復讐 09
「アリエッタ。褒美をやろう」
同時に。
正反対の感情が込められた――ように表面上は聞こえる言葉が、クロードから放たれる。
クロードは、抱き寄せていたアリエッタの身体を一度離し、そして顎を上げる。
「いつもと同じものだ」
「はい。ありがとうございます」
そう言って、アリエッタはしゃがみ込み、
「いただきます」
クロードの――靴を舐めた。
それは完全敗北の証であり。
完全服従の印。
周囲は絶句。
その中で、アリエッタは靴を舐め続ける。
無表情で。
淡々と。
「気持ち悪いんだよ」
唐突に。
クロードは彼女を蹴り上げる。
引っ繰り返る、アリエッタ。
だが。
彼女はすぐに前傾姿勢になり、
「ありがとうございます」
もう一度、クロードの足に擦り寄る。
垂涎しながら、彼女はクロードに頭を下げる。
「お願いします。もう一度だけ、あなたの靴を……」
「――この通り」
アリエッタは完全に無視し、クロードは両手を広げてカメラに視線を向ける。
「アドアニア陸軍のトップが俺の下僕だ。そういう地位の奴も下僕にしているという事実を、世界中は認識せよ」
クロードは足元の彼女を再び蹴り倒す。今度は起き上がって来ない。それを全く気にしない様子で、彼は演説を続ける。
「俺の名はクロード・ディエル。魔王と呼ばれる存在だ。そして――」
得意げな表情を見せず。
不敵な笑みも見せず。
嬉しそうではなく。
かといって不満がありそうではなく。
無表情で。
無味で。
しかし、底冷えをしそうなほどの恐怖を与える声で。
クロードは、堂々と宣言する。
「――『ジャスティスを破壊する者』だ」