105.なかなか始まらない話し合い
「私、いつも言っているわよね。身だしなみには気をつけてって」
「あ、ああ。だが、今回は仕方ないだろう。馬車の中で爆睡しちまったんだ」
「だから? 降りる時に髪の毛を元に戻してから、降りることはできるでしょう?」
「いや、待たせちゃ悪いだろう。それに俺は鏡を持ってきていなかったからな」
「お坊っちゃま、それに関しては私が持ってきていると、お話ししたはずですが?」
「おい、お坊っちゃまって言うなって言ってるだろう!」
「そんな事は、今はどうでも良いのよ! それよりバンジー。それは本当なの? バートランドに、鏡を持ってきたと伝えたのね?」
「はい。それだけではございません。他にも身だしなみに関する物は、全て持ってきていますので、すぐに整える事ができます、とお伝えしたのですが。私からカバンを受け取る前に、大丈夫大丈夫と言って、馬車から降りてしまわれたのです」
「へぇ、そうなの。じゃあ、あなたが言った、鏡を持ってきていないって言うのは、言い訳にはならないわね」
「い、いや、ほら、その前にも言ったろ。待たせちゃ悪いってな。すぐに報告したい事もあったし」
「それもね。今まで、あなたは何回、約束の時間に遅れてきたかしら? しかも遅れてきておいて、急ぎもしないで、ゆっくりゆっくり、私達の所へ来たわよね。あげくわりぃ、遅れっちまったと言いながら、大きな声で笑うだけで。心のこもった謝罪はなかったわよね? そんなあなたが、待たせちゃ悪い? はっ、今更よねぇ」
「あぁ、まぁ、それは。俺も成長したってことでだな」
「良い大人が、これに関して、成長ですって!! そんなことは子供の頃に終わらせておくものよ!! あなたのおかげで、アルフとミルが変な事に興味を持ってしまったじゃない!! 寝癖よ、寝癖!! それがカッコいい? 教えてください、じゃないわよ!!」
アルフ達と別れて客室へ移動した俺達。バートランド達との話し合いは、ほとんどが終わっていたが。他の仕事をしていて、遅れてきたシャーナのために、もう1度簡単に話しをし、これからの事に関して、お茶を飲みながら話し合おうと、客室へやってきたんだが。
話し合いを始める前に、いや、お茶が運ばれてくる前に、バートランドの寝癖と、それに興味を持ってしまったアルフとミルの事で。アルフ達の前では、怒らなかったが、実はとても怒っていたシャーナが、バートランドにを怒り始めてしまった。
いや、俺も、最初の話し合いをしながら。シャーナが来る前に、話し合いをしながらでも構わないから、寝癖を直してしまえと言ったんだが。面倒だから、後で水で直せば良いと直さずに。結局アルフ達に目撃され、アルフ達が興味を持ってしまった。
「大体、あなたは昔からそうよね! 大事な式の時にも。ちょっとしたパーティーの時にも、学校でも。毎回身だしなみに付いて注意されていたのに、なかなか直さないで。そのせいで一緒にいた私達まで笑われたのよ!! それが今だに直っていなくて、そんなあなたの影響がアルフ達にまで!!」
「いや、これくらい良いじゃないか。それこそただの寝癖だしな。サッと水を付けて直せんだから。大体アルフくらいの歳なら、こういうのみんな面白がるなんて、普通だろう」
「それでそのまま大きくなって、あなたみたいな大人になったらどうするのよ!!」
「良いじゃねぇか。仕事はきちんとしてるんだし」
「その仕事も何度サボって、私に押し付けたと思っているの!!」
「ぐっ……」
バシッ!! と、再びシャーナが、バートランドの腹を殴った。うめき声をあげてしゃがむバートランド。はぁ、この2人は、昔から何も変わっていないな。喧嘩する理由も同じだし。
バートランドはやる時はきちんとやる男だが、普段はかなりだらしなくて、いつもシャーナに怒られていて。
シャーナはシャーナで、バートランドを怒るのは、理由が理由だから別に良いんだが、やりすぎて家や物を破壊し、その事で俺達まで、周りに謝る羽目に。
それが今も続いていると思うと、シャーナも成長していないんじゃ? まぁ、そんな事を言えば、今度は俺が標的になるから言わないが。
「いい!! 今度そんな格好で来て、アルフとミルに見られたら、こんなものじゃ済ませないわよ!!」
「ぐっ……。なんだよ。お前だって、昔と変わってないじゃないか。すぐに暴力に訴えてくるところなんてそのままだ」
「何ですって!!」
あ~あ~、俺が言わないでいた事を。なんで余計な事を言うんだよ。これじゃあ、なかなか話し合いが進まないじゃないか。
俺はシャーナとバートランドの間の入ろうと、1歩を踏み出そうとした。が、その時だった。部屋の中が一気に寒くなり。置いてあった家具や、絨毯や壁がこおりはじめて、俺はその場にピシッと立った。
揉めていたシャーナとバートランドも、話すのをやめ、その場で動かなくなる。
「ふむ。私から言わせていただきますと、シャーナ様もエドガー様も、坊っちゃまも。まだまだ子供のようで。これは久しぶりに昔のように、今回の本題とは別に、話し合いが必要でしょうか」
「あ~、うん。俺は大丈夫だ。な、シャーナ」
「そ、そうね。大丈夫よバンジー。」
「ああ、大丈夫だ。2人とも、すぐに話し合いを始めよう。なっ」
コンコン、その時、ドアをノックして、アレンがお茶の用意をして、部屋の中へ入ってきた。
「これはこれは、久しぶりの光景ですね。何かありましたかな?」
「なに、昔から変わられていないようなので、あの頃のように話し合いが必要かと思ったのですが。坊っちゃま方には、必要なと言われまして。これから本題に入ろうかと」
「ああ、なるほど。では旦那様、奥様、バートランド様もお座りに。時間を無駄にしてはいけませんからね。もし必要であれば、私もバンジーと共に、先に本題とは別に話し合いを……」
「い、いや、大丈夫だ! おい、2人とも、すぐに始めるぞ」
「え、ええ!」
「わ、分かった」
急いでソファーに座る俺達。
「じゃあ、この間現れた、変異種の魔獣の話しと。不可解な魔獣達の行進について、話しを始める」
「ふっ、これも変わっていないじゃないか。いや、逃げるのは上手くなったか? 何かあれば、自分達を1番よく知っている存在に、きちんと理解するまで、こんこんと説教されるってな」
「トラビス! 始めるぞ!」
「はいはい」




