9.ふたりの景色
「そんな、自由の身になったリリィさんに、記念のプレゼントを贈りたいんだけど、受け取って貰えるかな?」
「ええ、もちろん! 嬉しいですわ」
「俺がこの世で一番綺麗だと思う景色なんだ。
いつか見せたいとずっと思っていたんだけど、今から一緒に行ってくれない?」
「とっても楽しみです!」
怖がって落ち込んでしまった彼女に少しでも元気になってほしいし、何よりも、元王太子というリリィさんの因縁の相手を直接倒すことの出来た今日、自由になったリリィさんをお祝いしたかった。
時刻は夕暮れに向かうころ。
今から準備すれば、ちょうど良いくらいの時間になると思うし、今日の天気なら綺麗な景色が見られるだろから。
「飛竜に乗ったことはある?」
「少しだけ」
「ふたり用の鞍を付けるから大丈夫だと思うけど、ここにしっかり掴まっててね」
俺の相棒ガルディアは身体の大きな種族だから、ふたり乗せても全然平気だ。
乗るのに苦労するリリィさんを押し上げて、自分はその後ろに乗る。
「飛ぶよ!」
リリィさんに声をかけてから、ガルディアに合図を送る。
ガルディアの大きな翼が大きく羽ばたき、大空へと舞い上がる。
「うわああ!」
悲鳴じみた歓声をあげるリリィさんをしっかり支えて、手網を握る。
「大森林の方まで行くからね!」
「えっ、魔物が居るんじゃないですか? 大丈夫ですか?」
「大森林とは言っても浅いところの上空だから、全然平気だよ。
出来れば領地からも離れて、ふたりきりになりたいから」
かなり高いところまできたから、振り落とされそうなくらいの風が吹いているはずだけど、鞍にかけられた魔法のおかげでのんびりと空の旅を楽しめる。
「ユーリさま、とっても楽しいです!
お城に閉じこもってばかりだった私が、飛竜に乗って空を飛んでるなんて、夢みたい!」
幼い子どものようにはしゃぐ彼女が可愛いすぎるから、飛ばされないように押さえているだけのはずの腕にぎゅっと力を込めて抱きしめてしまう。
「私は、ずっと王太子殿下のかげで働いて、私の頑張りは殿下の手柄にされて生きていくと思っていました。
でも、違ったんです。
ユーリさまのおかげで、私は、いま、とっても楽しいです! しあわせです!」
「俺も、何となく竜騎士になって、何となく生きていた。
リリィさんみたいにとっても不幸だったわけじゃないけど、リリィさんと出会う前には戻れないくらい、今が幸せだよ」
楽しい空中散歩を楽しんでいたら、俺が本当に見せたかった景色が現れた。
「リリィさん、ほら、見て。
今の空は、まるでリリィさんの髪みたいだと思わない?」
夕暮れの太陽が沈みきる直前、空が真っ赤に染まる。
「きれい……とっても綺麗ですわ!」
「夕暮れは地上でも見えるけど、この景色をふたりだけで味わえるのも特別だろう?」
「ええ、素敵ですわ!
それに、向こうはもう、ユーリさまの色になっていますわよ?」
振り返った視線の先には、もう夜空が広がりはじめていた。
「そうだろう? 何だか、俺たちのための景色みたいだな、と思えて」
「正しくそうだと思いますわ!
ユーリさまの瞳の夜空色と、私の髪の夕焼け色。
とってもとっても、美しいです!」
きらきらと顔中を輝かせる彼女があんまりにも可愛かったから。
ちゅっ。
夕焼けに照らされて赤く染まる頬にキスをひとつ、落とした。
すると、彼女は何もいえずに固まったけれど、頬から耳の端まで真っ赤になった。
夕焼けの中でも分かるほどに。
「ああああの、ユーリさまっ?」
日頃冷静でしっかり者のリリィさんが慌てる姿も大層かわいい。
「いやだった?」
「そんな訳ないですっ!」
「じゃあ、俺にもしてくれる?」
照れてぎゅっと目をつぶったまま、リリィさんは。
ちゅっ。
キスを返してくれた。
ああ、俺もリリィさんのことを言えないくらい真っ赤になってるんだろうな、なんて思いながら。
真っ赤な夕焼けが沈みきるまで。
腕のなかに抱きしめた最愛の彼女と共に、ふたりきりの美しい景色を味わっていた。
「リリィさん、ずっとずっと、愛し続けています」
「私も、ユーリさまのことを、愛し続けますわ」
いつまでもふたりで、共に愛し合い、支えあって生きていく。
夜空と夕焼け、ふたりの色の天に誓って。
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