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第一九話 流転を呼ぶ少女

三時間目。誰かとの出会いがフラグになるのはゲームのあるあるです。それが女の子だったらもう世界の危機の始まりです。

 図書館は人類の知恵の宝庫であると同時に、RPGにおける主要な迷宮の一つでもある。特に書物に憑依し、己が糧とする怨霊や知恵そのものを悪事に転用する輩などにとっては温床に等しく、溜まり場どころか拠点に転用されている場合も珍しくない。


 しかし、それは魔物と迷宮の関連性の話であり、そこに少女が現れたとあってはミスマッチもいいところだろう。それもNPCかプレイヤーなのかも判別不可能とあっては怪訝を向けられても文句は言えないはずだ。それを少女が受け入れるかは別問題だが。


 「子供・・・っていうか完全に幼女だな」


 「だね・・・とりあえず、キミのお名前をお姉さんに教えてもらってもいいかな」


 明らかに異質な存在に対して、アイナはあくまでも彼女が少女であることを前提に問いを投げかけ、そこに敵意がないことを悟ったのか遅れて少女がはにかみながらも言葉を紡いだ。


 「ユ・・・ユルグ・・・です・・・」


 「ユルグちゃん―――うん、どっしりとした重みを感じるいい名前だってお姉さんは思う!それで、どうしてユルグちゃんはこんな図書館にいるのかな?」


 「わ、わかんない・・・気づいたら・・・ここに、いて・・・誰も、いなくて・・・」


 「ただの迷子・・・にしてはあまりにも状況が特殊すぎる。恐らくこいつは―――」


 キリカが早くも少女の素性に勘づき始め、次いでアイナにもそれが伝播する。されど両名は少女に余計な恐怖を与えないように表情を取り繕う仮面を被って会話を続行した。


 「そっか・・・じゃあ、ユルグちゃんにはお家とかお父さんお母さんが待っていたりはするかな?」


 「・・・お、家はわかるけど・・・お父、さん、お母さん・・・ってなに?」


 とんでもない知識の欠如に思わず唖然とする。彼女は忘れたとは述べずに何かを問うたのだ。それはつまり親の概念自体を理解していない事実を証明させ、問答を続けていたアイナでさえ一瞬とはいえ沈黙するほどだった。


 「わ・・・私・・・変なこと、言いましたか・・・?」


 「え!?あ、えーと、そうだねぇ・・・」


 「いや、何も変じゃないぜ。親なんざグレた子供には不要の産物だからな。ATMと飯製造機だと誤認しちまえば忘れちまうのも当たり前ってもんだろ」


 「そんな虚しい現実を幼気な子供の前で軽々と話すんじゃねぇ」


 キリカに脳天をチョップされて勢いよく地面にめり込んだカイトを尻目にユルグと名乗った少女との会話は進行していった。


 「ま、まぁ!大丈夫だよ!お家があるのなら生きていけるさッ!それで、ユルグちゃんのお家ってどの辺にあるのかな?」


 「お家、は・・・そこの、本棚を抜けた先、に、あると思います・・・・・・」


 少女が指差した空間は書籍と書物が乱雑に所蔵された暗闇でしかなく、足場どころか眼前の状況でさえ碌に確認できないほど闇に吸収されてしまっていた。


 「これ・・・下手に進んで辿り着けるか・・・?」


 「あぁ、おまけに子供の目算での帰投ルートだ。しかもこの状況下である以上、図書館に家が喰われてる可能性も充分にあり得る」


 図書館の全貌は一切が開示されていない未開拓の迷宮であるが、彩瞑山自体を喰らいつくし、構造さえも変貌させた図書館は間違いなく、周辺区域も吸収していると考えるのが妥当だろう。それの詳細はマッピング作業によって掴むしかないが、恐らく大規模なのは確定の筈だ。


 「今回は極寒の島が舞台となる。その意味でプレイヤーに屋内ステージを用意するのは配慮としては正しい・・・。だが――」


 「確か今回のって人涯の王様のお名前付きなんだっけか」


 「そうだ、通常なら冒険者ギルド管轄の任務に王様直筆での依頼分ときてる・・・。それに加えてこの惨状・・・」


 第三回までの遠征任務はあくまでも島に潜む女王の霊魂を打倒することのみに注力するものであり、今回もその本質は変わっていない。だが、人涯の管轄下に属している極彩色の島にこのタイミングで王政が絡む理由が不明瞭なのもまた事実である。それが余計にキリカの思考を回していた。


 「あ、あの・・・・・・」


 「あ、大丈夫。君が気にすることじゃない。不安にさせて悪かったな」


 「子供に謝罪するキリカの図って女子に売ったらいくらになるかな」


 「はじき倒されてぇのか」


 ユルグの頭に手を乗せつつ、カイトへと怒気を混じらせた牽制を行う。それは彼らにとっては戯れに過ぎないが、言葉の物騒さに萎縮しかけているユルグの表情を見て少し反省し、おもむろに口を開けた。


 「とにかく、俺たちは現状、完全に行き詰まった。ジョーさんから提供のあった情報にさえ齟齬が発生した以上、極彩色の島は従来の環境では測れないほどに変質してると判断していい」


 「つまり、進行不可ってことか?」


 「そういうんじゃない。ただ、目標への最短が難解になっただけだ。そこで提案だが、一度、俺らの予定をズラす必要性がある」


 「んもー、みみっちいな。ややこしい言い方してちゃ子供には伝わらないよ」


 アイナの手厳しいツッコミに確かにとキリカは納得させられる。だが、当初の氷魂魄確保が不透明になってしまっては、極彩色の島における活動目的が凍結されたと同義であり、半ば強制的なものであってもそこに縋るしか現状打破は見込めなかった。


 「・・・分かってるよ―――ユルグちゃん、今から俺ら三人で君を家まで送り届ける。それが俺たちの最善にも繋がるかもだからな」


 「ほ、ほんとうに・・・?」


 「本当だよ。こっから先はどんだけヤバい敵が出ようが、竜も悪魔も天使でさえも、ギッタンギッタンに倒し尽くしてユルグちゃんを家まで届けるから!」


 「ま、今列挙されたヤツらがマジで現れたら少なくとも俺は脱落だけどな」


 ユルグの家路への護衛と、それを理由とした図書館探索は当初の予定から大幅に変更された即席の作戦であったものの、それはユルグに僅かながらも安心を覚えさせ、彼女は知り合って間もない冒険者へと会釈を向けた。


 「あ、あ、ありがとうございます・・・!」


 「礼ならいらないぜ。これは俺らの善意と打算全開の作戦だからな。ちゃんとこっちにも利点がある」


 「さくせん・・・・・・?」


 「違う違う。錯綜のことだ。ちょっとコイツ頭がポンコツだからな、定期的に叩かねぇと頭が錯綜してオーバーヒートするんだよ」


 脳天を拳でぶん殴りつつ、迅速な対応でもってユルグへの不安材料を一掃する。確かにカイトの言葉は正しくはあるものの、胡散臭さが飛躍的に増す単語は子供に警戒心を抱かせやすい。それは最優先で回避しなければならなかった。


 「そ、そうなんですね・・・・・・」


 「ちょっと待って・・・その表情と哀れみに満ちた声色は俺の精神を傷つけるから許して・・・」


 心身に地味なダメージを連続で貰ったカイトが地面に倒れかけるものの、何とか踏ん張って息を入れ直す。ここより先は全てが未知の旅路であり、宛さえ存在しない文字通り暗闇への挑戦である。それでも、


 「さて、準備はいいな。こっからは死が常態化するかもしれねぇぞ」


 「問題ねぇさ。死が常態になってRPGなんざいくらでも突破してきてるからなこっちは」


 「以下同文。それに、ゲームだろうが、困ってる人間は見過ごせないタチなんでね」


 進軍。記憶喪失の少女を抱えての四人パーティが結成される。向かうは暗闇にして、図書館の最奥。その極彩色の島において異様とも表現できる廃屋の奥底は吹雪の効果も相まって凍えきっており、三人はその闇の最中に表示されたウィンドウを無視して歩を進めていった。


 【極彩任務第一章:聖拝の少女・・・推奨称号、第二級冒険者】


※※※※※



 図書館は静謐を愛する。適度な光量と快適に備えられた空調性、そしてその空間を全体が維持する調和の力は万国共通であり、それは∀RO内部でも不変の定義として機能していた。機能しているが故に、全く魔物との戦闘どころか足跡さえ確認できずに一行は暗闇を当てもなく進行することを強いられていた。


 ダンジョンと銘打っておいて魔物の干渉が一切ないなど前代未聞にも程があるとキリカは愚痴りそうになるが、そもそも彩瞑山を取り仕切っていた生命体が軒並み書物に還元されたとあっては討伐のしようもない。

 それどころか解除の方法さえ不明な以上、下手に刺激すれば予想外の事態へと発展しかねず、余計に静けさへの適応が全体に求められていた。


 「・・・なぁ、なんで俺この島に来たんだっけか・・・?」


 「そういうなよ。イベントである以上、魔物自体は存在する。問題はこの図書館がその魔物を封殺してることだろうが」


 「そうはいっても、ここまで無人となるといっそ何らかのイベントが確約されているようにも思えるよね」


 闇を文字通り手探りで探索しつつ、アイナが不意にそのような言葉を呟く。確かにここまで平穏とあっては逆に脅威の前触れとも解釈可能ではあるが、それでも蓄積されたフラグの回収を考えれば出現が遅すぎる。これではストレスが無駄に貯まるのみだろう。


 「つって・・・範囲で考えりゃ他のプレイヤーも入れるわけだろ?出入口が一つってワケでもねぇだろうし」


 「だろうな。それも踏まえた上でアイナの言を信じるとすれば、何らかのイベント要員を確保しておくか、若しくはフィールド自体がある種のフラグになっているかだが・・・」


 この仮定を前提とした場合、イベント要因と成り得るのは十中八九ユルグだろう。彼女の存在そのものが今回の遠征任務の鍵を担っている可能性も充分にあり得る。

 だが、本人が記憶を保持していないとあっては頼り切れない。ならば、氷魂魄の所在も含めて賭けるべきは、


 「・・・ん?ちょっと待って。あそこ・・・なんか陽光差してない?」


 不意に、アイナが天井目掛けて指を指す。割れた天井画から入り込んだ白光。鮮やかに彩られた神々の風景は天井の輝きによって上塗りされ、暗黒に染まった図書館内部に太陽の威光を示している。それは同時に一行の確かな道標となり、光輝を一身に纏った白紙の世界へと全員を誘った。


 「こりゃ図書館ってよりは大聖堂の類だぜ・・・!」


 「実際、ニューヨークとかじゃ図書館に天井画が描かれてるって話しだしな」


 「うっへぇ・・・!∀Rにここまでやられちゃ他の仮想現実が霞んじゃうね・・・!」


 突然の日射もI・フィルターの防護反応によって光量は抑えられており、目が霞むなどの現象は人体に発生しない。それでも人工の神秘と光によって与えられる情報量はより図書館への理解を深める要因となっていた。


 「ってかこれ・・・ここに来て初めて気づいたけど・・・辺り一面どころか、壁に至る全部が本だらけじゃねぇか・・・!」


 改めて図書館の所蔵率の高さに絶句する。恐らくは極彩色の島に関わる一切が記録媒体として保管されているのだろうが、まさかここまでとは想定していなかった。天井も、支柱も、地面でさえも本が挟み込まれている環境は、ともすれば衒学的な雰囲気さえもカイトに感じさせる。


 「これ・・・全部が全部女王様の力で封じ込められてるって解釈でオッケー?」


 「あぁ・・・だがここまでとあってはだいぶ意味合いが変わってくる・・・というより、魔物自体が封印されてちゃ氷魂魄の確保どころか―――」


 震動。予測や予想が介在しえない唐突な揺れが図書館全域を轟かす。それはカイトが初日に経験したアグロバルムの襲来以上のプレッシャーを伴った《何か》の到来であり、その何かが眼前にまで全くの殺気や反応に感知されず一行へと会敵しつつある証明でもあった。


 ユルグが震える。強ばった頬に怯えきった瞳は記憶喪失の少女でさえ、避けたいと渇望する災厄が降臨することを意味し、魔力が集積したからか輝きを増しつつある長髪は危険信号と同義の意味を以て怪物を歓迎した。


 「あ・・・・・・嫌、来る・・・来ちゃう・・・!彼が、来る・・・!」


 その意味を問う前に天井が壁画ごと蹴り破られた。破砕とそれに伴う暴風は三人を太陽から退かせ、代わりに未知の侵略者の風貌を爛々と照らし出す。


 銀の光陽を纏ったかの如き鋭角の鎧。顔面は覆われ、されど背中に生えた触手状の双翼がただの怪物には留まらない異形を対象に抱かせ、左腕に担ぐ晴天を宿した弓が狩人を彷彿とさせる。だが、何よりもその下半身は完全なる四足歩行の骨格をなしており、眼前の敵が文字通りの人馬一体である事実に言葉を紡ぐでもなく、体躯のみで告白する。


 畏怖と興奮。風神と同等かそれ以上の化物が四名の前に顕現し、それは開口するでもなく、己の名と使命を思念波として冒険者に響かせた。


 『―――我が名は《白騎士》第二部隊統括官、《凍壊のギヨッド》なり。これより女王の命に従い冒険者の掃討及び残滓の回収を遂行する』


 遠征任務一日目正午過ぎ。極彩色の島、アルセイデス氷堂図書館内。その歪な霊脈に漂う強欲と憤怒が無知なる挑戦者に牙を向ける。










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