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色彩のファンタジア ~ 白と黒の英雄讃歌 ~  作者: 小塚 正大
第一章  最弱の白と最強の黒
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寝起きのハプニング

 

 暗闇の中、初めに感じたのは全身に伝わる震動(しんどう)と話し声。それに後頭部から伝わる柔らかい感触と微かに甘い桃のような匂いがした。

 白夜の意識が段々(だんだん)と戻り始めた。 


(……何だろう? この甘い匂いと後頭部からくる温もり、それにこの震動は?)


 そう考えながら自分は気絶する直前の記憶を思い出す。


 魔獣に襲われた和馬(かずま)の元にジャン共に向かう途中で、ダリアのラリアット食らい倒れた。そこから意識が朦朧(もうろう)し始め、二人の会話が聞こえていたところまでだ。


(……それに最後に橙色の光が、僕達に迫ってきていたような?)


 そこまで想起(そうき)した白夜は目蓋(まぶた)をゆっくりと開ける。目に入ったのは白い布の天井と右半分を塞ぐ謎の物体だった。


「うん?」


 ぼーっとする頭で白夜はその半分を塞ぐ物体を眺め、無意識にゆっくりと左手と伸ばし(つか)んでみる。


「きゃあ!? あ、天城(あましろ)君だめ! あっ、ふぅんっ! …………ぅん」

 

 すると、聞き覚えがある若い女性の声(・・・・・・)が洩れた。そして左手に布と重みのある弾力性が伝わり、もみもみと掴んでは離し、それを確かめる。

 途中、聞こえていた(つや)やか声が何かを塞いで、声を洩らさよう堪えているようだった。


 彼女の声を聞き、しばらくして意識がスッキリと覚醒し始める。


(……あれ? 今の声、小島(こじま)さんに似ていたような!?)


 そう気付いた時、白夜の視界の半分から、サラサラとした長い黒髪、顔を赤くして口に手を抑え、涙目の蓮花が覗き込んできた。


「「………………」」


 二人は見つめ合う。白夜は高速で頭を働かせ自分の現状に把握しようとする。


(……何故(なぜ)だ! どうしてクラスのアイドル(大和撫子)小島さんが僕が覗き込んでいる? これが白昼夢(はくちゅうむ)ってやつか! だってあり得ないよ!? クラスで地道男(じみお)とか、影が薄いとか、天城姉妹(きょうだい)(偽)とか言われている僕があの小島さんに膝枕されるなんて、それに手のひらのこの感触……………………かんしょく?)


 目覚めたら何故か、蓮花に膝枕され寝かされた状態に混乱する中、白夜の手は何かを掴んでいた。ぎこちなく視線を彼女の制服の上、大きな胸………を揉んでいる自分の手をマジマジと見つめ――


 白夜は再び視線を戻すと、目を閉じて必死に()える蓮花の顔があった。

 余りの現状(現実)に身体から脂汗がだらだらと雨のように吹き出し、声が掠れる。


「あ、あ、ああぁ!?」

 

 咄嗟に白夜は手に力を入れてしまい、強く揉んでしまう。蓮花は感触に堪えきれず声を漏らす。

 

「あぅんっ!?」

「うあぁあああ!?」

 

 一際(ひときわ)、大きい吐息が白夜の耳に聞こえ、驚きのあまり悲鳴を上げしまう。

 すると、同じ荷台に乗っていた雪妃達が何事かと振り向き、一斉に固まった。

 蓮花に膝枕をされている白夜が胸を揉もんで、それに堪える蓮花を目撃する。


「「「……………………」」」


 周囲に沈黙が訪れる。雪妃と桃子はドブネズミを見るような侮蔑の目で、直樹と秋吉は羨望の眼差(まなざ)しを白夜に向ける。

 そしてワナワナと震え(うつむ)和馬(かずま)はスーと立ち上がる。その手には抜剣した片手剣(ロングソード)型の聖王具(アーク)正義(ユスティツィア)》が所持者の意思に反応し、刀身に(だいだい)色の燐光を点滅させた。

 ガバッと顔を上げた和馬は愛娘に不埒な真似して怒り狂う父親ように、白夜を睨みつけ問いかける。


「な・に・を・し・て・る・ん・だ・お前?」

「ご、誤解だよ!? わざとじゃない事故なんだ上杉くん!」


 ドスの効いた声を聞いた白夜は蓮花の胸を掴んだまま言い訳する。


「ほう? 五回も揉んでおいて事故だと!」

「ちがうから、上杉くんッ!? 僕達の姿をよく見てッ!?」


 その言い分を聞いて和馬は改めて、自分と蓮花を眺めた。

 とりあえず白夜も、和馬から見た現在の状況を自分なりに予測(シュミレート)してみた。


 1:膝枕をする美少女(蓮花)の優しさに付け込んで胸を揉む僕。――ワンナウト!

 2:声を漏らさないように口を塞いで必死に堪える蓮花。――ツーアウト!!

 3:顔を赤らめるそんな彼女(蓮花)の姿を愉しそうに観る僕(セクハラ野郎)。――スリーアウト!!!

 自分達の現在進行形の光景(証拠)。彼からはそう見えているのだろう。

 その証拠に――

 憤怒(ふんど)を宿した目をぎらつかせた和馬が《正義(ユスティツィア)》を上段に構えていた。


「今すぐ蓮花に離れろぉぉッ! このセクハラ野郎ぉぉッ!!」

「違うからぁぁぁぁぁぁ!?」

「きゃぁ! カズくん!?」


 《正義(ユスティツィア)》の剣身から(だいだい)色の光が溢れる。その《正義(ユスティツィア)》の輝きを目撃した白夜と蓮花は悲鳴をもらす。

 考えなしに二人(まと)めて斬り飛ばそうと一歩、和馬が踏み出した時だった。


「蓮花まで()()え食らうでしょがこのバ和馬(かずま)!」


 聖王具(アーク)の輝きに気づいた雪妃(ゆき)は素早く和馬の足に鋭いローキックをぶちかます。


「ふごぉ!?」


 和馬は荷台の床に顔面からダイブ。打ち付けた弾みで《正義(ユスティツィア)》を手放し、股の間に刃が半分以上突き刺さる。あと少し十センチずれていたら大惨事になっていただろう。


「か・ず・ま!」


 倒れた和馬の背中を思い切り踏みつけ、雪妃は凍るような冷たい視線で睨め付ける。


「あなた、阿呆(アホ)でしょ? こんな狭い場所で聖王具(それ)を振ったら廃墟がどうなったか忘れたの! お・ま・け・に天城君は()(かく)、蓮花を巻き込んでどうするのよ馬鹿(ばか)!」

「僕は吹き飛ばされても良いの委員長っ!?」

女性の敵(痴漢)には罰を与える常識よ、天城君。いくら丸一日寝ていたとしても」

 

 ツッコむ白夜に、冷たい目で冷酷に断罪する雪妃。


「ですよ~ねぇ。――って、え!? 丸一日!」


 踏んでいる和馬の背中を、ぐりぐりと足に力を込めながら雪妃は頷く。

 

「痛い痛い! 背中が痛いからやめてくれ雪妃! あと俺の股の剣を抜いてくれ!?」

 

 悲鳴を上げる和馬。床に突き刺さる《正義(ユスティツィア)》が、地面を削りながら段々と彼の下半身の一部を切り(せま)っていた。

 すると、その和馬を踏みつける雪妃が半目で、


「自分の股の剣をヌいてとか………最低ね。変態和馬」

「そっちじゃないッ! というか早く《正義(ユスティツィア)》を抜き取ってくれ! ズボンが切り裂いて迫ってきてるんだ早く!?」


 咄嗟に和馬は股で挟み止めるが、雪妃の足に固定(ふまれ)ているため再び迫りくる。

 まるで冷凍マグロの解体現場を見ているようだった。

 心なしか《正義(ユスティツィア)》の宝石が弱々しく点滅し、何かを訴えているようにも見えた。


「………はあ~~、仕方ないわね! そ・れ・と天城君、いつまで蓮花にお(さわ)りしてるのかしら?」

 

 《正義(ユスティツィア)》を引き抜こうする雪妃に指摘され、自分が未だにその格好(パイタッチ)していることに気づいた。


「ひぃぃぃ! 小島さんごめんなさいぃぃぃぃぃ!?」


 悲鳴を上げながら転がり、蓮花にペコペコと土下座する。

 そんな白夜の謝罪に、どうすべきか蓮花は戸惑っていた。


「……え!? えっと、じ、事故みたいモノだから仕方な……あ!」


 何か思い付いたのか、パンッと両手を叩くと。


「そうだ天城君! 許す変わり一つお願い聞きいてくれる!」


 じーっとを見つめる蓮花の視線に、白夜は目を泳がせ冷や汗をかく。


「え、………お願い? お願いって何かな小島さん?」

「ふふふ♪ 今は内緒だよ天城君、でも覚悟していてね♪」


 人差し指を口に当てて微笑む蓮花を見て、白夜は姉妹との買い物の記憶が(よみがえ)る。

 ()(紅葉)散々(さんざん)こき使われた思い出が(よぎ)り、口を引きつらせる。


 そんな二人とのやり取りを眺めていた雪妃は、あらあらと微笑み浮かべながら《正義(ユスティツィア)》の柄を掴み、踏ん張ると。


「ぐう!? ちょ、重いぞ雪妃!?」


 下の和馬(バカ)が女性に対してデリカシーのない一言を漏らし。それが彼女の耳に入り、


「…………ふん!」

「があああぁぁぁぁぁ!?」


 踏み台(和馬)を思い切り踏みつけ、《正義(ユスティツィア)》を引き抜いた。

 そして、近くに転がる《正義(ユスティツィア)》の鞘に刃を収めると、

 

「………………」

「いだぁぁぁ!?」


 雪妃は無言で振りかぶり、和馬の背中目掛けて《正義(ユスティツィア)》を叩きつけた。

 このやり取りを見た直樹、秋吉、桃子は迷惑そうに「はあ~」と呆れまじりの溜息(ためいき)()く。


「あなた達、騒ぐのは良いけ~ど~もうすぐ王都よ。なんだから騒がずに静かにしなさ~い」


 御者台(ぎょしゃだい)から、なよなよとしそうな野太い男の声が飛んできた。


 顔を上げた白夜は、正座したまま改めて荷台を見渡す。

 中型トラックくらいある広さの荷台。皆はその荷台の好きな所に座り、自分は最後部(さいこうぶ)で蓮花に膝枕されながら寝かされていたようだ。

 馬車の中を確認した後、白夜は御者台のある方を覗いて見た。

 

「ええぇぇぇ!?」


 二人の騎士と恐竜のようなオオトカゲが馬車を()いて走っているが見えた。


「あら?」


 そしてその視線に、気付き御者台にいる騎士の一人がこちらに振り返る。

 赤茶色の毛、モジャヘアーのジャンと同じ青目の白人、特に目立つのはあごひげに三つ編みしてリボンしたゴツい大男と目が合い、親しげに話し掛ける。


「まあ! あなたジャンくんが言っていたハクヤくんね! 無事に目が覚めたのね! 心配したのよ、なかなか目が覚めなくて、あら?」

「……………………」


 反応がない白夜を不思議そう首を(かし)げるオネエ言葉の大男。

 余りもインパクトのある人物に白夜の思考が停止した。


「…………」


 そんな大男を見る白夜の視界から、雪妃が(さえぎ)りように現れ、肩を叩いた。

 叩かれた白夜は意識を正気(しょうき)が戻り、目の前で優しい笑顔を浮かべる雪妃。


「大丈夫よ天城君。私達も初めてジルさんに会って同じだったから」

「そ、そうなんだ。本当なのみんな?」


 白夜がそう言うと周囲を見渡す。すると、どう答えるべきかと蓮花は苦笑い浮かべ、うんうんと頷く直樹、秋吉、桃子。

 

「あはは」

「ああ、一度見たら忘れられよ。なあ、秋吉(あきよし)

直樹(なおき)の言う通り、夢にまで出てきそうだったよ!」

「あたし今でも鳥肌が立ってるんだけど!?」


 (みんな)は遠い目で語り合った。そんな中、和馬だけは話を聞いていないのか、《正義(ユスティツィア)》を (かか)えてしゃがみ、〝の〟の字を書き()ねていた。

 御者台にいた大男は雪妃達の反応に不機嫌そうに眉間を寄せる。


「もうユキちゃん達は酷いわね! まあいいわ、ハクヤく~んはまだ自己紹介してなかったわね? ワタシはジルバート・ローズベルトよ。気軽にジルも・し・く・はローズ呼んでね♪」

 

 ジルバートの会心のウインクに飛ばす。これがダリアだった良かったが相手がひげ面の漢女(おとめ)がやるのだから当然、その結果は。

 

「おぷぅ!? うぇ~ぷ!」


 トラウマ級のインパクトに吐き気を(もよお)す。

 が、初対面でそれは失礼と思い白夜は丸まってなんとか耐えた。

 そしてその様子に直樹、秋吉、雪妃、桃子(とうこ)の四人は、同情的な眼差しと共にチーンと合掌した。


「は、白夜君(・・・)大丈夫だから! ジルさん良い人だよ!」

「うぷっ!? そうなの小島さん?」


 すぐ側で蓮花に背中を優しく撫でて貰う。自分は顔を上げ青ざめた笑顔で彼女に「ありがとう」と礼をする。



 ◇ ◆ ◇ 



 そんな二人の様子を眺めていた雪妃は蓮花の変化に気付くと、うんうんと頷きながら彼女をからかう。


「へぇ~、白夜君ね? そう、蓮花にも(つい)に春が来たのね。お赤飯ってこの世界にあるかしら?」

「……なにっ!? 蓮花に男だと!」


 ガバッと父親みたいな反応をする和馬は顔を上げた。


「和馬うるさい! あんたには関係でしょう!」

「いや、べつにかけぇぁ………」


 雪妃に冷たく睨み切り捨てると、和馬は再びイジケてしまう。

 からかわれた蓮花は真っ赤な顔で頬を膨らせる。


「む~~! ユキちゃん、なんか親戚のおば様みふみゅ~!?」

「うふふ、れ~ん~か。この口かしら同い年の私にオバチャン扱いする悪い口は!」


 誰がオバサン? と笑顔で青筋が浮かべる雪妃は、蓮花の頬を両手で掴みモチように伸ばした。


「痛い痛い!? ユキちゃん、頬っぺを摘ままないで!?」


 ギブアップ、と雪妃の肩を必死に叩く。

 二人のはしゃぐ光景に和馬は顔を(おお)い、口を開けて固まる白夜達。

 急に子供っぽくなる蓮花に対し、清楚な美しいお嬢様(大和撫子)イメージが崩れていたからである。


「おい雪妃! 蓮花が必死に築き上げた印象(大和撫子)が台無しになったぞ!」

「和馬、どのみちこの異世界(ミルトス)でずっと一緒に暮らすだから、いつかはバレることよ」

「ひゅぎじゃん、いたい!? いたいよ!?」

 

 ジト目の雪妃は引っ張っている頬から手を離す。


「う~、頬っぺが垂れたらどうするの!?」


 蓮花は頬を撫でて雪妃を恨みがましく睨んだ。


「それはごめんなさい蓮花……という訳でみんな! 違和感あるけど、これが蓮花の素だから気にしないで。元々、大胆な性格だったけど家の都合でだいぶ矯正(きょうせい)されて今の性格になったのよ」

「ふ~んだ! ユキちゃん、なんて知らない!」


 顔を背けそっぽを向く。そんな蓮花に雪妃は微笑えましく頭に手を乗せて撫でる。


「はいはい、ごめんさない蓮花」

「ふ、ふ~んだ」


 拗ねる蓮花は、雪妃に大人しく撫でられていた。ただし、その彼女の口許はにやけている。まるで拗ねた妹が大好き姉に慰めるような微笑ましい光景だった。

 それを眺めいたジルバートは感動したようで、いつの間にか手にハンカチを持って目元を拭う。


「美しいわ! なんて美しい乙女の友情なの、ワタシもダリアちゃんとも同じ乙女(漢女)の友情を(はぐく)んでみたいわ! 育もうとすると何故かいつも剣を構えて威嚇するのよ。シャイで困っちゃうわ!」


 はあ~、何が原因なのかしら? と手を添え、ため息を()くジルバート。


 (((((お前の見た目だよ!)))))


 この時、白夜、直樹、秋吉、和馬、桃子――五人の心のツッコミが重なった瞬間だった。またジルバートの隣、手綱を握っていた騎士も嫌そうな顔をする。

 こころなしか、馬車の速度が速くなったように感じた。


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