07. ほのかな叫び
【前書き】
世界一のかっこよさを目指す男、鳴紫恋。
今日も彼は誰かを救い、誰かに勇気を与え、
いつものように“ヒーロー”で終わるはずだった。
だが――その光のすぐそばで、
静かに、確実に、闇が形を成していた。
校門前には、
つい先ほどまでの騒ぎが嘘かのように静けさが戻っていた。
翔は地面に倒れたまま動かず、
剛はただ立ち尽くし、
力の抜けた目でその場を見つめている。
そんな中、俺は太陽の光を浴びながら、
まるで舞台の主役のようにそこに立っていた。
「……ふぅ。
今日の俺も、安定のかっこよさだったな。
かっこよさポイント+五くらいか?」
自分で言いながら、さらりと髪を払う。
「おーい、鳴紫ー!!」
息を切らしながらタカシが駆け寄ってくる。
俺はタカシを見るなり、爽やかに笑った。
「お前、やればできんじゃねぇか。
さっきまではただのヘタレだと思ってたけど……
見直したぞ」
タカシは照れたように視線を落とす。
「え……俺?
いや、結局俺なんか…
鳴紫の足引っ張っちまったしよ…」
「そんなことはない!
あの走り方、あの飛び込み方。
“好きな子を守りたい”って気持ちがあっても、
あそこまで体を張れるやつはそういない。
お前は……かっこよかったよ」
タカシの耳が赤く染まる。
「……いや、そんな……俺はただ……」
俺は軽く肩を叩き、続ける。
「俺は自分が世界一かっこいいと認めてるが、
今日のお前はその次くらいにはかっこよかった」
「……っ、鳴紫……それ誉めてんのか?」
「もちろん!俺からの最高の褒め言葉だ」
タカシは照れくさそうに笑い、
俺も満足げに笑い返す。
俺たちはまるで昔からの親友のように、
楽しそうに言葉を交わした。
ふと、白石の様子が気になった。
近づくとまだ震えているように見えた。
心配になった俺は、彼女へ歩み寄る。
「白石、もう大丈夫だ…怪我はない…か…」
だが――
彼女は一歩、後ずさる。
瞳に怯えが満ちている。明らかに俺を、いや、
――この状況全体を恐れている。
「……?どうした、白石?」
彼女の唇が震え、小さな声。
「……わかった。私……全部、わかった……」
「?」
その尋常じゃない怯え方に俺は困惑する。
「おい、それは一体どういう……」
一歩近づき、詳しく聞こうとした瞬間、
「……鳴紫くん逃げて!!」
彼女は絞り上げるような声で叫んだ。
突如、後頭部に、強烈な衝撃が走る。
「……ガントレット……五十ギガニュートン…」
ガツンッ!!
視界が揺れ、膝が折れる。
今まで喰らったことのない衝撃が俺を襲った。
それもそのはず。
五十ギガニュートンという力は、
本来人間が耐えられる領域ではない。
たとえば、
スカイツリーの総重量を約四万トンと仮定する。
すると、五十ギガニュートンは、
スカイツリー百二十本以上を
まとめて引き抜くのと同じ規模の力になる。
そんな力を受けて尚、
意識を保っていること自体ほとんど奇跡だった。
まだ自分の身に何が起きたのかを
理解することすらできない。
(この衝撃、一体なんだ?
もしかして殴られたのか?一体誰に?
何のために?)
浮かび上がる疑問を押し殺して
何とか意識を保ち、背後に視線を向けた。
そこにあったのは、
小手のような装置を装着したタカシの拳だった。
タカシは静かに、しかしどこか冷たく呟く。
「……あーあ。
最新兵器でも殺せなかったかぁ。
まぁ、最強のあんたでも、
この小手なら気絶くらいはしてくれるよね。
悪いな、鳴紫。
お前がここまで強いとは、正直思ってなかったよ」
俺は地面に膝をつけ、意識が遠のくのを感じながら問いかける。
「……全部…お前が……黒幕はお前だったのか?」
タカシは無表情で、淡々と。
「黒幕?
いかにもお前が好きそうな響きだな?
そうだよ。
ほのかは"僕"のものだ。 誰にも渡さない。
……おやすみ、ヒーロー」
もう一度、後頭部に衝撃が走る。
「いや――!!」
彼女の悲鳴を聞きながら、 俺の意識は薄れゆく。
思えば、ずっと胸の奥に小さな違和感はあった。
誰にも話していない彼女の悩みをどうしてタカシが知っていたのか。
仮に悩み事を話し合える間柄なら、顔を見られそうになっただけでああはなったりしない。
それに、あの二人は俺の強さを誰かから聞いたような素振りをしていた。
信じすぎたかな……
俺の意識はそんな思考と共に落ちていったーー
ーー
「……鳴紫君!目を開けてっ!!」
白石ほのかは座り込み、
意識を失ったナルシストを抱き抱えながら涙目になっている。
「おい、どうなってんだよ……仲間じゃなかったのか?」
さっきまで戦意を喪失していた俺が、一連の流れを横から見ていた。
そんな俺にタカシと呼ばれていた男が話しかけてくる。
「おい、お前、恋を運べ」
「は?いきなり何言ってんだ?」
俺は困惑しながらも、その偉そうな口調に反論する。
「聞こえなかったのか?
あいつを運べって言ってんだ。
そしたら報酬をくれてやるよ」
「おい、何でお前が報酬のことを知ってんだ?」
「何でってそりゃあ……」
そう話しながらタカシはフードとマスクを被る。
「僕がお前らの依頼者だからなぁ!」
ただフードとマスクを付けただけなのに、
先ほどとはまるで別人に見えた。
「あ、アンタだったのか……」
「本来なら失敗した時点で殺してやりたいが、
まぁ僕は優しいからね、
こいつを運べば、今回は特別に見逃してやるよ」
そう言うとタカシは視線を地面の方に動かした。
その視線の先にはナルシストにやられて横たわっている翔の姿があった。
「だが……お前はダメだ僕を刺そうとした!
いくら僕だと気づかなかったとはいえ、
飼い犬が主人に噛みつこうとした!
どうなるか分かるよな?」
その変容っぷりに俺は唖然とした。
「た……頼む、見逃してくれ、知らなかったんだ!
こいつは悪くねぇ!わかった!
言うこと聞くからそいつを運ぶから勘弁してくれ」
しかし、タカシは聞く耳を持たない。
「あ?
テメェも僕に逆らうってのか?この僕に?
どいつもこいつも状況が見えてねぇみてぇだ」
タカシは拳を構える。
「この拳の威力はさっき見ただろ?
もう分かるよなぁ」
「た、頼む!今回は見逃し…」
俺がそう言い終わる前にタカシは拳を大きく振りかぶる。
「僕に逆らったこと覚悟するんだなぁっ!!」
(…ちくしょう……翔、俺たちはただ、
自由になりたかっただけなのになぁ)
その刹那
「止めて--!!」
白石ほのかの大きな声が辺り一辺に響き渡る。
タカシは殴るのを止め、彼女の方を見た。
「お願いだからもう止めて。
私が着いていくから、それでいいでしょ?
その人たちの目的は達成されたことになる。
だから……解放してあげて」
途端、タカシの表情が一変した。
「まじっ、着いて来てくれるの?
やったぁ〜、自らついて来てくれるなんて、
嬉しいよ!
嫌われたかと思って心配したんだよ」
タカシの口調は先ほどとはまるで違い、
今まさに人を殴ろうとしていた人物に思えない。
「わかった、こいつらは解放する!
だけど本当にいいの?
こいつらが君を連れ去ろうとした実行犯だよ?」
タカシは自分のことを棚に上げ、彼女に問いかける。
「分かってる。だけど解放してあげて」
タカシは満遍の笑みを浮かべ、返答する。
「君は本当に優しいね!
好きだよ!そういうところ。
お前らは彼女に感謝するんだな?
この僕の優しい女神様に!」
俺は終始支離滅裂なタカシの言動に恐怖を覚えた。
「……白石ほのか、恩にきる」
彼女は何も答えない。
ただ、俺らのことを哀れんでいるのか、
悲しそうな表情でこちらを見た。
「じゃあ、行こっか?」
タカシはすでに俺たちを気にも留めてない様子だった。
彼女は抱き抱えていたナルシストをそっと地面に置き、ゆっくり立ち上がる。
「ありがとう……鳴紫君」
苦悶表情を浮かべながら、最後にそれだけ言い残し彼女はこの場を立ち去った。
未だナルシストは眠ったままーー
【後書き】
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