第12話 余命一年の幼馴染
プリシラ・ノートン主催の晩餐会。
そこでアルテシアは間違ったドレスコードを着てきてしまい大恥をかく。
招待客の女性陣は皆モスリン生地の涼し気なドレスを纏っているというのに、アルテシアだけはプリシラに騙され、生家から取り寄せた豪奢なドレスを着て悪目立ちしてしまうのだ。
着替えてくると言ってもプリシラやその友人達が面白がって「そのままで大丈夫よ」と引き留める。
そして終いにはプリシラが特別に用意したものだといって、毒入りのワインを飲ませるのだ。
───フェリクスの妻である貴女にとって、私の存在は邪魔だったでしょう? なのにいつも私の面倒をみてくれてありがとう。そのお礼として、ぜひ受け取ってほしいわ。
天使のような笑みを浮かべてワイングラスを渡すプリシラに、拒否することもできずアルテシアは口にする。
しかしあまりの薬品臭さから咄嗟に毒だと気付き、嘔吐するのだ。
それを見てくすくすと笑うプリシラの友人やその恋人達。フェリクスはそんな妻の醜態に恥ずかしくなり素知らぬふりをし、プリシラは「大丈夫か」と気遣う振りをして嘲笑する。
───せっかくフェリクス様との仲が深まり始めたのに、失敗してしまった。
衆人環視の中、場違いな格好だけでなく嘔吐してしまった。
小説では、そんな自身の醜態にアルテシアは死んでしまいたくなるくらい嘆き悲しむのだ。
◇
当日、オズモンド家の屋敷に続々と馬車が集まってきた。
食堂は晩餐会用に整えられ、テーブルには銀の燭台と花が飾られている。
そしてプリシラの生家であるノートン子爵家の若い親戚達や、プリシラの友人達にその恋人の若い男女数組がすでに席につき談笑していた。
(晩餐会というよりも、浮かれた若者達の集まる飲み会(合コン)みたい)
テーブルの席は指定されているらしい。
一番奥にフェリクスとプリシラが陣取っている。そして私はというとオズモンド家の夫人という立場でありながら、彼らから最も離れた隅の方の席を用意されていた。
(別に良いんだけどね)
プリシラの嘘を真に受けず、食堂に集まっている女性陣と同じようにモスリン生地の白いドレスで現れる。
そしてそのまま席につけば、一番奥でフェリクスと談笑していたプリシラがぎょっとした様子で私を見つめた。
「どうしたんだい? プリシラ」
「あ、いや、アルテシア様がいらっしゃったから………」
「ああ、本当だ。というよりアルテシアの席を間違えていないか? オズモンド家の夫人ならば、俺の隣にいるべきだろう」
「で、でもアルテシア様があの席が良いって言ったの! だから無理に変える必要はないと思うわ!」
(言っていないけど…………)
内心それに苦笑しながら否定した。
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晩餐会は始まり、コックに用意させた食事が使用人達に次々と運ばれてくる。
若い男女ばかりなものであるから作法もなく、つまみを食べるかのように食事に手を付け、ワインを煽った。
するとそんな最中、プリシラの近くに座る若い令嬢達がくすくすと笑みを浮かべながら口を開く。
「ねえ、プリシラ。あれがあのアルテシア様?」
「フェリクス様も言っていたわよね? 常に我儘ばかり言って使用人達を困らせているって。パーティーにだって、他の殿方と逢引きしたいから行かないって」
「へえ、あんな品の良い顔をして随分奔放なようだな」
そんなプリシラの友人の言葉に、彼女の恋人である若い男達が嘗め回すように見つめてくる。
それにフェリクスが気まずい顔をして「いや……」と口籠るが、今更自分で蒔いた種をどう対処しようか考えていなかったのだろう。
そんな彼らの会話に辟易とするし、フェリクスなんかはよくもまあ私に「償いたい」と言えたものだと感心した。
「ねえ、どうしてあんな人もこの晩餐会に招待したのよ?」
若い令嬢がプリシラの耳元に顔を寄せながら尋ねる。
小声だけれど、しっかりと私の耳にも聞こえた。
するとプリシラは眉を寄せながら、困ったように苦笑してみせる。
「───今宵の晩餐会では、少しでも私のことを知っている人を招待したかったの」
そしてプリシラは席から立ち上がった。
食堂にいる全ての招待客に聞こえるような声音で言い放つ。
「タイミングが良いから、ここでちょっとした挨拶をさせていただくわ。今宵はこのちょっとした催しに来てくださって、ありがとう。今日ここに貴方達を招待したのは、私から伝えたいことがあったからなの」
伝えたいこと。
プリシラの言葉に若い招待客達が不思議そうな顔をする。
そんな彼らにプリシラは儚げな笑みを浮かべて告げた。
「……………実は先日、専属医から言われてしまったんです。───私の余命を」
「…………余命?」
呆然とするフェリクスにプリシラは頷く。
「私の余命はあと一年。だから生きている間に、お世話になっている人達にお礼を言いたくて今宵の晩餐会を開いたの」
───プリシラの言葉は、もちろん嘘である。
彼女の余命があと一年というのは、そう言えばフェリクスの関心が再び自分に戻ると分かっての嘘であった。
そんなプリシラの目論見通り、フェリクスは驚いたように目を見開いている。
「プリシラ、君は…………」
「もっと明るく言えたら良かったのに、ごめんなさい。でもこうやって晩餐会を開いて、これまで私を支えてくれた貴方達にお礼ができたらと思ったのよ」
それに招待客達は同情したようにプリシラを見つめる。
するとプリシラはワインスタンドから瓶を手に取った。近くに控えていた執事のロレンツに栓抜きをさせ、自らの手でグラスに注ぐ。
そして赤ワインの入ったグラスを片手に、私のもとまでやって来た。
「アルテシア様、フェリクスの妻である貴女にとって、私の存在は邪魔だったでしょう? なのにいつも私の面倒をみてくれてありがとう。そのお礼として、ぜひ受け取ってほしいわ」
この状況で受け取らないなんてこと、しないわよね?
美しい笑みを浮かべてワイングラスを差し出すプリシラに私は吐き気がしながらも受け取る。
この女はなんて醜悪なんだろう。
私が辱められるのをそんなにも見たいのか。
「…………どうもありがとう。ぜひ頂くわ」
そして私はプリシラに促されるまま、ワインをあおった。
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