1.明治文明改革
1.明治文明改革
自分が進むから、時間は進む。もっと言えば、世界が進むから時代は進む。と思っていたのだけれど、そうでは無くて、自分は常に一定で、そこに留まっている。としたとき、じゃあ時間は前から来て流れていくと。
そう考え始めた時、僕の体は外に向かって行った。
「…」
冷たい風が頬を撫でると、僕の意識は遠くからまたやって来て、体に落ち着いた。目を開ける。…草原?いやそうじゃない。きっとなんだろう、ここは。
周囲を見渡すとそこは広い広い森のような、雑木林のようなそんな場所。何も持ってない僕はそこでどうやら寝ていたらしい。
手に力をいれて、草を掴んで立ち上がると遠くの景色が見えてきた。…凄い田舎みたいな風景。昔言ったことの有る祖母の家を思い出した。
何が起きたのか分からなかった僕はとりあえず、首を動かし、足を動かし、そして手のひらを見つめる。…とりあえず体は無事なようだった。
「…ここは一体どこなのだろうか」
またとりあえず目を遠くにやって、家が無いかを確認すると、少しだけ大きな道のようなものが有るのを見つけ、そこに目を凝らすとどうやら車が走っていたり、自転車のようなものが動いているのが見えた。
自分が寝ていた周囲を改めて見渡してみても、特に何かあるわけではない。何かないのか。そうおもってポケットの中を探してみるものの、見つかったのはこの間書いたメモ帳だけ。それだけが入っていた。
それでも目を凝らして周囲を見渡す。他には?とずっと見つめていると少しだけ光に反射する物を発見。近寄ってみると、昨日まで食べていたビスケットの箱と、飲もうと思っていた未開封の水のペットボトルが落ちていた。
「…どうしてこれだけ?」
まあいいや。取り合えずここに居る理由はわからないけれど、とりあえず何とかなるだろうと思って、落ちている物を拾い上げると、足を進めることにした。
「車が走ってるってことは、人がいるってことだし。道を聞けば何とかなるだろう」
自分の場所から下に道が見える。取り合えずそこに降りて、大通りへ向かおう。とそう考えて、子供時代を思い出しながら木の枝につかまったり、なんとなくそこら辺に生えている長めの草を辿りながら道なき道を下っていく。
「なんだか懐かしい感じがする」
祖母の家の近くもこんな感じの何と言うか整備されていないような場所があって、そこをよく冒険したのを思い出した。
「…その時とは体の大きさがずいぶんとあれになったけど」
何とかして体を滑らせないように慎重に動かしながら下の道にでる。足元は固められていて歩きやすくなっていた。
「…どっちだろうか。でも、まあ見える方へ行けば…」
そう考えていた時、向こうから何かがやってきた。
「なんだ?あれは馬車?」
馬のような生き物が2頭、先頭に居て、その後ろに荷馬車みたいなものがくっついている。手綱をもっている人物が見え、僕はなぜかそこで安心した。
「よし、あの人に道を聞ける。ここはどこなのだろうか」
この時の僕は、この時代にどうして馬車が。とかいう感覚はなくて、むしろ自分の今の状況を知りたくて仕方が無かったのだろう。あんまり細かいことはきにしていなかったのだと思う。
ゆっくりと荷馬車がこちらへやってくると、だんだん正面に座って手綱を持っている人が僕の存在に気が付いたのか手の動きを緩め始めた。
そしてしばらくすると停止し、その人物は僕に向かって声を向けて話しかけてきた。
「どこのものだ?」
距離感的にはやや遠い。少し声を張り上げなければ会話が出来なさそうな距離。多分、そうしたのは僕に対して何かを感じ取ったからなのだろう。でも、僕はそんなことに気が付かづ、徐々に近寄りながら声をあげた。
「あのー、すいません。ここは何県なのでしょうか?それと、コンビニとかありませんか?」
我ながら何県なのかを聞いたのはなんかそうじゃない。っていうのはわかる。だし、コンビニの場所を聞くのもなんかそうじゃない。とは思ったのだけれど、仕方がない。頭の中で色々と整理した結果、こうなったのだから。
すると僕の質問に答えずに、その人物は聞き返してきた。
「どこの家出身だ?…そこに居るということは木森家の人間か?」
ん?なんでこの人は僕の苗字を知っている?
「…はい、僕は木森家の人間です。木森カケルです」
「カケル?そんな名前の奴はここにはいないぞ」
どうやらこの人物は僕の家の事を知っているらしい。なるほど。ということは近所の人なのかもしれない。
「ジンゴ?どうしたの?止まっているけれど。何かあったの?」
荷馬車の中の方から声が聞こえて来た。女性の声。その声に反応した人物はどうやらジンゴという名前らしい。
「すいません、お嬢。何やら見知らぬ人物が道にいまして」
「…見知らぬ人?」
昔テレビで見たことが有るような時代劇でも見ているような感覚。声の主は荷馬車の窓みたいな場所についている、ずだれのようなものを持ちあげるとこちらを覗き込んできた。
中の様子はこちらからわからない。手だけが見える。
「ふぅん」
そう言うとその女性は何を思ったのか今度は荷馬車のドアみたいな部分に手を掛けて内側から開けて、体を出して降りて来た。
足元は下駄っぽい靴、そして振袖みたいな柄の半袖服を着てはいるものの、なんというのだろうか、完全に着物ではなく、着物と洋服を足して見た感じの少し派手な服装をしていた。
降りて来た女性は僕の方に近寄ってくると一言だけ、そっと言葉を渡してきた。
「どうしたんだ?」
「あ、いえ…えっと」
どうしよう。気が付いたらここに居て、ここがどこなのかを聞けばいいだけなのだけれど、それを聞けないようなそんな雰囲気を感じる。
「ふぅん」
女性は僕の首元、そして左手に目をやる。すると少し考えるためなのか、目線を僕が来た方へ動かした後、腕を組んで僕の目を見て来た。
「あそこから来たのか」
「そうです」
僕たちの会話を後ろで聞いていたジンゴが話しかけてくる。
「お嬢。どうされましたか、こいつは何かあるのですか?」
「…ふぅ」
そうため息をつくと少しだけ女性の口調が質量を持つ。
「ジンゴ、だからあんたはいつまでも私のいつまでも私の近くにいるんだ。もっと、考えないと。…この青年はどうやら何も分かっていない様子だぞ」
「はぁ…」
するとまた僕の目を見てくる。
「青年よ、私の見立てではここの者ではないことは確かにわかる。けれど、そっちにはそっちで事情がありそうだ」
「もう少しだけ話をしよう。…ここでは往来がある。一目につかない場所へ案内しよう。ついてくるがいい」
とそう言うと、女性は歩き出した。




