマルコとの対面だというのになんだか微妙……。部屋が甘いにおいするし。
「カルロってさぁ。もっとクールな男じゃなかったっけ?」
「……言うな」
『カルロはプリン職人~!』
『そうだ、そうだ!』
「ごめんね、間違っちゃった。他の人と」
マルコは色々察してくれた。有難い。
「お前もいろいろあったんだな。商会の話で来たんだけど…」
「ルチア―ナとしてくれ……」
『ルチア―ナは怖い』
「うん。でもさぁ、立ち向かわなきゃいけない時ってあるんだ」
『ふーん、人間大変』
「あ、ごめんね。名乗ってなかったね。僕はマルコっていうんだ。カルロの昔からの友達」
『プリン作れるの?』
「あはは。僕はカルロみたいに手先が器用じゃないから、発案係かな?」
『流れるプール楽しい?』
「うん。でもね、海の波を再現したみたいなプールも楽しいよ!」
「おい、マルコ余計な事を…!」
妖精さん達の目が輝いている。
「それじゃあ僕はルチア―ナさんのところに行ってくるね」
『気を付けてね~』
「妖精さん達も気を付けてね!」
そうしてマルコは去って行った。
191.
『カルロ~。ちゃんと体洗うから流れるプリンプールと海みたいな波打ち際のプリンプール作ってよ~!』
「体洗って、そのあとちゃんと拭くまでがセットだ!」
カルロ兄ちゃんがそんな事をしてくれているから、ぼくらの宝石加工はどんどん進んだ。
「レモ兄ちゃん。この石、この前みたいにほぼ濁りだったら隙間から光が…。みたいにできるけどさぁ。半分くらい濁ってるよ?どうすればいいかなぁ?」
「石の色は~?」
「黄色!」
「砂漠で砂が舞ってる感じにできないかなぁ?のち、オアシスがあるといいんだけどなぁ~」
レモ兄ちゃん…、プリン食べてる。まだおやつの時間じゃないよ?
「オアシスっぽい感じにはなるかなぁ?水たまりとかどうすればいいかなぁ?」
「濁りの塊に光を当てたらどうなるの~?」
「あ、それ試したことないからやってみますね」
レモ兄ちゃん…、すごいけどプリンがなんだかすごさを引き下げるというかなんというか。
「すごい!塊に光を当てたら水たまりっぽくなりました。これでオアシス問題解決ですね!」
「それで、砂漠の砂とオアシスが存在する黄色い石の完成!」
「そうだね~」
すごいことなのに、感動薄いなぁ。
レモ兄ちゃん…、カルロ兄ちゃん作のプリンの味の方が重要事項みたい。カルロ兄ちゃんが最近妖精さん達のリクエストに応えるのに精いっぱいでプリンの味にまで手が回らないから……。だからってさぁ。カルロ兄ちゃんだってあれでも一応は宝石加工職人なんだよ?
すごい美味しいプリンだったら感動が大きいんだろうな。カルロ兄ちゃん、作ってくれないかなぁ?今は、妖精さん達のリクエストに応えるだけでいっぱいいっぱいかなぁ?
妖精さん達はこう、なんか無邪気の罪というか……邪気がないから怒れない。
流れるプール……角がなく、円形にすればいいか?ドーナツのような?流れるプールに流されている妖精さん達……楽しいのか?楽しいんだろうな。動力は妖精さん達の魔力を拝借することにして、流れるプールじゃなくて、流れる‘プリンプール’だよな……。あのプリンプールの時に使った液状のプリンを流そう。
波打ち際を再現したプール…これも波打ち際を再現したプリンプールだよな……。波を再現……。どうしたらいいものか……。
音波はそれ自体どうやって発生させるんだ?
あ、難しく考えすぎてた。板を前後させるだけで波が完成。あとはもう、妖精さんのお好きなように……だ。
遊びそうなんだよなぁ。まぁ、俺の部屋を汚しまくらないでくれとだけ思っておこう。無駄な抵抗を我ながらするものだ。
192.
『板を~前に~♪後ろに~♪』
『きゃ~♪』
「あの……出来れば、部屋をあんまり汚さないでほしいんですけど」
聞いてねーな。現時点でかなり汚れてるし。
『あ、レモ!』
「聞いた話によるとね~、ウォータースライダーってのがプールには存在するらしいよ~?水でほぼ摩擦ゼロになって状態で滑り台みたいなのかなぁ?」
レモ、余計な事を。
『カルロ作ってよ~!』
「よし!一週間部屋を汚さないで遊べたら作ろう!」
『頑張るぞー』
『『『『『おー』』』』』』
その手からこぼれるプリンが部屋を汚す……。
「この部屋プリンの匂いだね~」
「レモもそう思うか?妖精さんがこの匂いで誘拐されないか心配だよ」
なんでこんなに発生したんだっけ?忘れたけどいっかぁ。
「妖精さん用のプリンでも作ろうかな?」
『プリン?』
『カルロのプリン?』
『美味しい~!』
こいつら……波をかぶりながらプリンに反応。攫われてもプリンでなんとかなりそうだな。
はっ、レモがプリンを食べたそうな目で俺を見てる。
「レモの分だって作るから安心しろよ」
「やったー!プリン祭りだ~‼」
仕事してくれ……。
「レモさん、まだまだ仕事はありますよ。うわっ、この部屋なんですか?靴の裏とかちゃんと拭いて仕事部屋に戻ってくださいね!」
「カイは潔癖だなぁ。キッチリしてるのかなぁ?キチンとプリンを3等分に出来たりするし」
その後、1週間は本当にキレイに過ごしてくれた。プリンを入れている容器もキレイだった。俺はプリンスライダー作らなきゃな……。約束だし。
プリンの粘度を緩くして、滑り台に流し、プリン池に貯めよう。プリン池から滑り台の上に循環するようにしよう。スライダーに上るための階段みたいのは要らないな。あいつらが飛べばいいし。
完成したスライダーでは楽しそうに遊んでいた。
『わーい!なかなかスリル満点!でも最後はプリン池にどぼーん!』
『ツルツルプルプル~!』
その粘度にするのにどんなに苦労をした事か!
疑問なんだが、自分が入った風呂の水を飲んでるみたいな感じで嫌じゃないのか?他の遊具もそうだけど。今更だな。
確かに1週間キレイに過ごせば作るって約束してるけど、今まさに汚いMAXじゃないのか?すごいな、ある意味。
『カルロは潔癖症なの~?』
『目から鼻水出すのに~?』
妖精さんがよくわからない呪文を言うと、部屋がキレイになった。こんなことができるなら最初からやってほしい。俺がどんなに苦労して掃除をしていたことか!
「お願いがある。遊んだ後は今みたいにキレイにしてくれると助かる。俺はプリンを作るっていう仕事もあるからな。ここを掃除してたらプリンを作る時間が無くなってしまうよ」
『え~?掃除してたらカルロ、プリン作れないの~?』
『仕方ないな~、掃除しようよ~。カルロのプリン重要!』
俺のプリンが妖精さん達の中でかなりの高評価なのを俺は知っている。それを利用させてもらった。俺の勝ちだ!
193.
二コラももう15才になった。
作業場ではカルロの部屋で無邪気に遊ぶ妖精さん達を傍観するようになり、一人称も‘ぼく’ではなく‘俺’になった。ルチア―ナさんとしては寂しいだろう。愛する一人息子の微妙な変化。
二コラは二人の尊敬する師匠と目標と同じく一人称も変化させた。ちょっとだけ背伸びをした感じ。15才だし。そのくらいと思うけど母としては心中複雑。
「二コラも15かぁ~。でも俺もそのくらいで一人前だったし。ナナイロレンジャーで確か、ナナイロイエローだった気がするよ~」
「そうですね、俺も15でカルロさんにT国からここに連れてこられましたね。いきなりレモさんと同居だったんですけど」
「あの時のプリン美味しかったね~」
「プリンの味、逐一覚えてるんですか?」
「プリンだからね~」
「意味わかんないです」
二コラはただただレモとカイの話を聞いていた。
二人とも15才くらいの時から大活躍をしていたことがわかった。ならば、俺も!と思う。
「俺も何かしたいです!」
「へ~、頑張ってね~」
「いや、突き放さないで下さいよ。師匠!」
「俺ら別に意識的にやったわけじゃなくて、なんか周りが高評価をくれただけだからさぁ」
「俺もなんか頑張ります!」
「やる気が空回りしないようになぁ。二コラはそのままでいいんだよ。なにか?承認欲求みたいのあるのか?」
「一応」
「まぁ、なるようになるだろう。見てみろ。ほら、カルロさんなんか宝石加工職人だけど、妖精さん専用の遊具製作者になってるだろ?そんなもんだ。人生わからんよ」
カイ兄ちゃん説得力ある。確かにカルロさんは俺らと同じ、宝石加工職人だよな……。
そうこうしているうちに日が傾いた。
「おう、二コラ。ちょっと付き合えや」
「カルロ兄ちゃん…気付いてないかもだけど、プリン汚れがひどい」
カルロ兄ちゃんは妖精さんに汚れを落としてもらった。なんかスペシャルなプリンを作ると約束したらしい。
マルコ兄ちゃんも合流してどこに連れて行かれるんだろう?
Sanctuary Silent?
バー?
プリンとも宝石とも関係してないよね?どうしたんだろう?
「まあまあ」
マルコ兄ちゃんがお店の扉を開けると、ドアがカランと鳴った。
「Sanctuary Silent へようこそ。端的に言うとだなぁ。ここは俺とマルコの秘密基地だ。まぁ、たまにレオナ商会のレオナが混ざったりもするけどな」
3大商会の商会長の秘密基地?
「おや、新顔さんですね。Sanctuary Silentへようこそ。どうぞお席へお付きください」
なんだかすごいな。使いこんだ木の黴臭さ、ウッドベースの音と静けさ、夜なのに薄暗い感じ。俺みたいなのがいていいのかな?
194.
「二人の商会長は胃痛ですか?胃に優しいハーブティーでもお出ししましょうか?」
「「お願いします」」
バーなのに、ハーブティー?バーってお酒を飲むところじゃないのか?
「二コラはうーん、俺が初めて飲んだ酒はどうだ?」
「ああ、あれかぁ。一杯にしとけよ。二日酔いのハーブティーもここは出してくれるけど、二日連続ここに来ることになるぞ?」
「マスター、二コラにリモンチェッロ・ロックを頼む」
「懐かしいですねぇ」
「だいたいよぉ、俺は妖精さん達担当なのか?商会長なんですけど!」
「カルロ、素面なのに声デカい」
「カルロ商会はうちの母さんが回してるからねぇ」
「そうなんだよなぁ。ルチア―ナは有能なんだけどよぉ、なにも俺から仕事奪う事ね―じゃん」
「カルロ兄ちゃんには妖精さん達のお世話っていう大事な仕事がありますよ?妖精さん達は誰にでも懐くわけじゃないですからねー」
「どう?初お酒?」
マルコ兄ちゃんは普通だ。
「苦い。けど、なんか美味しい。苦みが美味しいのかな?」
「おお!それがわかるかぁ。二コラも大人になったなぁ。これで「苦いよ。甘い方がいい」とか言ったらどうしようとか思ってたんだ。あ、甘いカクテルってだいたいアルコール度数高いんだよね。そんなの二コラに飲ませたら、俺、ルチア―ナさんに怒られる」
危うく甘い方がいいと言いかけた。危なかった。……マルコ兄ちゃんが。
「商会長ってなんで胃痛になるの?」
「気苦労が多い役職なんだよ……」
「母さんは元気だけど?」
「ルチア―ナさんの胃は強いんじゃないかな?」
「ふーん」
お気楽宝石加工職人にはわからない苦労か……。
「あ、さっきの酒が初級だからな。まだまだ先はこれから!そうだなぁ。グラスの氷を鳴らすだけで色気を感じる男性になったら合格って感じかな?」
「先が長そう……」
夜が明けて、3人は仕事場に出る。
「二コラがアルコール臭いぞ~」
『二コラがアルコール?』
『あー‼ほんとだ‼』
「カイ兄ちゃんに怒られるよ。カルロ兄ちゃんの部屋から体洗わないで出てきたの」
『だって……二コラの一大事だと思ったんだもん』
「何ですって?うちの二コラがアルコール?誰が飲ませたの?」
「カルロ兄ちゃんとマルコ兄ちゃんだけど無理矢理じゃないし、そんな強いお酒飲んだわけじゃないよ。心配性だなぁ」
「マルコは商会まで行かなきゃ会えないけど、カルロにはここで会えるわね」
弱い酒を一杯飲んだだけなのに……。
その日もカルロはルチア―ナさんにこってりしぼられ(妖精さん達は部屋の隅でかたまっていた)、マルコは胃痛で、レモはプリンを食べ、カイは妖精さん達が汚した所をきれいに掃除し、セレン大使は「この街は本当に平和ですねぇ」と言っていた。
いつものようにこの街は動いている。
了




