08話 魔物狩りVS炎龍─1
「がはっ…!」
炎龍が振った尻尾を横から思いっきり食らい、俺は盛大に飛ばされ何回か地面にぶつかった後止まった。
「尻尾でこれかよ…!!」
じいちゃんから龍の強さに何度も聞かされていたが、まさかこれ程とは予想していなかった。
大鎌を支えにして、なんとか立ち上がって炎龍の方を見てみると、炎龍は上に口を開けて何かをしていた。
最初は疑問を抱いていたが、すぐに答えが分かった。
あれは龍の得意技…ブレスだ。
「間に合え!」
身体強化と高速で移動スピードを上げ回避行動を行った。
炎龍は溜めたブレスを俺の上空に向かって放ち、俺の上空まで飛んできたブレスは空中で炸裂し、火球となって俺に降り注いだ。
「くそっ!」
火球は俺の逃げ道を塞ぎながら容赦なく降り注ぎ、俺は頭を両手で守りながら、一方的に火球を食らい続けた。
「炎耐性あるのにこんなにも食らうのかよ…」
火球の雨が止んだ後、頭を防いでいた両手を見てみると、酷い火傷を負っていた。
自己再生で火傷を再生しながら、炎龍の様子を伺っていると、炎龍は再びブレスを放ってきた。
「少しは効いてくれよ?…水魔爆撃!」
作り出した魔方陣から水の球を放水し、ブレスを打ち消そうと試みるが、ブレスの方が威力が高かったため、水の球は蒸発し、ブレスはそのまま俺の方に飛んできた。
「これならどうだ!水魔流撃!!」
魔力がある限り大量の水を勢いよく放流できる水魔流撃を放ち、ブレスを打ち消す、または押し返そうと試みる。
水はブレスを打ち消すまでは行かなかったが、勢いよくブレスを押し返し始めた。
このまま炎龍が何もしてくれなかったら良いんだが…
だが、俺の思いとは裏腹に、炎龍は閉じている口の隙間から溢れ出る程の炎を溜め始めた。
そして、あと少しで押し返したブレスが炎龍に当たろうとしている時に、炎龍は溜めに溜めた炎を火炎放射器以上の威力で放ち、一気に俺の魔法を押し返してくる。
「相性的にはこっちの方が勝っているのに、何でだ…!」
愚痴を呟きながら、水魔流撃に込める魔力を増やし、俺はなんとか押し合いに持ち込み、相手の方が何故優勢なのか考え始めた。
魔法…?いや、確か龍は特別な種じゃない限り魔法は使えなかったはず…と、なると何かのスキルか?
龍が優勢な理由がスキルの影響かもしれないと思った俺は、解析した時に見た炎龍の表記を思い出した。
そして今の状況が、普通の龍ならば持つことがないスキル【威力上昇】が影響していると見た。
恐らく、今回の騒動を引き起こした黒幕が、水系のスキルと魔法対策として、威力上昇を名付けをすることで獲得させたのだろう。
魔物は名前があるかないかで強さが大きく違ってくる。
名前があれば魔物は上位の種族に進化することが可能で、場合によっては強力なスキルを獲得し、人に近い種族、魔族になれることがある。
今回の場合だと、炎龍は魔族までは行かなかったが、弱点である水の蒸発させるまでブレスなどを強化できる威力上昇、物理攻撃によるダメージを軽減できる【物理攻撃軽減】、そして魔物にとって共通の弱点である神聖魔法を耐えることができる【神聖耐性】まで獲得している。
弱点が対策されている龍を一人で倒すには手が折れる。
こうなったら、始まってから見ているだけの騎士団の人達に手伝ってもらおうか…
「一か八か…!」
ギリギリまで水魔流撃を放ち、タイミングを見計らって、俺は物凄いスピードで城壁の方へと向かった。
移動中に炎龍の方を振り返って見ると、炎龍は新たにブレスを放とうと準備していた。
そして城壁に辿り着いた時、俺は声を出して指示を出す。
「なんでもいい!!水魔法を撃ってくれ!!」
兵士達は慌てながら準備始める。
暫くすると、兵士の代わりに軍服の様な物を着た者達が出てきて、水魔法の詠唱を始めた。
この王国に所属している魔法使いは軍服を着るのだろうか?
疑問を抱きつつも、俺も魔方陣の構築を始める。
「俺に合わせてくれ!」
魔法の構築をしている人達に聞こえる声で、俺に合わせるように頼み、構築が終わった俺は身構えた。
そして、炎龍がブレスを放った瞬間、俺も水魔法を放つ。
「消し飛べ!魔水極線!!」
俺が放った水魔法は、水魔法の上位魔法魔水極線。
魔水極線は先程の水魔流撃より威力が高く、その威力は岩盤を綺麗に切断できると言われている。
魔水極線は炎龍が放ったブレスとぶつかり、先程より勢いよくブレスを押し返していく。
勿論、それを黙って見過ごす炎龍ではなく、炎龍は先程同様に炎を放ち、押し返そうとしたが、こっちの方が威力が高いため、徐々に押され始めている。
そして、そこに軍服の人達が放った水魔流撃や水魔爆撃が炎龍に当たり、炎を吐く方向が変わってしまい、炎龍はそのまま自分が吐いたブレス事、魔水極線に直撃し、大爆発を引き起こした。
頼む、フラグを建てるなよ…
「や、殺ったか?」
炎龍の生存フラグが建たないように俺は祈っていたのだが、大したことをやっていないガランがフラグを建てた。
あの無能野郎が…
ガランに怒りを覚えていると、爆発によって起きた煙の中から、ボロボロの炎龍が姿を現した。
見る限り、ギリギリ耐えたって感じだな…なら、さっさとトドメを刺して楽にしてあげるか…
炎龍にトドメを刺すために、俺は大鎌で炎龍を切り裂こうとしたが、大鎌の刃は目の前に突如として現れたタキシードを身にまとった少年に剣で受け止められた。
「久しぶりだな、神影…っ!」
少年は俺を弾き飛ばしながら、前世の俺の名前を言って来た。
もしやと思い、少年の顔をよく見てみると、俺を弾き飛ばした少年はクラスメイトの山中だった。
「……なるほど、今回の魔物の襲撃はお前の仕業か、山中…!」
山中がこのタイミングで出て来て、炎龍を助けた所を見る限り、恐らく一連の騒動の黒幕は山中だと、俺は判断して山中に問い詰めた。
「…鈍いお前にしては珍しく冴えているじゃん」
山中は自分が黒幕だと正直に言いながら、懐から真紅色の宝石を取り出した。
「待て、何をするつもりだ!」
「…ふっ、こうするんだよ…っ!」
慌てて山中を止めようと走り出したが、間に合わず、山中は炎龍に宝石を食わせた。
炎龍がその宝石を飲み込むと、炎龍の全身から眩い光が放ち始める。
「何したんだ山中!」
「面白い展開にしただけよ。あと、アイツにも言っているが、俺はもう山中じゃなくてシュウラだ。生きていたらまた会おう…神影良…!」
「おい待て!」
山中を捕まえて尋問しようとしたが、山中は空間魔法でゲートを作り、そのゲートの向こう側へと消えて行った。
ゲートが閉じるのと同時に炎龍から眩い光が消え、いきなり炎龍は俺に目掛けて尻尾をぶつけようとしてきたため、俺はすぐさま避けた。
炎龍を見る限り、回復はしているが、それ以外に目立った変化は無い…念の為に警戒ながら戦うか…