4・おうひさまといもうとさま
失意のまま夫となった彼の国に来て、沈みきった気持ちを奮い立たせて結婚して。何も言わない彼に謝罪したのは、ようやく周囲から人が消えて、二人っきりになった初夜のこと。
彼は、きっとわたくしを軽蔑する。
結局は、自分が将来有望な男に嫁ぎたかっただけだと、思われる。自分のことしか考えていない浅はかで、頭の悪い箱入り姫だと。姉妹だ何だと綺麗なことだけ並べた、バカだと。
実際、わたくしはそういうバカなのだろうと思う。
この場に立って、真実を告げ、わたくしが恐れているのはわが身の未来。
しかし彼は意味深に笑い、何事も無かったかのように……まぁ、やることを致し。それどころかやりすぎというか、ともかく一週間ほどわたくしは朝日を見ることができなかった。
わたくしは、そっちの知識はあまり無い。
知り合いの令嬢にも聞いたけれど、みんな『旦那様におまかせ』という言葉で、濁されてしまっているらしい。だからわたくしは知らないことに、何度も戸惑って意識も飛んでいった。
ベッドから出るどころか、指一本も動かせなくなって。お風呂もままならず。食事も食べさせてもらう始末。いくらお世話されることになれていても、こんなのは初めてで恥ずかしい。
しかもつれてきた侍女以外の、若い侍女はいつも頬を赤くしているし。そして気づいたらみんないなくなっていて、わたくしぐらいの子供がいそうな、おばさまばかりになっていた。
「みんな恥ずかしがって仕事にならないので……」
と、言われたけれど、どんな顔をすればよかったのかわからない。
こうして体感で一日二日にしか思えない一週が終わり、やっとわたくしは開放された。
ベッドから出られるようになり、真っ先に会いに来たのは意外な相手。
侍女に連れられてきた、わたくしの大好きなあの子だった。押し付けられた豪華なだけのドレスではなく、質素だけど彼女によく似合う落ち着いたドレスを着た、彼女が。
「こんにちはお姉様」
なんて、笑っていうから。
痛む身体のことなど気にせず、わたくしは彼女に抱きついた。
ただ、抱きついて子供のように泣いていた。
■ □ ■
結局、結婚してそう経たないうちにわたくしは、命を授かった。彼の愛情表現はよくわからないのだけれど、とりあえず大事に思われているようなので、ほっとしたりしている。
問題があるとするならば、それは。
「だから、女の子同士じゃないとできない話があるんだってば」
「聞くだけならかまわんだろう」
……という、『あぁ、この二人は兄妹なんだなぁ』と、聞いているだけで痛感できるそっくりな二人が、わたくしの左右を陣取ってわたくしとお散歩をする権利を奪い合うこと。
結婚してしばらくして、わたくしは彼女が無事であることを知った。
あの護衛役は彼の側近で、直接彼女を守っていたという。
彼が半ば誘拐する形で彼女を連れ出し、結婚したのだと聞いた。公式に彼の妹として、彼女はこうして時々城に来てくれて、いろいろお話もできてわたくしは幸せ……だけど。
そのたびに旦那様が、こうしてやってくるのは、ちょっと困る。
ほら、今日も向こうで側近の方で、彼女の旦那様がものすごいお顔で睨んでますよ。またわたくしを見かけて、お仕事をぽいっと途中で投げ出してきたのですね。
普段はちゃんとやる人なのに、どうしてこうなのかわたくしにはわからない。
……とはいえ、わたくしは幸せだ。
愛する旦那様がいて、大好きな妹も一緒にいられて。
その妹にも、大事にしてくれる相手がいて、どちらももうじき親になるのだから。