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歴史人物浅評  作者: 張任
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麗笑は高らかに

今現在、ネット上には様々な動画が有象無象と溢れている。

映画やアニメ、PVに実験。全力で下らない企画を行うのも有れば、希有で美麗な光景を映し出す物も存在したり。

中でも最もポピュラーなのが動物を映した動画だろう。

可愛らしい容貌に愛らしく行動を取る彼等は老若男女を問わず人気を得、多大な再生を担う一役を買って出ている。

…しかし。その『一役』は必ずしも、善き物とは限らない。


1 boy 2 kittens.


今回は上記の題名で投稿された或る動画、並びに其処から端を発する世界を震撼させた一大騒動について記そうと想う。


 _______________


「鬼さん此方 手の鳴る方へ」


2010年12月。動画投稿サイト『YouTube』に一つの動画が投稿された。タイトルは1 boy 2 kittens…文字通り、一人の少年と二匹の仔猫が登場する動画だった。

これだけならば何処にでも有りそうな物なのだが、直ぐに動画は物議を醸す事と成る。内容に問題が有ったからだ。


家庭用のカメラで撮られたのか非常に粗い画質の中、画面に映し出される少年と仔猫。冒頭の数十秒の間は猫を愛でるばかりで特に問題となる描写は出てこない…のだが。

しかし中盤、少年は突如として狂気の行動に移る。先程の仔猫を圧縮袋に放り込むと、掃除機で空気を抜き始めたのだ。

その一連の動きには何の葛藤も呵責も見受けられない。

真空に近付くに連れて苦しみ出す仔猫。弱々しく抵抗しながら、助けを求めてか細い声を上げる。少年は気にも留めず。

軈て動きも声も小さくなり…途絶え…誰の目にも絶命が明らかになった時。画面中の彼は視聴者を嘲笑うかの如く、仔猫の死体で悪趣味な遊びに興じて_____動画は終了する。


明確な動物虐待に加え、動画の端々から滲み出る不快な悪意は人々の激憤を誘うに十分な代物で在った。

彼の動画には多数の人々が押し寄せて口々に非難し、理解し難き人間性を罵倒した。そして何時しか彼等は一個の集団と化し、或る目的を掲げて行動を開始していく。

即ち、投稿者の特定。ネットの向こう側に居る人物を暴き出そうと考えたのだ。…当然だが容易な事では無い。

情報として残されているのは唯一つ、画面の粗い一分弱の短い動画。人物の顔すら碌に分からない物から、世界中に散らばる人間からたった一人を割り出そうと言うのだから。

無論、そんな事は参加した人々も分かっていた。それでも自らの怒りを少しでも鎮め、あわよくば犯人を誅する事が出来るやもと考え、兎も角と行動を始めたに過ぎない。


一時の感情から産まれた、謂わば即席の祭りの様な代物。

しかし。彼等は思いもしなかった。この追跡が幾年にも続き、そして、世界中へと拡まる出来事へと変貌しようとは。


「Something in the air」


電脳世界に於ける個人の特定。そんな言葉を聞くと先ず思い浮かべるのは凄腕のハッカーがキーボードを叩いて華麗に盗み出す姿なのだが、実際の所はそんな魔法の様な状況とは程遠く、非常に地味な作業が大半を占めている。

本件での特定作業を例に挙げると、先ず彼等は動画を一コマ毎に画像へと出力。数千枚にも及ぶ写真の中から、カメラを動かした際に一瞬映る部屋内部の様子を抽出していく。

掃除機にタバコ、間取りや家具の数々。何て事無い日常の風景から犯人へと繋がりそうな手掛かりを見つけ調査を行う。


タバコに記されている注意の文言、これが国毎に差異が有る事に目を付けて各国の物と比較し、調べる国の数を絞る。

一定の数にまで減らした後、今度は動画にて登場した掃除機の種類を調べ上げて、製造場所から居住地を特定。

件の物品を販売している複数店舗から実地で聞き込み調査を行い、期間内で購入した人物が居ないかを確認していく。

或る程度の目星が付いたら間取りから部屋のサイズと建物の特徴を推測し、条件に当て嵌まる場所を捜索するのだ。


何れの調査も同様なのだが一個の閃きで瞬間的に成果が出る事は決して無く、一つ一つを綿密に調査・検証して点と点を繋いで線とし、それを無数に組み合わせて絵図を編む。

何万回にも及ぶ反復作業、それを無数の証拠分も繰り返し、結果として見つけた新たな手掛かりを元に振り出しへ戻る。

確認、推察、発見。度も実行される地味で単調な作業を彼等は行い続けた。執念と義憤が活動を支えていたのだろう。

そして、遂に。彼等は検証の果て、犯人の居住区域を極めて限定的な範囲にまで縮める事に成功する。正に快挙だった。


そして其処で手詰りと化す。証拠が完全に無くなった為に。


考えてみれば当然の話だ。そも発端が一分程度の短い動画だった事に加え、非常に粗い画質のお陰で顔すら覚束無い。

部屋の内部こそ一瞬映すものの、窓などの場所を特定する上で有用な部分は頑なに枠内に入れない徹底振り。

声になる物は吐息すらも漏らさぬ上、敢えて海外の番組音声を部屋で鳴らす事で捜査の撹乱をも図っていた。

衝動的では無い、追跡をも視野に入れた計画的な犯行なのは明らか。となると漸く得た所在地情報も信頼が置けない。

ここまで個人情報の漏洩に対して慎重を期す犯人の事だ、今以て証拠の塊の如き同部屋に住んでいるとは考え難い。

結局。時間と労苦を経て得た物は、虐待を撮影した『と思しき』人物の居住している『可能性の高い』地域内の、犯行に用いられた『のと似ている』建物を発見した事だけ。

確定した証拠とも言えぬ、そんな代物だった。最初の内は。


「カサブランカを携えて」


捜査が手詰りとなり、遅々として進まない現況に歯痒い思いをするネット上の探偵達。そんな中、彼等を嘲笑うかの様にまたしても犯人が動画を投稿する。

内容は以前と同様、仔猫を殺害する物。だが方法が自分の手で沈める直接的な方法と化し、露悪性が更に増していた。

新たなる証拠の提示及び悪質な挑発は意欲を失いつつあった一団を再度奮起させ、特定作業へと戻らせるのに十分な効果を発揮した。それだけでは無い、悪意が増すに連れて探偵役も増加し、遂にはTVで報道される程に成長していく。

特定作業はその性質上、調査する数が兎に角と物を言う。

国内で普及するTVでの報道は宣伝効果を抜群に発揮し、調査人数を爆発的に増強させる事に一役買った。初期の頃と比べれば数倍にも規模は膨れ上がっており、この大人数で物事に取り組めば問題解決も時間の問題かと思われた。しかし。


突如として数が増えた事により意識の統一が困難となり、それまでは少数で行えていた筈の特定作業までもが難航。

更には参加者からの情報が急激に、かつ精査されないまま報告される事が多くなり、正確性すらも著しく低下。

解決の糸口になる処か、混沌の迷路へと嵌り込んでしまう。


そして、予期せぬ混乱は最悪の形で結果を出してしまう。

調査をしていた人間の一部が『犯人』をSNS上で発見し、グループに大々的に報告。激昂した多数のメンバーにより、犯人と目されたアカウントに突撃を繰り返して『幾度も』『執拗に』『過激な』文章を用いて人格と人生を詰り、謗って、徹底的に否定的な感情を相手に投げ続けた。

数日後。延々と人間性を否定され続けた男性は自殺する。


彼が事件とは何ら関係の無い、単に横顔が似ているだけの他人と言う事実が判明するのは、その直ぐ後の事だった。


________________


虐待動画から端を発したネット上の探偵団、彼等の目的は『悪意を持った犯人を特定する』事だった筈だ。

しかし特定作業が進むに連れて人数が増え、伝達が難しくなり情報共有が疎かになった結果、当初の目的意識が揺らいで『悪人を罰する』と言う単純明快な物へと変貌した。

正義や道徳、親愛や義憤と言った感情は歴史上、如何なる国でも何時の時代で在ろうとも普遍的に尊ばれている。

それはこれらの代物が国家運営を円滑に進め、産業や技術の発達に不可欠、社会環境の向上に寄与し、無用な騒乱を避ける要素と考えられてきたからだ。そして、それは正しい。

今日での世界を構築してきたのは先人の感情なのだから。


だが勘違いをしてはいけない。正義も、道徳も、親愛も義憤も何もかも、決して行動だけを指す言葉では無い事を。

その行動に至るまでの意志こそが、真に尊ばれている事を。


善き思想から善き行為を思い付き、善く行動するを善人。

思想はどうであれ、善人の行動を真似て行うを善行とし。

己が無法無道を覆い隠す大義名分に使うのを偽善と呼ぶ。

膨れ上がった一団は意識統一を為せず、当初の思考が薄れて掲げられた目的のみが遺された。そして確固たる意志を持たずに問題に取り組めば、必ず楽な回答へと流されていく。

初期から活動していたメンバーが証拠と沿ぐわないと説得しても聞く耳持たず、犯人と目された人物を『幾度も』『執拗に』『徹底的に』まるで自分達が忌み嫌っていた『犯人と同じよう』に攻撃したのはつまり、そういう事だろう。

命を悪戯感覚で弄んで剰え不快感を盛り込む人間を見つける地味で地道な活動よりも、大衆から悪と見做された誰かを華々しく糾弾する方がずぅっと楽しかったのだ。


しかし上でも記した通り、行為は正しさを証明しない。

根差す意志が重要な訳で、行動は付属したに過ぎない。

其処を取り違えた瞬間、尊ぶべき要素は霧散するのだ。


そう…意志。それこそが事件を解決に導く、否、理解へと導く要素だった。ネット上の探偵のでは無い、犯人のだ。

そも彼はどうして動画を投稿したのか。情報漏洩に敏感だったにも関わらず、なぜ証拠品を置いていたのか。特定の危険性を考慮に入れてなお、再度犯行を繰り返した理由は。

_______その答が、彼の投稿した最後の動画に存在する。

1 Lunatic 1 Ice Pickと言うタイトルで投稿された11分の動画、それは今迄の物と同様で…そして全く違う物だった。


動画に移された物。それは四肢を縛られた、人間だった。

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