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【第一章完結】ナルシズム!!  作者: おしるこ星人
第二章 蹴っ飛ばせ!青く輝くその足で!!
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32. 雨、時々晴れ


【前書き】


世界一のかっこよさを目指す男、鳴紫なるし れん


それは二年前。

まだ中学生だった頃の榊原さかきばら 青斗あおと


サッカーを失い喧嘩に明け暮れる毎日。

同じクラスのあおいにサッカーを誘われるがそれを否定。


その誘いを断り続け、ついに爆発してしまった青斗。

天才ストライカーはこのまま落ちぶれてしまうのか!?



金曜の放課後。


雨は弱まる気配もなく、

廃墟の屋根を叩き続けていた。


俺はいつものように、

奥の破れたソファに腰を沈めている。


そこへ、手下どもがぞろぞろと入ってくる。


「おーい兄貴、雨ひでぇっすねぇ」


「……あぁ」


「どうしたんすか?兄貴。

 なんか元気ねぇ感じっすけど」


「雨だからな。気分が晴れねぇ」


「そういえば兄貴。

 最近兄貴に付き纏ってた女。どうなりました?」


胸の奥がわずかにざわつく。

だが表情は変えない。


「何それ?」


事情を知らない手下が詳しく聞いた。


「いや、毎日『サッカーやってください!』って

 兄貴に会いに来る女がいるんすよ」


「何で兄貴に?サッカーの妖怪?」


「マジで毎日来てるんすよ。

 で、兄貴どうするんすか?」


「いやいや、

 兄貴がサッカーなんてやるわけねぇだろ。

 兄貴のえげつないサッカー嫌いを知らねぇのかよ」


「そうっすよね。

 兄貴のサッカー嫌いは有名っすから。

 サッカーボールを兄貴に見せただけで

 全治2週間の怪我っすよ。

 おっかねぇっす…」


「……」


隣から別の不良が口を挟む。


「てかその子、今日泣いてたぞ。

 階段のとこで目真っ赤だった」


胸の奥がチリッと痛んだ。


「マジっすか?兄貴泣かせたんすか!?

 流石兄貴っすわ!

 最初から兄貴に絡むとか無謀っすよ」


雨音が、急に耳に刺さるほど大きくなった。


俺はゆっくりと立ち上がる。


「兄貴、どこ行くんすか?」


「……少しな」


それだけ言って傘を手に取り、廃墟の外へ出た。


外は、世界そのものが灰色に沈んだようだった。

近くの川は雨で水かさを増し、

濁った流れを音もなく押し出している。


川の音と雨音だけが、辺りに響いていた。


俺は傘を握ったまま手すりに掴まり、

ただ、その川の流れを見つめる。


どこへ向かっているのか。

どこまで繋がっているのか。

流れ着いた先に何があるのか。


考えても、何一つ分からない。


ただ、ゆっくりと――

しかし確実に流れていく。


その濁流の中で、一匹の魚が雨に打たれながら、

必死に流れに逆らって泳いでいた。


小さな体で、何度も押し戻されながら、

それでも前へ進もうとしている。


「お前は、何でそんなに必死なんだよ…」


呟いた瞬間、胸の奥がズキッと痛む。


魚は答えない。

ただ必死に、前へ進もうとしている。


その姿が、どうしてもアイツと重なる。


毎日屋上に来て、

何度断られても、

何度無視されても、

それでも笑って話しかけてきた葵。


“加減が分からない”と言って泣いた葵。


「何なんだよ…」


気づけば、傘を持つ手が震えていた。


雨が強くなる。

川の流れも速くなる。


それでも魚は、必死に逆らっていた。


「……クソッ」


胸の奥で何かが軋む。


「本当、バカじゃねぇのか、お前……」


言葉が雨に溶けていく。


魚は流れに押されながらも、

それでも前へ進もうとしていた。


その姿が、どうしても目を離せなかった。


本当は気づいていた。


自分は、逃げているだけだと。

あの日からずっと。

サッカーからも、過去からも、

そして――葵からも。


「……ちっ…クソが!」


傘を握りしめる手に力が入る。


気づけば、足が無意識に前に出ていた。

徐々に歩幅が広がる。

呼吸も荒くなる。


そして――そのうち、走っていた。


走れた。

怪我をしてから一度も走れなかったはずの左膝が、

走らなかった足が、雨の中を切り裂くように動く。


(まだ、走れんじゃねぇか、俺は!)


嬉しかった。

そして雨と風が、妙に心地よく感じる。


廃墟に戻ると、手下どもが驚いた顔で振り返る。


「兄貴、遅かったっすね?

 あれ?なんでそんなに濡れて……」


「悪い、お前ら!やるべき用事を思い出した。

 今日はもう解散だ。またな!」


言い終わるより早く、俺は再び走り出していた。


廃墟に置き去りにされた手下たちは、

呆然としたまま固まる。


「……おい、今、兄貴走ってなかったか?」


「そうっすね。こんな雨の中よく走るっす」


「いや、違う。そうじゃねぇ。

 兄貴が走ってるとこ……

 今まで見たことあったか?」


雨が、少しずつ弱まっていく気配がした。


ーー


俺が学校に着く頃には、全身ずぶ濡れになっていた。


グラウンドの方を見ると、

葵とその友人が、傘を差しながら誰かに声をかけているのが見えた。


「すみません。突然なんですが、

 サッカーに興味ありませんか?」


「本当に突然だな。

 サッカー?いや、別に興味ないけど……」


「そ、そうですか……

 すみません、お時間取らせました!」


「あ、そこのあなた!サッカーやってたり……」


「え?やってないけど?」


「……ですよね」


葵は、片っ端から声をかけていた。

グラウンドで、傘を刺しながら、

泥が跳ねても気にせず、必死に。


「葵、これ無理だよ!試合、明日なんでしょ?

 雨降ってるし、もうみんな帰っちゃってるよ」


友人の声は現実的だった。

それでも葵は首を横に振る。


「うん。難しいのは分かってる。

 それでも……最後まで諦めたくない」


「……葵がサッカー好きなのは知ってるけど、

 どうしてそこまでするの?」


葵は少しだけ間を空けた後、

その場の空気を吸い込んだ。


「小さい頃ね、おじいちゃんの付き添いで

 サッカーイベントに参加したの。

 その頃はまだサッカーに興味なくて、

 仕方なく観客席で見てたんだ」


声が少し震えていた。

でも笑っていた。


「あの時に見たゴールの衝撃は今でも忘れない!

 凄いんだよ!!

 同い年くらいの小さい男の子が、

 体格差なんてものともせず、

 大人たちを全部抜いちゃって」


葵の勢いは止まらない。


「最後にはその子が豪快なシュートを撃って、

 相手から一点をもぎ取ったの!

 あれは痺れたなぁ…」


葵の目が、少し潤んで輝いていた。


「私、あの時からサッカーが好きになった。

 そのゴールが、今でもずっと心に残ってる」


友人が首をかしげる。


「へぇ……その子、今どうしてるんだろうね?」


葵は少しだけ寂しそうに笑った。


「分かんない。でも……

 あの子みたいに、見てる誰かの背中を押せたらいい なって私は思うの」


そして、ふっと息を吐く。


「それに、おじいちゃんたちもみんなやる気だし…

 小さなイベントだとしても、

 どうしても参加させてあげたいんだ」


それを受け、葵の友達は申し訳なさそうに告げる。


「本当ごめん、葵!

 人集め、最後まで付き合ってあげたいんだけど、

 この後塾があって…」


「うん!全然!

 むしろここまで付き合ってくれてありがとう!

 また来週」


「うん、ごめんね、またね」


友人は慌てて去っていく。


俺はゆっくりと傘を差しながら、

葵の方へ歩み寄った。


葵は一人になっても、まだ誰かを探し続けている。


葵は傘の影で、俺だと気づかず声をかけてきた。


「すみません! サッカー経験とか……」


「ある」


気づけば、口が勝手に動いていた。


「えっ、本当に!? それなら――」


嬉しそうに顔を上げかけた葵が、

途中でピタッと動きを止める。


俺はゆっくりと傘を上げ、視線を合わせた。


「あ……」


葵の表情が固まる。

驚き、戸惑い、気まずさの全部が

一瞬で浮かんでは消えた。


俺は視線を逸らさずに言った。


「サッカー経験ならある。

 ……ただし、ブランクもかなりある」


「えっ……?」


葵の困惑が、傘越しに伝わってくる。


「怪我でろくに動けるかも怪しい…

 それでも良いなら」


「……つまり……それって……」


俺はポケットから、

雨でくしゃくしゃになった紙を取り出した。


「明日、ここで良いんだな?」


葵の顔が、ぱっと花が咲くみたいに明るくなった。


「うんっ!!」


その笑顔に、胸の奥が一瞬だけ熱くなる。

言葉が出なかった。


葵は小さく、

でも確かに聞こえる嬉しそうな声で呟いた。


「やっぱり……」


「……あ? 何だよ」


「榊原くん、本当はサッカー好きでしょ」


「は? どうしてそう思う?」


「だって……あの時、否定しなかったもん」


「……あの時?」


「“サッカー、嫌いになっちゃった?”って聞いた時。

 ーー君は、嫌いとは言わなかった」


「……!!」


心臓に鋭い衝撃が走る。


胸の奥に溜まっていた靄が、

一気に晴れていくような感覚。


本当に困る。

こいつは、真っ直ぐすぎる。


思わず傘を少し下げ、顔を隠した。


「……ん? どうしたの?」


「……るせぇ。何でもない」


葵がふと空を見上げる。


「あれ?……雨、止んでる?」


気づけば、青空が雲の隙間から顔を出している。


傘はもういらなかった。



【後書き】


青春の馬鹿野郎!!


お読みいただきありがとうございます!


読んで下さったあなたはヒーローです!


ブクマされたら泣いて喜びます!


気軽に感想、コメントお待ちしております♪


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