神に至る者
お持たせしてすみません。更新再開します。
ダンッ! と《希望》を構えたアルサスは、十二枚の黒い翼を持つ魔神に向かって駆け抜ける。無数の亀裂が入る大地をまるで獣の如く、ピョンピョンと飛び跳ね、アルサスは魔神に近づき――
「まずはアレをこの場所に押し止めるぞ、スー! 流石にあんな化け物が人里で暴れればどれだけ被害をもたらすか分からんからのう!」
空中で《希望》の穂先に淡い光が帯びると、腕を一閃。
「戦技『飛燕閃』!」
青白い三日月形の斬撃が飛翔し、そのまま大木のような魔神の左足に着弾。
しかし、魔神は『飛燕閃』のダメージが通っていないのか、何事もなかったかのように歩み続ける。
それを目にしたアルサスは、着地と同時に地面を蹴って、目に止まらない速さで魔神の左足に接近。
「ええい、遠距離系の戦技では焼け石に水か! なら次はこれでどうじゃ。巻き起こせ風よ――魔槍戦技『烈風……」
《希望》の穂先に目に見える程の竜巻が発生し、螺旋状に渦巻く突撃槍に変化する。
「――螺旋槍』!」
その風の魔槍は魔神の左足。黒いモヤをすれ違いながら削り、アルサスは地割れた地面に着地。そして効果があったか確かめる為に振り返る。
魔神は蚊に刺されたような僅かな反応を示すが再び、一歩踏み出し始める。
「チッ、やはりあの巨体相手に戦技では威力が低すぎて挑発にもならんかぁ……」
忌々しそうに魔神を睨むアルサス。
「いくら【哮天犬】があるとは言え、この調子では儂の体力が持たんわい」
【哮天犬】は、身体超強化やスタミナ回復上昇などの効果を持つスキルである。
もっとも、今は体力回復よりも目的を果たす為の知恵袋が欲しいところだ。
「スー。何かあの化け物を足止めする知恵はないか?」
《希望》に視線を向け、そう訊ねる。すると、《希望》に付いた白い宝石がアルサスに何かを教えるようにピコピコと輝く。
「ふむふむ、暴走しているとはいえ、アレの意識は依代であるあの子に深く繋がっている。だから、あの子の深層意識に反応する事を言えばこちらに釘付けになるか……」
遠ざかっていく魔神の背中を鋭い視線を送り、声を張り上げる。
「おい、小娘! いくらあの坊主が死んで悲嘆に暮れるのは理解できる。だが、世界を滅ぼすのは流石にやり過ぎじゃ! 故郷でお前さんの帰りを待つ仲間や友すらもこの世界と一緒に滅ぼす気か!」
魔神の依り代であるクロアに情に訴えるアルサス。しかし、虚ろな目で涙を流し光の鎖で囚われたクロアの心には届かなかったのか、反応を示さなかった。
そして魔神も足を止めることもなく、前へ進んで行く。
「ぬぅ、坊主の話ではあの小娘は情が深いと聞いておったが、それすらも反応をみせんとは……それ程までに………」
アルサスは遠ざかる魔神の後ろ姿に憐憫な眼差しを向けた。
「しかし、困ったのう。一体どうすればあの小娘の気をひ………あ!」
白い長髭を撫でながら思案しているとアルサスは何かを思い付き、
「おい、そこのイケメン坊主!」
そう大声を出すと、ピタッと魔神は僅かに動き止め、再び歩き出す。
魔神のそれを目撃したアルサスは「カカカ」と思わず忍び笑いを漏らす。
「そうかそうか、あのように虚ろな状態でもコンプレックスには潜在意識に反応するぐらい気にしとると言うことか」
嬉しそうにアルサスは空いている片手をメガホンように口に添える。
――そして、
「おい、そこの超絶貧乳娘!」
アルサスがそう叫んだ瞬間。
『――オオオオオオオォォォォォォォ!!』
魔神は振り返り、凄まじい地響きを立てながらアルサスの元に戻り、黒いモヤで出来た巨大な拳を叩き込む。だが、大笑いするアルサスはその拳を易々と飛び退いてかわす。
「カッカッカッ! こんな言葉で釣れるとは……お前さん、どんなけ胸の事を気にしとるじゃ!」
『我ハ………マダ成長期ジャ!』
「いや、お前さん。何歳かは知らんがとっくに成長期過ぎとるじゃろう?」
魔神に囚われているクロアの心の代弁に、アルサスが即座にツッコむ。そして憐れんだ目で、
「それにそう言う事を口走る奴は大半はもう……」
『ウガガガガァァァァァ――――ッッ!!!』
絶対に認めん! と依代のクロアの心中を表すように魔神は地団駄しながら、アルサスを踏み潰そうする。しかし、アルサスはそれを難無くかわし。
「ほれほれ、どうした絶壁娘。儂は此処じゃぞ! お前さんのような下を見るのに邪魔にならん胸をしておるのに、こんな老いぼれすら見つけられんのか? カカカカッ!」
『ムッキィィィ――――ッ!!』
調子に乗るアルサスは地割れした地面を利用しながら魔神の攻撃を避けて、魔神にとっての禁句を基に挑発を続けた。
二人の攻防はさながらゲームの巨大ボスと戦うワンシーンだ。
「……………………………」
しばらくしてアルサスを踏み潰そうとしていた魔神は立ち止まり、その赤い目が妖しく光らせる。その直後、アルサスの周りに赤く燃える複数の巨大な炎の塊。そして黒い曇り空から轟く雷鳴と稲光が走った。
動き止めたアルサスはダラダラと脂汗を垂らし、その光景を見回す。
「……こらこら、そこの見目麗しい美少女さんやい。流石に老人相手にこれはちっと反則じゃろう? ほれもっとお年寄りを優しくしてくれんかのう?」
優しく諭すような口調でアルサスがそう言うと、彼を見下す位置まで後退した魔神は――
『………死ネ』
その一言で、一筋の雷と巨大な炎塊の一つがアルサスに放たれた……しかし、次の瞬間。
「―――残念、それは無理じゃよ」
焦り気味だったアルサスは前に飛び出して雷をかわし――《希望》を一閃。
迫り来る巨大な炎塊を切り裂き、霧散させる。
「ふぅ、生憎と儂のクラス《赤城王》には、【三只眼】という万物に宿る力の流れを視るスキルがあってのう。儂の目には気や魔力、霊力。そしてマナと言った常人では見えん世界に満ちる力が視えるんじゃ」
と、焦った――演技をしていたアルサスは余裕を溢れる表情で解説する。
「そしてもう一つのスキル【二郎刀】は――」
そんな最中、アルサスの背後から別の炎の塊が高速で飛んでくる。だが、後ろに目があるみたいに振り向かずアルサスはその炎塊に《希望》を突き刺す。
すると、灼熱に燃える炎の塊は霧散するように消えた。
「破魔の力を武器に宿す事が出来るじゃよぅ。さらに【三只眼】と【二郎刀】を併用すれば、先程の炎の塊や魔法、術の核を潰し容易く無効化できるんじゃよ。だから小娘」
そう言って、ニヤリと笑みを浮かべるアルサス。
「儂を仕留めたいなら、決して目を離すなよ」
アルサスがそう挑発すると、次々と周りの炎の塊や薄暗い空から稲妻が襲い掛かる。アルサスはそれを冷静に見極め対処していく。
◇ ◆ ◇
炎の塊や稲妻を切り裂いたり、巧みに回避するアルサス。
その様子を、半透明な白夜は感嘆の声を漏らしながら眺めていた。
「凄い! これなら光の鎖に囚われたクロアを救えるかも! それにあの魔神にだってなんとか――」
『残念だけど、あの程度じゃ〈神に至る者〉相手に難しいと思うよ、天城・白夜くん』
突然、自分の夢の中で聞き覚えない女性の声が僕の耳に届く。
「誰っ!? なんで僕の名前を知ってるの!?」
僕は周囲を見回し、話し掛けてきた人物を探す。だが、この場には幽霊みたいな自分と、その視線を先で戦う二人しかいなかった。
『フフ、残念だけど今の君じゃあ私を見つけられないよ。それに私が君の名前を知っているのは………そうだな、アイツから聞いたからと答えよう。まあ、それよりも話の続きをしようじゃないか白夜くん』
「話の続きって………まあ、良いですけど、でもせめて名前ぐらい教えくれませんか?」
この声だけの人(?)はどことなくフレンドリーな態度だし、また自分に対して悪意も感じなかった。だから僕は、何か色々と知っていそうなその謎の存在に警戒しながら訊ねてみた。
『私の名前かい? う~ん、そうだな悪魔いや、それだと悪魔で私は……って何故かダメな気がするし、それになんか厨二病っぽくて気恥ずかしいな……』
……厨二病って、そう言えばこの異世界ってやたらと僕達の世界と同じ物の名前や言葉があるよね。
そんな事を考え僕は苦笑いを浮かべていると、
『うん、決めた! 白夜くん今後、私のことは大先輩と呼んでくれたまえ』
自分の仮名に納得したのか、満足そうに大先輩はそう名乗った。
僕は呆気にとらわれながらも口を開く。
「はあ、ええっと大先輩? どうして名前を教えてくれないですか、明らかに名前じゃないですよねそれ?」
『う~ん、別に私は名前を隠したくて隠したんじゃないんだよ。ただ今の君が私の名前を知ると魂がここの次元に定着しちゃって、地上で眠っている白夜くんの肉体に戻れなくなるよ?』
大先輩の言っている事が理解できない僕は首を傾げる。
「ええっと今、僕……自分の夢の世界にいるんじゃないですか?」
『半分正解だけど、ここは夢であって夢じゃないんだ』
「? 夢であって夢じゃない?」
『そう、この場所はリリスが観ている夢の世界でもあり――』
リリス、確かクロアが言っていた〝無垢なる女神〟だよね……というか神様って夢を見るの? と、眉間にシワを寄せる僕に、
『宇宙の記録――宇宙誕生から消失まで、現代に至るありとあらゆる出来事を記録した世界の記憶庫と呼ばれる場所さ。そして此処は彼等がリリスの為に集めた記録の断片』
微笑んでいるような気配を漂わせて大先輩がそう説明してくれた。
………彼等がリリスの為? よく解っていない僕だが、なんとなく大先輩の言っている意味が解った。
確かに今まで観ていた光景が夢にしては、3D映画みたいに凄くリアル感があったのはそう言う事なんだろう。
「じゃあ、何でそんなリリスの夢の世界に僕がいるですか?」
『まあ、その辺の事情についてはこの物語が終わった後にでも説明するよ。とりあえず、さっきの話に戻るよ』
「〈神に至る者〉っていうあの魔神の事ですか?」
僕の問いに、大先輩は『そうだよ』と頷き肯定する気配を感じた。
「いったい何なんですかアレ?」
『………聖王具・魔王具に宿る無垢なる女神の力の解放――その先、魂と肉体が神の領域に到達した者のみが辿り着く力の最果て――〝神に至る者〟。
アレは不完全とはいえ〝神〟と呼ばれている高次元の存在さ』
そう問い返す大先輩は、魔神に善戦するアルサスに視線を向ける気配をさせた。
〝神〟――日本では八百万の神。聖書では大いなる父。古代より世界各地にある神話に登場し、人間に知恵や知識、加護、恩恵などを与え、時には試練や災いをもたらす。
人々が崇め奉り信仰してきた超越的存在。
そんな元の世界の知識を照らし合わせながら僕も釣られて顔をそちらに向ける。
「でもそんな神様に結構善戦してますよあの人?」
『そりゃあまだアレ、小手調べ程度の力しか出していないからね』
いくつもの巨大な炎の塊による弾幕、雨のように降り注ぐ稲妻。
……アレでまだ小手調べ程度の力ですと!?
大先輩に告げられた事実に僕は仰天した顔で、慌てて問いただす。
「それじゃあどうすればあの魔神からクロアを助けられるですか!?」
『まあ、落ち着きたまえ白夜くん。あの子を助けるにはあの子に縛り付けているあの光の鎖を壊せば良いんだ。そもそもあの魔神――《デミウルゴス・ルシファー》が暴走している原因はアレなんだ』
大先輩にそう言われ、僕は魔神の胸元に半ば取り込まれたクロア。その彼女を縛り付けている光の鎖を凝視した。
『本来、あの子は神の器として完成しているから神成に失敗する事はあり得ないんだよ。おそらくあの光の鎖が無理矢理、あの子から主導権を奪っているせいで暴走状態なんだ。だからアレさえ排除できれば……』
どこか慈しみを含んだ声で言う。
『ずっと側であの子を守っていた《傲慢》がなんとかしてくれる筈だよ……ん?』
大先輩の推定を話していると、アルサスがクロアを縛り付ける光の鎖に狙って、様々な戦技を放っていた。多分、《希望》にその方法を教えたんだろう。
◇ ◆ ◇
三日月形の斬撃、旋風の魔槍など様々な戦技が魔神の胸元にある光の鎖に殺到する。
魔神は煩わしそうに巨大な手で戦技を防ぎながら思いきり大地を踏みつけ、衝撃破を生み出しアルサスをタンポポの綿毛のように吹き飛ばした。
アルサスは空中でぐるりと回転しながら、三十メートルぐらい離れた地面に着地する。それとほぼ同時に魔神が空に顔を向け。
『……星屑ヨ』
魔神がそう呟くと、空から大気を焦がすような轟音が響いてくる。
そして厚い曇り空を突き破り、真っ赤に加熱した流星がこの場所に墜ちてきた。
それを目にしたアルサスは《希望》を弓を射るように構え、魔導技で迎撃する。
「破砕の弦奏を奏でよ――」
その瞬間、《希望》の宝石が強く輝き、三メートルぐらいの槍から大弓の形状に変化した。アルサスはその大弓の弦を引き絞る、すると強烈な輝きを放つ一本の白い矢が装填され、狙いを定めて――撃ち込む。
音響破砕
「『擬似・悲しみの騎士が奏でる嘆きの弓奏』!」
ドッバンッ! と空気が破裂する音とともに白光が飛来する隕石に命中した。
その瞬間、白い魔弾が花火の様に弾け、空から哀愁漂う音色が響く。
また同時に、それは原子レベルまで分解する超音波でもあったのだ。
その破砕の音色は隕石と曇天を木っ端微塵に蹴散らし、青い空と天の川ような隕石群を覗かせる。
そして空がぽっかりと開けたおかげで第二波――大小様々な大きさの流星が墜ちてくるのが目に映った。
◇ ◆ ◇
『ふむ、どうやら衛星軌道上にある隕石群からその一部を墜しているようだね』
「いや大先輩!? なんでそんなにも冷静なんです! 隕石って確か一個でも地上に墜ちたらヤバイじゃないですか!?」
複数の隕石が落下中なのに冷静に状況を分析する大先輩に、僕が狼狽え気味にツッコむ。
……隕石って確か質量によって衝突時の威力が変わるだよね?
『うん? あぁ、大丈夫、大丈夫あの流星群は地上には墜ちないよ白夜くん。この世界を害するような行為を、あのおっかない〝世界の守護者〟が許す筈がないよ』
「へ? 世界の守護――」
大先輩が気楽に答えた瞬間、カッ! と僕の背後の方角から紅い閃光が迸る。
荷電粒子砲のような真紅の光線はそのまままっすぐ、飛来する大小様々な流星群を呑み込み――青空へと消えていく。
そしてその後、空には大きな穴が空いた雲だけが残った。
「――――――――」
目をひん剥いて唖然とする僕は恐る恐る大先輩に尋ねる。
「……あの大先輩、今のいったいなんですか?」
『〝世界の守護者〟である彼女の砲撃。しかし、相変わらずデタラメだね彼女。
いくら視ているからって此処からあの場所まで大体、惑星の半分ぐらいの距離があるのに……全く物理法則を簡単に越えるような非常識な存在ってどう思う、白夜くん?』
鏡を見ろ! とツッコませたいですか大先輩……。
溜息混じりに哲学的な事を言う同類に僕は苦笑いを浮かべた。
「凄いしか言葉が思い浮かびません」
『ふむ、安直な答えだね、白夜くん』
「あはは、でも大先輩。そんな凄い存在がいるなら、どうしてアルサスに協力しないですか?」
大先輩の言葉が真実なら、世界を滅ぼす為に生まれたあの魔神もその対象に入る筈だ。
『彼女にも色々と制限があるんだよ。それにもしも彼女があの魔神と戦ったらこの辺一体、エノクの地図からぽっかりと消えていると思うよ』
「………世界の守護者なのに世界を壊すんですか?」
『……彼女、自分は良くて他人はダメって言うタイプだからね。あ、でも喧嘩さえ売らなければ、面倒見はいいだよ。何せ私の頼み事をなんだかんだ言っても聞いてくれたし』
どうやら、その世界の守護者は頼りがいのある人物らしい。
『……でもその後、〝ありがとうドラえーもん!〟って冗談を言ったら〝よし、その喧嘩買ってやろう!〟ってガチで殺されそうになったけどね。ははは……』
あと、冗談が通じないタイプみたいだ。それに『ちょっこっとおちょくっただけでガチで怒るんだから、あのツンデレ』とブツブツ小言を呟く、姿が見えない大先輩は中々にユーモアな人物(?)のようだ。
『まあ、そんなことよりも白夜くん。どうやらあちらさん本腰を入れて反撃に移るようだよ』
仕切り直すように大先輩に促されて、僕はアルサスの方に視線を向けた。
◇ ◆ ◇
「……どうやら儂には頼もしい味方がおるようじゃのう。これで儂が此処で力尽きたとしても安心出来るわい、カカカッ!」
流星群を撃ち落としたその光景を見たアルサスは嬉しそうに笑い、すぐに頼もしさを感じさせる凛とした表情を作った。
「ならば、こっから先、心置きなく本気を出せるわい逝くぞ、化け物! それと小娘も少しぐらいの痛みは我慢してもらうぞ!」
気迫とともに大弓から元の槍の状態に戻った《希望》を携え、アルサスは疾風の如く駆け出し、魔神の巨木ような左足に迫ると――
「湖光の絶技をその身に刻め――『擬似・月湖の乙女の裏切りの妖精剣』!」
魔導技を発動と共に《希望》の宝石から視界を焼くほど輝き、アルサスの周囲がスーパースローのようにゆっくりとした時間の流れ始める。
「ぉおおおおおおおおお――――ッ!」
そんな状況下でアルサスは電光石火の如く、魔神の左足に何千回もの攻撃を叩き込んだ。そして、アルサスは二十メートルの間合いを取った。次の瞬間――
ドッドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド―――――ッ!!!
閃華絶槍。
超高速状態から解除と同時に魔神の脛から、連続した破裂音と煌めく閃光の華を散らせ――魔神の左足が吹き飛んだ。
『ァアアアアアアアアアアアーーッ!?』
絶叫をあげつつ、片足だけになった魔神はその巨体を支えきれず、ズドンッ! と倒れるように大きな音を立ってて膝をつく。
◇ ◆ ◇
初めて魔神が膝に土をつけた事に僕は歓声を上げた。
「やったっ! 何が起きたか解んないけど初めてマトモにダメージが入った!」
『あぁ、アレ、時間操作系の魔導技だね。あの手の魔導技は強力な半面、使い手の技量がないと扱いが難しいからね、おまけに武器適正っていうリミッターがあるから使用できる人も少ないし』
大先輩が感嘆な声で気になる単語を漏らす。
「リミッター? 武器適正って魔導技を使用する為の大事な要素じゃないですか?」
『うん? ……あぁ、そういえば今の時代ってそういう風に教えているんだっけ?』
まるで違う時代からタイムスリップした人のような反応だった。
僕が不思議そうに頷くと、大先輩は『そっか、じゃあ白夜くんと私じゃあ結構認識の違いがあるね』と呟き、うんうんと納得する気配を感じた。
『別に君が教えられた事は間違っていないよ白夜くん。魔導具にある武器適正は魔導技を使用する為の要素でもあり、同時にある危険から守る安全装置でもあるんだ』
「安全装置?」
『そう、元々魔導技は私達の祖先が残してくれた英雄英傑、偉人、聖人、仙人、人ならざるもの。そう呼ばれるモノ達の伝説、伝承、創作、神話、歴史と言った情報を概念として抽出し構築した魔術式……言わば人類が生み出した幻想を再現する術式なんだ』
大先輩は魔導技の仕組みについて懇切丁寧に教えてくれる。
それのどこに危険要素が? と僕がそんな疑問を抱いていると、
『この概念術式は情報とはいえある意味、魂の複製でもあるんだ。そのせいで術式の核である霊格が強すぎて、使用者の精神に干渉して精神障害や肉体の変化などといった影響を及ぼしてしまうんだ』
そう解説した大先輩は『どうだい白夜くん、危険と思わないかい?』と問いかける。
……確かに使用者自身に影響を及ぼすなんて最早、禁術の類いだよそれ。
〝禁術〟とは血や寿命、肉体の一部などを代償として払うことで行使できる強力無比な魔法である。その為、使用した術者は身体のどこかに何らかの障害が発生するらしい。
過去にその代償を嫌い、他者を生け贄とする方法で禁術を使う術者がいたらしく、そういった倫理的な理由や人道的その他種々の理由から使用をすることを禁止指定された魔法の類いなのだ。
ちなみに魔法には難易度や威力によって、大まかに初級、下級、中級、上級、最上級に部類され、禁術は最上級の位置にある魔法である。
と、難しい顔で僕はここ一ヶ月で習った魔法の知識、禁術に関して思い返しながら頷く。
『うん。だから、わざわざクラスの固有波形パターンを何度も計測とシミュレートとしてモ~~ノ凄く苦労の果てに作り上げたのが〝武器適正〟。使い手の安全かつ使用可能なクラスを制限する安全装置なのさ。………まあ、でもごく稀に魂の波長が合う人もいるから完璧と言わないけど……』
明らかに不満を混じらせつつ大先輩は言葉を続けていく。最後の方は小声だったが。
『そして、その概念術式と特製の魔導炉を組み込み完成した魔導武具が〝魔導具〟。私達の母なる故郷の言葉で〝遺物〟という意味を名付けたんだよ。
ちなみに魔導技の技名は術式の核である彼等にゆかりのあるものや偉業から付けたんだ』
と、大先輩の魔導技への説明が終わった。そしてそれを聞いた僕が抱いた感想は、
……なんでそんな事、知ってるだろう?
大先輩に対してますます謎を深めていくのだった。
『まあ、そんなお喋りはまた今度にしよう、白夜くん。どうやらあの魔神は彼を脅威として認識したようだよ』
大先輩がそう言うと、膝をつく魔神は背中に黒い輪のような天輪を生み出した。
それは背中にある十二枚の黒い翼と相まって神々しさを作り出す。
『さて、白夜くん。その目に焼き付けるといいこの物語の佳境、誰にも語られることもない人と神……女神が唯一認めた勇者の戦いを、そしてアイツが君に何を伝えたいのか』
………リリスが唯一認めた勇者? と首を傾げる。
くす、と姿が見えない大先輩は小さく微笑んだ気配をさせながら、
『また何を受け継いで欲しいのかを、考えたまえ』
意味ありげな言葉を僕に送った。




