異世界の初日の終わり
リュブールは周囲を見渡した。しかし後続に他の騎士達がいなかった。
この場にいるダリアに問い掛ける。
「姫様! 追い付いたのですか!? 他の者達は?」
「話は後だジャン!! 少年、早くジャンのところに――シッ!」
ダリアはその問い掛け後回し、呆けている白夜に指示を出し、《ゲオルギウス》を構えビックフットをを牽制する。
「はいい!?」
「ウオォォッー」
リュブールの元に向かう白夜。そこをビックフットを無防備になった背中を狙って動く。……しかし。
「やらせるか!」
「グウッ!?」
そこをダリアに斬りかかり、慌ててビックフットは避ける。
「グウゥゥゥゥゥ!」
動きを止めたビッグフットは先ほどの攻撃を警戒して、《ゲオルギウス》を構えるダリアを睨み付ける。互いに隙を探り合いながら睨み、膠着状態が続く。
そんな中、白夜はリュブールの元に辿り着いた。
「大丈夫ですかリュブールさん!? 怪我はありませんか!?」
目の前にボロボロの姿で座り込んでいるリューブル。
どこか怪我をしているのか、と思い白夜は手を彼に差し伸べる。
「あははは、大丈夫ですよハクヤ殿。軽い怪我はしていますが動けない程ではありません」
心配する白夜に苦笑いを浮かべリュブールは差し出された手を取り立ち上がる。
するとリューブルは厳しい顔を作り、白夜を睨みながら口を開く。
「ところでハクヤ殿」
「はいい!?」
リューブルの凄み効いた声で名前を呼ばれ、反射的に返事を返した。
慌てる白夜を、眺めながらリューブルは説教を始める。
「助けて貰った身ですが今後はこのような無謀な行動はやめて下さい! 無謀と蛮勇は違います!」
「す、すいません! 咄嗟に身体が勝手に動いて!? だからリュブールさん?」
その言葉を聴きリュブールは眉間に寄せて口を開く。
「だからでもありません! 一歩間違えればハクヤ殿も死んでいましたよ! ハクヤ殿は何か武術の心得でも有るのですか?」
「いえ、アリマセン」
「では、今後はこのような無茶はやらないで下さい!」
「ハイ」
すっかり意気消沈する白夜を眺め、しばらくするとリュブールは溜息を吐き、あの時と同じ爽やかな笑みを浮かべる。
「……はあ~、まあ、結果として姫様が追い付き二人とも助かりましたからいいでしょう。それとハクヤ殿」
「は、はい! なんでしょうリュブールさん!」
また説教されるのか、と思い白夜は怯え身を縮こませる。
「ぷっははははは!」
怯えた白夜の姿を見て、ツボに入ったのかリューブルは身体を丸めて笑い始めた。
そんなリュブールを不機嫌に睨む白夜。その視線に気づき身体を戻し。
「ははは! いや失礼、ハクヤ殿。私ことはジャンで構いません」
「えっと、名前ですよね?」
「ええ、リュブールは家名なので、一様これでも伯爵位を持つ貴族の嫡男ですから、他の身内と区別するためにジャンでお願いします」
爽やかな笑みを浮かべるリューブル。
名前で呼ぶように頼まれた白夜は照れくさそうに彼の名前を呼んだ。
「じゃあ、リュ――じゃなくって、ジャ、ジャンさん!」
「さん入りませんよ、ハクヤ殿」
爽やか笑みで訂正を求め手を差し出す。緊張しながら受け入れる。
「そ、それじゃ、ジャン、僕も殿を付けないでそれに敬語も!」
「そうですか! ではハクヤ、私も敬語は結構です。私のは癖ようなもの難しいですがよろしくお願いいたします」
「こちらもよろしくジャン!」
ぎこちない笑顔で名前を呼び手を掴む。すると互いに嬉しかったのか、
「「はははははは!!」」
万面の笑顔でジャンと白夜は握手を交わしながら笑い合った。
ここに二人の友情が生まれた瞬間だった。
廃墟の荒れた道路で握手して笑い合う白夜とジャンの姿に、
「「…………………」」
すぐ側で微妙な表情でやりづらそうに牽戦を繰り返し戦っていたはずの一人と一匹が傍観していた。
「…………おい、お前達! 友情を育むのはいいがこっちの空気読め!?」
「ウギィィ! ウギィィ!」
二人の空気の読めなさに呆れ顔するダリア、それに同意するように頷くビッグフット。
気まずいダリア達の雰囲気を、気付いたジャンは意外そうな顔する。
「あれ? 姫様まだ倒して無かったんですか? 静かだったで、てっきりもう終わったのかと思いましたが?」
「………お前達の三文芝居に当てられて動けなかっただけだ! ……ところでジャン、お前ジルと同じそっちに目覚めたのか?」
振り向きダリアは有らぬ疑い掛けた視線をジャンに向ける。
「ハッハッハッ、姫様はこんな時ふざけないで下さいよ!? 私には愛する妻と愛しい娘がいるんですから。それに男の友情は切っ掛けさえあればすぐに生まれるんです!」
愛想笑いしながら、ダリアに男の友情をついて熱く語った。
「………そ、そうか!?」
「ウギァ!」
ビッグフットはドン引き気味のダリアが視線をはずした瞬間。チャンスと思ったのか、スッと周囲に溶けるように自分達の視界から消えた。
そしてダリアは魔獣が消えたことに気づき、慌てて周囲を見渡す。
「しまっ!? ッ――ジャン! お前が変なこと言うからビッグフットの奴に能力を使われた!」
「なぁ!? ひ、姫様! 私のせいにしないでくださいよ、姫様が目を離すから! ホントたまにポカをやらかすんですから、そんなんだから婚――」
ダリアは背後に近付いていたジャンに振り返り――
「ふん!」
ブーンと《ゲオルギウス》で横薙ぎを放つ。
「――のわぁァァぁ!?」
ジャンは咄嗟にマから始まる某SF映画のような背後に倒れるように避けた。
二人の近くで白夜は、その殺り取りを目撃するのである。
「チッ、ジャン! 迂闊にハクヤ殿の側を離れるな! あとハクヤ殿、私ことはダリアと呼び捨てで構わない。けして名前を知らなかった訳ではないからな!?」
「え!? 分かったよダリア!」
知ったかぶるダリアの勢いに、白夜は生返事する。
「ひ、姫様!? 今、舌打ちしましたよね! ね! 露骨に話を逸らさないで下さいよ、あ! 顔も逸らす!」
「………うるさい裏切り者め! 今は奴の影を探せ! 近くにあるはずだ!!」
ジャンの追求に対してダリアは顔を逸らし必死に魔獣の影を探す。
その態度に「ハア~」と溜息をつき呆れるジャンは彼女と共に周囲を目視で探索する。
「……姫様、裏切り者とは随分な言い方ですね?」
「貴様が、私から大切なものを奪ったのは事実だろうが!」
「やめて下さいよ姫様!? その言い回し! なにも知らない人が聞いたら変に誤解しますよ!」
ダリアの力強い断言に、ジャンは慌てて否定する。
「えええ!? ジャンとダリアってそういう関係だったの!?」
彼等の側に避難してきた白夜は驚愕する。
「ほら! 違いますハクヤ、私の妻のことですからっ!! それよりもハクヤも周囲に不自然な影を探して下さい!」
白夜の様子に気づき誤解を解きつつジャンは探索に協力を求められた。
「分かったよ! 不自然な影?」
「ええ、そうですハクヤ。ビッグフットは肉体を周囲の景色に同化する擬態能力を持っているんです。その為、こちらには視界から消えたように見えるんです」
「周囲の景色に擬態って光学迷彩みたいなもの?」
長剣を構えたジャンは首を左右に振る。
「いえ、似て非なるものです! アレは必ず周囲の何処かに影が生まれるんです!」
「――白夜殿!? 後ろだ!」
「え!?」
ダリアの叫びと同時に振り落とされた巨大な片腕が、白夜の頭上から突如として現れた。
咄嗟にジャンに白夜の肩を掴み自分の懐に寄せる。
「くっ!?」
「うわぁ!?」
後ろに倒れこんだ直後、さっきまでいた場所に巨大な腕が叩きこまれる。
ドンッと大きな音と共に地面から振動が伝わった。
すぐにダリアが《ゲオルギウス》でその場所に追撃の一撃を加える。
「ウフィ♪」
が、空を切る音しか聞こえず、魔獣の気配が遠く離れていく。
「チッ!? 避けられた! ジャンは、ハクヤ殿をそのまま守れ!」
焦りを滲ませダリアは周囲を何度も見渡しビックフットの影を探すが、荒れた道路には自分達以外の影しかない。
地面から立ち上がったジャンは白夜を守りつつ、長剣を構え警戒する。
「分かりました! しかし姫様、もう二回も魔導技を使ってるですよ! 無茶しないで下さい」
「解っている、ジャン! あと一回は魔導技が使える。時間がないがそれまでに奴を仕留める!」
「あと一回とか魔導技ってなに!?」
次々と知らない言葉を聴く白夜は声を荒げた。すると、周囲を見渡していたジャンが背中越しに説明した。
「魔導技とは魔導具に搭載された専用技です。先程の光の大剣がそうです」
そう言われダリアの持っていた《ゲオルギウス》から巨大な光の大剣を創り出したのを思い出す。
「その魔導技って回数制限があるの?」
「使い手の魔力に依ります。魔導技は威力や効果、能力に依って魔力の消費が違います。なので姫様の魔力では三回が限界なんです!」
「そうなんだ! じゃあ最後の一回を使った後、ジャンがダリアの魔導具を使えば良いじゃ?」
その説明を聴き白夜は名案を思いつき提案するも、すぐにジャンに否定される。
「無理ですよ! 《ゲオルギウス》は所有者である姫様しか使えないです。それよりも今は魔獣です!」
「うん!? それで何か対抗策は有るの?」
隠れているビッグフットに意識を向けるジャンに、荒れた道路を見渡す白夜が方法がないか問いかける。
「基本はビックフットの影を探すか、範囲魔法による攻撃でしかありません」
「ジャンは広域魔法は出来ないの?」
「………生憎、私や姫様に攻撃系は得意ではありません。それにもう日が暮れ始めるます!」
否定すると空を見る。青空がいつの間にか日が沈み夕焼けなっていた。
周りにある廃墟から影が広がり、時間の流れを感じさせた。
すぐに視線を戻し白夜は魔獣に警戒する。
「それじゃあ!? その魔獣の独壇場になるんじゃ!」
「ええ、だから姫様も焦っているのです!」
ジャンは顔を振り向けると先に血に濡れたダリアは何時でも魔獣に対応できるように長剣を構え真剣にゆっくりと周囲を警戒する。
ダリアの姿を見た白夜はあることを思いつき、急ぎジャンに振り向く。
「ジャン! 今思い付いたんだけど――――――――できる?」
「……っ!? ええ、可能です! よくそんなことを考え付きますね!」
「エヘヘ、ありがとうジャン! 僕の姉妹のお陰です! よく苦労しましたから……はあ~~」
誉められ照れ臭そうに頭を掻く白夜。だが、姉妹の想い出が脳裏に過り、深い溜息を吐いた。
そんな白夜を不思議そう見たリュブールは、ダリアに振り向き大声を出す。
「姫様! 今から変わった方法で魔法を打ちます。目に気をつけて下さい!」
「うん? 分かった頼むぞ。ジャン!」
首を傾げダリアは頷く。
ジャンは剣を地面に突き刺し魔法詠唱を始めた。白夜は邪魔にならないよう側で彼の代わりに周囲を警戒する。
「水よ・大いに集まり」
両腕に真上に構え掌から水が周りから集まり大きな水の球体を生み出した。
ジャンの額に汗を浮かべ辛い表情を作りながら、
「撒き散らせ――『アクアボール』!」
空に打ち出された水球はある程度の高さに達すると、弾け飛び周囲に水を撒き散らす。その水は地面に降り注ぐ僅かな雨となる。
魔法で生み出した人工雨によって白夜達の身体が濡れる。そして、ダリアから右斜め離れた瓦礫の上で、僅かな雨で濡れる透明な存在が浮き出た。
周囲の景色と同化し、隠れるビックフットの能力は確かに強力だ。
だが、しかしそれはあくまで視界から発見できないだけでその場に居ない訳ではない。
姿が見えなくとも生物が何か行動する際、必ず何かしらの痕跡が残る。
だったら対処法は簡単だ。
隠れている者が一目で見つけられる舞台を。
痕跡を残りやすい環境を作ればいいのだ。
「っ!? そこかぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「キィ!?」
隠れていた存在に気付いたダリアは走り出す。
能力を見破れたビッグフットは透明まま、慌てて飛び退くも――
バシャッ!
飛び散る水飛沫。周囲には、この雨によって出来た小さな水溜まりがあり、透明なビッグフットはその水溜まりを踏んだ。魔獣の能力は意味をなさなかった。
「無駄だ! 水溜まりで位置が解るぞっ!!」
――『魔導剣』! と唱えるダリアの身体から緑光に輝く旋風が吹き荒れた。
彼女はその旋風を身体に纏わせて、一気に距離を三メートルまで近付く。
そして、ダリアは《ゲオルギウス》を肩に担ぎ、
「私の《ゲオルギウス》は貫くだけの剣ではないぞ! 切り裂け――!!」
そのまま踏み込み、横へ振り抜いた。
「『竜を貫き殺す輝く聖剣』!」
青白い光の巨剣が、瓦礫もろとも透明なビッグフットを薙ぎ払う。
「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉー!!」
「ギィギャァァァァァー!?」
『竜を貫き殺す輝く聖剣』の一撃によって瓦礫を吹き飛ばし、ビッグフットの胸を切り左腕を切り飛ばした。
ビックフットはその場で崩れ落ち倒れた。殆ど虫の息だった。
そして光の大剣の刀身からピキッと音を鳴り、刀身全体にヒビが入り砕けて元の長剣に戻った。同時にダリアが纏っていた緑風が消え失せる。
ダリアは《ゲオルギウス》を地面に突き立て跪き、顔が青くなり呼吸が乱れ動かない。
「はあ、はあ、くぅ! 完全に、はあ、仕留めきれなかった」
「ゴアァ! グアァ! グウゥ!」
恐らく残り数十分の命しかないビッグフットを、顔色が悪いダリアは油断なく警戒する。白夜とジャンは共に彼女の元へ移動しているその時だった。
「おーい、君達大丈夫か!」
近くで若い少年の声、白夜達の耳に聞こえた。慌てて声の方に視線を向けると、布を巻いた剣を持つ和馬が手を振りながら此方に近づいて来る。――次の瞬間。
「ウオアアアァァァァァァァ!!!」
「「「なあ!?」」」
死にかけのビッグフットがいきなり飛び起き、和馬に目掛けて突っ込んだ。
血を吐き左腕のない箇所から血がドバドバ吹き出しながら、和馬を道連れする覚悟の表情で襲い掛かる。
大急ぎでダリアは動くもさっきまでの動きのキレがない。必死に魔獣の後を追うのがやっとだ。
そんな彼女の後ろで白夜とジャンも、和馬の元に駆ける。だが間に合わない距離だった。
「うわああぁぁぁぁぁぁ!!」
咄嗟に和馬は手に持っていた布を巻いた剣を部活の経験か、ビッグフットに上段に構えて振り落ろした時だった。布から橙色の光が漏れて光の大斬撃が放たれる。
「ウガァァァ!?」
迫りくる橙色の光にビッグフットを飲み込み。それどころか――
射線上にいた白夜達も呑み込もうとする。
◇ ◆ ◇
布から漏れた橙色の光を見てダリアは長年培った戦士としての勘が危機を告げる。
……いかん!?
そう感じた私はすぐにハクヤとジャンの元に急ぎ向かう。
「間にああぁぁぁぁぇぇぇ!!!」
「「えぇ?! ――ぐあぁ!?」」
最後の力を振り絞り私は彼等の元に辿り着く。その瞬間、ハクヤとジャン――二人に渾身のラリアットを食らせた。
直後、橙色の斬撃波の射線上から私達は脱出する。
ゴウウウウウウウウウウウウンッッ!!!
やがて先程、居た場所が光に呑まれ轟音と共に一瞬の強風が過ぎ去り、そのまま射線上に在った廃墟を全てを切り裂き消えていた。
その斬撃から避けた私は慌てて振り返り目の前の光景を目撃する。
「はあ、はあ……ば、バカな、これ程の威力なのか!? 聖王具《正義》に宿る女神の力とはっ!!」
地面と廃墟は一直線に切られた跡、眼前に広がる惨状に私は震える。
「ゴホッ! ゴホッ! ひ、姫様違います! あれでも不完全です!? 伝承では終幕大戦の折にかの黒き巨人を切り裂き、海すら両断したと記録が残っています!」
すぐ側で立ち上がり首の痛み確かめつつジャンがそう言った。
「これでも不完全なのか!?」
その言葉に驚愕する私と共に、この惨状を生み出した本人に視線を向ける。
「………………」
目の前の現状に理解出来ず呆然と固まるカズマ、その右手の甲に橙色の剣の紋章が存在した。
そんな彼を眺めている私達はふと気付いた。
自分達と同じ死線を側で乗り越えた勇気ある少年が、今だに静かなことに。
彼の方に視線を向けると、
「………………」
「「ハクヤ殿!?」」
目を剥いて驚いた私達は急ぎ、倒れたハクヤの身体を調べた。
白目を剥き後頭部にタンコブが出来ていたが、命に関わる怪我がないことに分かり「ほぉ」と安心する。
「命に別状はありません、姫様」
「そうか! ハクヤ殿は無事か!」
良かった、と私は胸に手を当て心底安心すると、ジャンに話題を振る。
「しかし、ハクヤ殿はなかなかに勇気ある少年だな!」
「ええ、そうです姫様♪ それに機転も利き柔軟な発想力も有ります」
ジャンは我が子が褒められたようにウンウンと頷く。
それを見た私がなんとも言えない、辛そうな顔になる。
「………言って悪いがハクヤ殿やカズマ殿、ユキ達が我々と同じ上位のクラスを獲得したなら恐らく」
それを聴きジャンは真剣な表情になり私を見つめる。
「ええ、陛下は勇者として迎え入れられるでしょう。まあ、カズマ殿にはアレが刻まれた以上、もう無理ですが。……ハクヤや他の皆さんはまだ解りません。しかし結果次第では……」
「身内の恥を晒して心苦しいものだ。はあ~~」
深い溜息を吐くカズマの向こう側からユキ達がこちらに向かっているのが見えた。
また私が来た道路から金属が擦れる音と足音が聞こえる。後続の騎士達が追い付いてきたようだ。
そして、煙が在った方から大勢の足音と振動が伝わる。
「まだ彼等が一体どのクラスを獲得するかは解りませんよ?」
「そうだな、少なくともあのクラスだけは獲得しないで欲しいものだ」
「アレは世に出たのは確か………四百年前、魔闘術の開祖である、かの〈拳神〉トウガ・ノース。一人だけですよ」
「四百年……確率は低いところか」
そう呟き私は腕を組んで頷き、前方に現れたら軍勢を見据える。
ジャンは遺跡の方から来る後続の騎士達に手を振った。
そしてカズマに合流したユキ達が、現れた軍勢に驚き、急いで此方に向かってくる。
◇ ◆ ◇
朦朧とする意識の中、ダリアとジャンの会話を耳にしていた白夜は、そこで限界に達し、暗闇に沈む瞬間。
最後に聞こえたのは、
「きゃあああ!? 天城君!」
蓮花の絹を裂くような悲鳴と、
「ひ~め~さ~ま! ご無事か~し~ら?」
野太い男の声が聴こえた。
こうして追憶の異世界の一日が、終わり彼の不幸の出来事は序章に過ぎず、いずれ交わる白と黒の運命の準備に過ぎない。
彼が意識が戻って数時間後、絢爛豪華な大部屋で周囲からあざ笑い、軽蔑、蔑視――を注がれる。そして目の前、眼光は鋭く憎悪に満ちている立派な髭の男は口が開く。
「誰か今すぐ、その男を処刑せよ!!」
青ざめ震える白夜の手には一枚のタロットが握っていた。