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【第一章完結】ナルシズム!!  作者: おしるこ星人
第二章 蹴っ飛ばせ!青く輝くその足で!!
34/37

34. 天才、舐めんな


【前書き】


世界一のかっこよさを目指す男、鳴紫なるし れん


それは二年前。

まだ中学生だった頃の榊原さかきばら 青斗あおと


サッカーを失い喧嘩に明け暮れる毎日。

同じクラスのあおいに誘われ再びサッカーをすることに。


天才ストライカーとして復活することができるのか!?



「あれあれ?もしかして君、榊原青斗?」


アップを終え、ピッチに向かう最中だった。


聞き覚えのある声がする。

振り返ると、一戦目の相手チームに見覚えのある顔がいた。小学校の時に何度か対戦したことがある。


「お前……怪我したんじゃなかったの?

 まだサッカー続けてたんだ?」


嫌味ったらしく、突っかかってくる。


「よぉ、久しぶりだな。

 俺も自分がまたサッカーをやるなんて思わなかった」


「はぁ?何言ってんの?

 まぁ、頑張ってよ"元"天才ストライカー君?」


わざとらしい笑み。

周りの仲間もクスクス笑っている。


しかし、何故だかあまり苛立たなかった。


「あぁ、お互いにな」


俺はそれだけ言ってピッチに入る。


「頑張ろうね!榊原君」


すでにピッチの中でやる気満々の葵が笑いかけてくる。


「当たり前だ」


今はただ試合が始まるのが待ち遠しかった。


ーー


「……は? 何だよ!?

こいつ、怪我したんじゃなかったのかよ」


ベンチから漏れた声は、嫌な焦りと緊迫感をはらんでいた。


十分も経たないうちに、俺は二点も決めていた。


一本目は中盤からのミドル。

二本目はパスカットから独走。


完全に怪我なんてどうでも良くなっていた。

むしろ怪我前より速いとすら感じる。


煽ってきた同級生は、俺を見て固まっていた。


「……嘘だろ……」


俺はそんな視線なんて気にしない。

ボールを抱え、静かにセンターへ戻る。


(早くゲーム再開しろ。こんなのじゃやり足りない!)


胸の奥の炎が、燃えに燃えまくり、自分でもどこまで燃えるのかがわからない。


笛が鳴った瞬間、俺は前へ出た。

完全にビビっている相手から一瞬でボールを奪う。

次の一歩で、もう相手がいなかった。


「速っ……!」


悲鳴が背後に消える。


一人。二人。三人。

触れた相手が勝手に抜けていく。


最後にキーパーなんてほぼ意味をなさない、

撃てば入るのだから。


ネットが震えた。


三点目。


相手は声すら出なかった。


(……サッカー楽しい…)


俺の胸に、熱が満ちていく。


結局、その試合は7対0で終了した。

もちろん全て俺の得点。


「すげぇよ榊原くん!君、天才だったんだな!」


「七点も決めるなんて……!」


「怪我してたって聞いてたけど、全然そんな風に見えなかったぞ!」


大人たちが口々に褒めてくる。

息を整えながら、俺は静かに頷いた。


(……いや、こんなもんじゃない。俺はまだいける)


その確信だけが、胸の奥で膨れ上がっていく。


「おい、坊主」


監督が声をかけてきた。

俺は胸を張り、感謝を伝える。


「あんたのおかげでわかったよ。

 これがサッカーなんだな……

 ありがとう。いや、ありがとうございます。

 怪我はもう怖くない。

 俺はまだ強くなれる」


監督は短く頷いた。


「そうか。確かに、坊主が凄いことは分かった」


その言葉が嬉しかった。

胸の奥がさらに熱くなる。


だが──


「じゃが、お前は交代じゃ」


「……は?」


「このチームに、お前はいらない」


頭が真っ白になった。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。

 何言ってんだ?あっ、分かった。

 怪我の心配をしてくれてるんすね? 

 大丈夫!怪我ならもう──」


「違う。そうじゃない」


監督は淡々と言い放つ。


「お前がいない方が、まだマシじゃ」


「……は?意味わかんねぇ……何言ってんだ!!

 俺がいない方がマシ!?

 三点も決めたんだぞ!?

 めちゃくちゃ貢献したろ!!

 怪我だって治ってる!

 足手まといになんてなってない!

 大体、変えるって言ったって誰に!?」


監督は近くにいる葵へ視線を向けた。


「葵、すまんが次の試合から十人でやってくれ」


「で、でも……」


突然のことで葵も戸惑う。


「はぁ!?ふざけんなよ!!」


胸の奥で何かが爆ぜた。


「勝ち続けろって言ったのはあんただろ!!

 何考えてんだよ!!

 また俺からサッカーを取り上げるのかよ!!

 俺はこのチームに必要だろ!!

 こんな寄せ集めの弱小チーム、

 俺がいねぇと勝てるわけねぇだろ!!」


言い終わってハッとする。

周囲の視線が一斉に視界に入った。


「榊原くん……」


葵の声が震えていた。


「いや、違……」


周りの大人たちが慌てて俺をなだめようとする。


「分かってるよ、一旦落ち着いて、ね?」


だが、監督は一歩も引かない。


「おい、坊主」


その声は低く、鋭かった。


「自分で俯瞰してみい。

 今のお前のプレーが、勝つためのサッカーかどうかを」


監督は淡々と告げる。


「今のままだと──0点じゃ」


胸の奥が、凍りついた。


「……クソ野郎が……」


俺はその場を飛び出した。


「榊原くん……!」


葵の声は、もう届かなかった。


「放っておけ。次の試合が始まる」


監督はそう言い切る。


「小鳥遊さん、いくらなんでも酷いのでは?

 あの子はまだ子供ですし……」


「子供ねぇ……」


監督はゆっくりと目を細めた。


「俺にはそんな可愛らしいプレーには、

 見えなかったんじゃがな…」


ーー


ムカつく。ムカつく。ムカつく。

胸の奥が焼けるみたいに熱い。


死ぬほどムカつく。


「俺のプレーが0点?

 ボケ始めてんじゃねぇのか……?

 やっと掴めそうだったのに……!」


喉の奥が震える。

生きがいを、あと少しで届くところで奪われたような感覚。

心の底から腹が立った。


「何が俯瞰してみろだ……!

 怪我を恐れず勝ちを優先しろって言ったのは、あいつだろ……!」


拳を握りしめる。

爪が食い込んでも痛みを感じない。


「もういい……あんなチーム、次で負けちまえよ。

 泣いて頼まれても二度と出てやるか……」


試合会場の通路で、さっきの対戦相手と鉢合わせた。


「あっ」


思わず声が漏れる。


「こんなところで何してんだよ、榊原青斗。

 お前のチーム勝ったんだから、次の試合あるだろ?」


相手は薄く笑った。


「それとも何?敗者の俺らを笑いに来たのか?

 いい趣味してるじゃん、お前」


「は?そんなわけねぇだろ。ほっとけよ」


「あれあれ?何かあった感じ?

 もしかしてチームメイトと揉めた?」


わざとらしく首を傾げる。


「そりゃそうだよな。

 あんな独りよがりのプレーしてたら嫌われるって。あはははは」


「……あ?独りよがり?」


胸の奥がざわつく。


相手は肩をすくめた。


「あの試合、俺たちも、お前の仲間も……

 お前以外、誰も楽しくなかったよ」


その言葉が、刃みたいに刺さる。


「お前のショーを見せられてる気分だった。

 本当、天才ってムカつくよ」


「……楽しんでなかった?」


「お前はさぞ楽しかったんだろうけどな。

 じゃあな、天才。帰りの電車があるんで」


相手は背を向ける。


「お前とは──二度と戦いたくないよ」


その背中が消えても、言葉だけが耳に残った。


「あいつの言い方、ムカつくけど……

 的を得てる気がする。

 それが、またムカつく……!」


『俯瞰してみろ』


監督の言葉が頭に蘇る。


そういえば俺は、相手の動きは全部覚えているのに──

味方の動きは、何一つ思い出せない。


葵がどこにいたのか。

大人たちがどう動いていたのか。

何も浮かばない。


(……俺、本当に“チーム”で戦ってたか?)


でも、だからって──


(結局、独りよがりにならずに仲間と協力して勝てってことかよ?

 それが勝つためのサッカーだ?

 なんだよそれ……安っぽい綺麗事じゃねぇか)


胸の奥が再び熱くなる。


(そんなの──

 まるで、天才や強者が損するみたいじゃんか)


俺はピッチに戻った。


監督の後ろ姿が見える。

近くの木の影に身を隠す。


試合はすでに始まっていた。

得点は0対2。攻められっぱなしだ。

そりゃそうだ。こっちは一人欠けてる。


……なのに、みんなの表情は楽しそうだった。


胸の奥が、じわりと冷える。


(……やっぱり、俺はいらなかったのか)


「戻ってきたのか、坊主」


背中越しに監督が言った。

なんで気づくんだよ。


「ほれ、みんな楽しそうだろ?」


「……あんたの言いたいことはこうだろ?」


声が震える。


「俺は点を取ることで、自分の復活を証明しようとして……

 周りなんて見ずに、独りよがりに点を取り続けた。 それが“0点”なんだろ?」


監督は何も言わない。


「でも、俺は納得できねぇ!

 なんで一人で決められる俺が、

 仲間と協力しなきゃならない!?

 俺は決めた!結果出した!勝った!

 なら、それを否定される筋合いはねぇだろ!!」


監督は静かに言った。


「言ったじゃろ。スポーツは理不尽じゃと。

 勝ち続けねば生き残れん。

 お前は個なら強い。

 じゃが──サッカーはチームじゃ。

 総戦力を競うスポーツじゃ」


「知ってるよ、そんなこと!

 じゃあ、みんなが俺くらい強くなればいいじゃん!!

 そうすれば、俺は低いレベルに合わせなくて済む!」


監督はため息をついた。


「坊主。全員が同じ強さになれるなら、

 この世に強豪も弱小も存在せん。

 そんな世界は一度も来たことがない」


そして、ゆっくり続けた。


「ワシは合わせろと言っておるんじゃない。

 協力しろと言っておるんじゃ」


「……協力?」


「お前が全部やるなら、仲間は考えん。

 考えん仲間は成長せん。

 成長せん仲間は、一生弱いままじゃ」


その瞬間、過去の記憶が蘇る。


『青斗がいれば』

『青斗のチームだから』

『青斗がいなくてもよくやったよ』


全部、俺が背負ってきた言葉。


「仲間が強くなるには、

 失敗して、考えて、また挑む時間が必要なんじゃ。

 じゃが今のお前は──

 仲間の失敗する権利すら奪っとる」


胸が痛む。


「坊主。一人が突出しすぎたチームは、必ず崩壊する。

 その天才がいなくなった瞬間、何も残らんからじゃ」


監督は最後に、ゆっくりと告げた。


「本物の強さとはな──

 仲間を強くする力のことじゃ。

 自分だけ強くても、それはただの暴走じゃ」


そして、決定的な一言。


「坊主。お前は今日、三点取った。

 じゃが──

 お前の強さは、誰一人として強くしとらん」


「それは天才ではない。ただの独りよがりじゃ」


その言葉が、心臓に突き刺さった。


心当たりしかない。


小学校時代。

俺はあいつらが俺頼みだったことを失望した。

でも──


(本当に失望すべきは……俺の方だったんじゃないか?)


期待されることが重荷だった。

でも──本当は違った。


期待“させていた”のは俺の方だった。


俺が全部やる。

俺が決める。

俺が勝たせる。


そんなプレーばかりしていたから、

仲間には“俺に任せる”以外の選択肢がなかった。


俺だけが戦っていたんじゃない。

俺が勝手に、仲間を戦わせていなかったんだ。


「……そういうことか。それが“強さ”なんだ……」


監督は静かに頷いた。


「坊主。ワシの求めるチームとはな、

 失敗しながら互いに成長し、

 尊敬も見下しもせず、

 互いを信頼しきれるチームじゃ。

 そんなチームが弱いわけなかろう?」


胸の奥で、何かが音を立てて崩れた。


そして──新しい何かが芽生えた。


「監督。俺を出せ。

 あんたの言うそのチーム……俺が叶えてやる」


監督は鼻で笑った。


「よう言うわ。坊主に出来るのか?」


「誰に言ってんだよ。

 ──天才、舐めんな」


---


「はぁ……はぁ……はぁ……」


葵が息を切らしている。

十人じゃ、やっぱりきつい。


残り時間は十分。

点差は二点。


ボールがタッチラインを割る。


「すいませーん!選手交代お願いしまーす!」


審判がこちらを向く。


ピピーッ。


「君、誰と交代だい?」


「選手交代。

 ──俺に代わり、俺だ!」


「榊原君!?」


ピッチに入った瞬間、仲間たちの顔がぱっと明るくなる。


「待たせたな。勝つぞ」


「小鳥遊さん許してくれたんだね! 戻って来てくれて嬉しいよ!」


「君が来たら勝てるよ!」


「何言ってるんですか?」


「え?」


「俺が来たから勝てるじゃなくて、

 ──俺たちで勝つんでしょ?

 一緒に勝ちましょう!」


「……あぁ!」


俺の動きは、今までとはまるで違った。


自分で攻めない。

味方に攻めさせる。


必ず味方のパスコースに入る。

ディフェンスが何人いようが、そこに道を作る。


パスが流れるように繋がる。

ボールが生き物みたいに走り出す。


あっという間に同点。


そして──


「決めろ、葵!」


「うんっ!」


葵のシュートはキーパーに弾かれた。


だが、その弾く場所は読めていた。


「──これで、締めーだ」


空中からのダイレクト。

三点目が突き刺さる。


葵の目に、俺の姿が鮮明に映っていた。


試合終了のホイッスル。


「やったな!小鳥遊、ナイスシュート!

 あれがあったから決まった!」


「え? あ、うん……。ねぇ、そんなことより、

 榊原君、小学校の時、隣町のイベントに出たことある?」


「え?隣町?昔住んでたけど……

色々出てたから覚えてねぇ。なんで?」


「い、いや別に……」


葵は頬を赤くして、もじもじしている。


「あっ、そういえば私がシュート打つ時、

 葵って呼んだでしょ!」


「あっ……え?そうか?

 咄嗟だったから覚えてねぇ。ごめん」


「いや、別に謝ってほしいわけじゃないんだけど……

 まぁ、悪いと思ってるなら──お詫びがほしいかも」


「お詫び?」


「私もこれから名前で呼ぶね。

 ──青斗!」


---


その後も順調に勝ち続け、イベントは優勝で幕を閉じた。


「今日は一日ありがとね。本当に凄かったよ。サッカー部入れば?」


「今からは流石にな……

 まぁ、高校行ってからまたやるよ。

 その時まで、こういう集まりで練習しようかな」


「高校でサッカーやるなら、ぜひ光ヶ丘学園に入りなよ!

 おじいちゃんも喜ぶし!」


「はんっ。別にいらんわ」


「いらないいらないって……あの人、ずっと人をモノみたいに扱うよね」


「まぁ……今日は楽しかったよ。

 またサッカーできて良かった」


「皆さんと一緒にサッカーできて楽しかったです!」


「こちらこそ、ありがとう。またやろうな!」


「君が来てくれて良かったよ!」


「じゃあ、またな葵」


「うん、青斗。また明日!」


──こうして、俺はサッカーを取り戻した。

そして今、光ヶ丘学園でサッカーをしている。



【後書き】


ついに青斗の過去編終わった!もはや外伝の長さ。


お読みいただきありがとうございます!


読んで下さったあなたはヒーローです!


ブクマされたら泣いて喜びます♪


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