08. 俺が助ける理由
世界一のかっこよさを目指す男、鳴紫恋。
倒れ、裏切られ、それでも彼は立ち上がる。
過去の影に胸を刺されても彼が走る理由は、
ただひとつ
ーー世界一カッコいい男になりたい
その美学が、今日も彼を動かす。
「……う、……」
意識がぼやける中、
恋は白い光の中でゆっくりと目を開けた。
「ぅ……ん……」
頭に強い違和感が走り、思わず手で押さえる。
上体を起こし、
ここがどこなのかを確かめようと周囲を見渡した
そのとき――
「こっぴろくやられたみたいだけど、大丈夫?」
透き通るような綺麗な声が、すぐ近くから響いた。
その声を聴いて恋は理解した。
夢の中だと。
視界は一面の白。
その真ん中に、
ひとりの少女が後ろで手を組んで立っていた。
短い白髪が光を受けて淡く揺れ、
部屋の白さよりも彼女自身の白が際立って見える。
年齢は恋と同じくらい。
どこか儚く、
触れれば消えてしまいそうな雰囲気をまとっていた。
恋は黙ったまま、少女を見つめる。
「ちょっと、無視ってひどくない?
頭打たれて?喋れなくなっちゃった?」
少女はくすっと、あざとい笑みを浮かべる。
ーー最近よく見る夢。
ーーいつからか見るようになった夢。
「まぁ、喋らないならいいけどさー。
別にそんなに興味ないし。」
「今日は何の用だよ?」
恋は冷たく返した。
その声音は、いつもの彼とはどこか違っていた。
「用がないと出てきちゃダメなの?
相変わらずお堅いねー恋は。
あ、わかった!好きな人できたんでしょ?
ほんと、分かりやすいなぁ」
少女はくすくすと笑う。
「当ててあげようか?
そうだなぁ……今朝恋が助けた女の子?
いや、でも恋って、
ああいうタイプ好きじゃないよね?
恋が好きそうなのは……
あ、わかった!あのほのかとかいう子!
確かに可愛いもんねぇ」
少女は的外れな推理を、
なぜか自信満々に披露していた。
「用がないなら行くぞ、“夢”。
お前に構ってる時間はない」
「えー、せっかちだなぁ。
もしかして、あの子を助けに行くつもり?」
白い少女――夢は、楽しげに問いかける。
「あぁ……」
恋は短い沈黙のあと、低く答えた。
夢はその返事を待っていたかのように続ける。
「ほんとに行くんだ。懲りないねぇ。
というか、
まだヒーローごっこ続けてたんだ?正直、意外」
そして――
「“あんなこと”があったのに」
空気が一瞬で冷えた。
夢の声は穏やかなのに、
その言葉だけが恋の胸を深く刺す。
「肝心な時に守れないところ、
変わってないね、恋は」
恋は必死に言葉を探し、喉の奥で震わせる。
「それでも……俺は……」
だが、夢が軽く遮った。
「あはは、冗談だよ。本気だと思った?
ごめんね、忘れちゃったかと思ってさ、
ちょっと意地悪したくなっちゃっただけ。
恋の反応、面白いんだもん。
助けられるといいね、ほのかさん」
夢は呑気に笑う。
「頑張ってね、恋!応援してるよ」
「……あぁ……」
恋は静かに返した。
この夢が、もうすぐ終わることを感じながら。
ーー最近よく見る夢。
ーーいつからか見るようになった夢。
そして、白い世界はさらに眩しく光を増していった。
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「おい……きろ……」
かすかに男の声が聞こえる。
「おい、起きろ!!」
今度ははっきりとした野太い声。
その声に引き戻されるように、
恋はゆっくりと意識を取り戻した。
「やっと起きたか?」
目を開けると、
剛が覗き込むように顔を近づけていた。
恋は正直、心の底からがっかりした。
そしてその落胆を振り払うように、
手を使わず勢いよく起き上がる。
「うわぁぁ!!」
剛は驚いて思わずのけぞった。
「何しやがる!起き方が激しすぎんだろ、お前!
もっとゆっくり起きろっての!」
「は〜ぁ……正直がっかりだぜ。
目を開けたら目の前に
美少女がいるラブコメ展開を期待してたのに、
よりによって最初に拝むのが
こんなイカつい男の顔とは……目覚めが悪すぎる」
文句を言う剛を、恋は容赦なく切り捨てる。
「何を言いやがる!!
眠っている間、看病してやった奴に向かって
その言い草はねぇだろ!」
恋はふと頭にひんやりした感触を覚えた。
どうやら、
剛が冷却シートで冷やしてくれていたらしい。
「これはお前が?」
「…あぁ、一応な……
あんなもん喰らって何で生きてんだよ、お前。
普通死ぬだろ」
剛は視線をそらしながら答えた。
「まぁ当然だ。
俺は日々鍛えてるからな。
……って、そういう話がしたいんじゃねぇ」
恋は続けた。
「看病してくれたのはありがてぇが、
なんでお前がこんなことしてんだ?
敵だったお前が、どうして俺を助ける?」
純粋な疑問だった。
先ほどまでの状況を思えば、
剛が恋を助ける理由はどこにも見当たらない。
剛は言いづらそうに口を開けた。
そして…
「俺たちは白石ほのかに助けられた。
だから、お前を助ける……それだけだ」
恋はゆっくりと辺りを見回した。
冷却シートを当てられたまま横たわる翔、
そしてその隣で座り込んでいる剛。
だが――それだけだった。
タカシの姿も、ほのかの姿も、
どこにも見当たらない。
恋は状況を悟った途端、剛に問いをぶつけた。
「やっぱり俺を殴ったのはタカシなのか?」
「……あぁ、そいつが俺らの雇い主様さ。
白井ほのかはそいつに連れ去られた」
「……!!」
恋の目の色が変わる。
そして、剛の胸ぐらを掴んだ。
「じゃあ、お前はただ見てるだけだったってのか!?
女の子が連れ去られそうになってるのを!!」
「仕方ないだろ……
俺にはどうすることもできねぇ……
俺を負かしたお前を一撃で倒したんだぞ?
俺に何ができるってんだよ……
そんな相手に挑めるかよ」
恋は、自分の不甲斐なさを噛みしめた。
俺が油断しなければ、
こんなことにはならなかった。
タカシを……信じすぎた。
恋は剛の胸から手を離す。
「何分だ? 俺はどれくらい眠ってた?
あいつらがいなくなってから、
どれくらい経つ?」
「眠ってたのは……およそ十五分だ。
あいつが白石ほのかを連れて行ってからは、
まだ十分も経ってねぇ」
「そうか……」
恋は短くそう答えると、そのまま歩き出す。
剛はその背中を見て、思わず声をかける。
「おい、助けに行くんだろ?
怖くないのかよ?
いくらお前でもまたあれを喰らったら
今度こそ死ぬぞ?」
「喰らわなければいいだけの話だろ?
あれは不意打ちだった…もう二度と喰らわねぇ」
それでも剛は納得できない。
「なんでそこまでする?どうしてそこまでできる?
負けて悔しいからか?
白石ほのかを助けたところで、
お前に何の得もねぇだろ。
……俺には、どうしても理解できない。」
恋は答える。
「そうか。お前は答えが欲しいんだな。
なら教えてやるよ、答えはシンプルだ」
恋は胸を張って高らかと宣言する。
「――俺は、世界一カッコいい男になりたいんだ!」
「目の前の女の子一人すら助えない、
そんなダサい奴にはなりたくねぇ!
それが、俺の“ヒーロー像”なんだよ!!」
剛は思わず目を丸くした。
「そんなことのために?
プライドの問題だっていうのか?
そんなものに命を賭けられるって、
本気で言ってるのか?」
「もちろんだ!
別にお前に理解されようなんて思ってねぇし、
誰かに理解してもらえるとも思ってない。
俺が、俺自身を認められてさえいれば、
それだけでいい。」
剛はハッと息をのんだ。
そして考える。
自分はこれまで、
一度でも自分を認めたことがあっただろうか。
心の何処かでどうせできない、
と最初から諦めてはいなかったか。
いつも“負け犬”だと、
自分で自分を決めつけていたのではないか――。
「もういいだろ?早くタカシの居場所を見つけて
白石を助けに行かねぇと」
「……冷却シートはありがとな。
今度、お前が困ってたら助けてやるよ」
恋は踵を返してその場を離れようとした。
だが、剛が慌てて声を上げる。
「ちょ、ちょっと待てよ!」
恋は振り返り、わずかに不機嫌そうな顔をする。
「なんだよ。まだ何かあんのか?」
「居場所に心当たりがある。
たぶん、今は使われてない体育館裏の倉庫だ。
俺たちはそこで、あいつから依頼を受けた…
あそこが、奴の隠れアジトだと思う」
恋は一瞬だけ驚いたが、すぐに明るい表情になった。
「そんな場所があったのか!?
よし、わかった!ありがとよ!」
「探す手間が省けたぜ。
あとはあいつをぶちのめすして、
白石を助けるだけの簡単な仕事だ!」
「待ってろ、白石――お前を助ける正義の味方を!」
そう言い残し、
恋は光も凌駕する勢いで駆け出していった。
お読みいただきありがとうございます!
読んでくださったあなたはヒーローです!
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