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疑心暗鬼の話

セレンちゃんの部屋には重苦しい空気が漂っていた。投げ合ったのだろうか、小物がたくさん床に散らばっている。セレンちゃん、カノンちゃん、ミロクちゃんの3人は顔を手で覆い隠している。その惨事を部屋の隅で呆然と見ているフリージアちゃんも辛そうな表情をしている。


「どうしたんだ…?」


唯一俺に気づいたフリージアちゃんが、首だけを傾けてこっちを見てきた。今にも泣き出しそうだ。


「イリアス君… 私はどうすればよかったのぉ…?3人とも急にケンカしだしてぇ…」


「大丈夫、あとは俺に任せろ。」


フリージアちゃんにまで泣かれちゃたまらないからな。それで、こっちの3人には何があったのかを聞かないとな。


「おい、3人とも。何があったか教えてくれないか?ケンカしたんだろ?」


誰も何も言わないな。すすり泣きしか聞こえてこないし、どうしようか。


「あ、そうだ。今週末みんなでどこかへ出かけないか?最近忙しくてそんな暇無かっただろ?俺もちょっと遠出してみたいし。」


「イリアス君… 私は行けないかな… 」


「なんでそんなこと言うんだよ、セレンちゃん。"みんなで"行きたいんだよ俺は。」


「だってこの2人が!この2人も… 私が犯人だって疑ってるの…」


「そんなこと言ってない!セレンちゃんだって辛いだろうと思って… 話をしに来ただけじゃない!」


「そうだよ!あたしはイリアス君に頼まれたっていうのもあるけどさ、あんたのこと本気で心配してたんだよ!なのに…」


「そうやって私を安心させて、油断したところを捕まえる気でしょう…?その後は学園長にでも引き渡して… 私、殺されるのかな…」


「ねぇ、イリアス君。イリアス君も何か言ってあげてください… セレンちゃん、私たち以上にパニックになってて、もう私たちじゃどうにもできないんです…」


いくらなんでもここまで疑心暗鬼に陥るのは何かおかしくないか?セレンちゃんだって犯人との共通点は風属性の使い手ってだけじゃないか。………でも、もしかしたら本当に犯人なのかも… って何考えてるんだ俺は!そんなわけないじゃないか!そんなわけ…


「イリアス君、本当のことを言って… 君も私のことを犯人だと、人殺しだと思ってるんでしょ…?」


「イリアス君!きっぱり否定してやってよ!あたしたちの言葉はもう届いてないの!もう君だけが頼りなんだよ!」


「俺は… わからない。」


俺自身、言いようのない不安や疑念に駆られて、何がなんだかわからないんだ。だから頼む… そんな失望の眼差しをこっちに向けないでくれ…

つい目を背けてしまった… セレンちゃんの目からは一気に涙が溢れ出し、俺を押しのけて部屋から出て行ってしまった。


「セレンちゃん待って!!」


カノンちゃんもそれについて外へ飛び出して行った。フリージアちゃんはまだ放心状態で、少し落ち着きを取り戻したミロクちゃんがどうしようといった感じでこっちを見てきた。


「と、とりあえず追いかけるぞ!」


「わかった!」


一歩踏み出したその瞬間、俺は例の頭痛に襲われ、意識を失った。

視界が明るくなると、俺は屋上にいることに気づいた。ぎりぎりのところにセレンちゃんが立っていて、それを取り巻くように俺を含めた3人が見ている様子をただ眺めていた。


「セレンちゃん!お願いだからこっちに来て!そんなところ危ないよ!」


「そうだよ、あんたが犯人なわけないじゃん!一緒に作業したあたしがそう言うんだから信用してよ!」


セレンちゃんにはもう何も見えてないようだ。虚ろな目で独り言を呟いている。


「セレンちゃん!死んだらもう、一緒に楽しいこともできなくなるんだぞ!だから… 死んじゃだめだ。これからも俺の友達として、よろしく頼む。」


未来とはいえ、俺にしてはなかなかいいこと言うじゃないか。これでセレンちゃんも飛び降りたりはしな… いや、未来予知は悲しい未来しか見せてこなかった。ということは…


「友達として、ね。最後まで私は友達だったのか、なんか悲しいなぁ。一度でいいから好きって言われたかった。恨むわ。」


セレンちゃんの身体がゆっくりと後ろに傾いていく。"俺"が駆け出すが、間に合わない。一瞬の後に、ドサッという鈍い音が聞こえてきた。月夜に響き渡る2人の女の子の悲鳴をバックに、俺の意識は再び暗転した。




くそっ!!どうすればいいんだこれは!?今回は明確な答えがない、一歩間違えばセレンちゃんを死なせてしまう!


「イリアス君?また例の未来予知?」


「ああ、だが今回はちょっとばかりまずいことになった。とりあえず屋上へ向かうぞ!」




俺たち2人が屋上にたどり着くと、さっき見た光景が広がっていた。セレンちゃんはやはり屋上のへりの部分に立っている。もう日は沈んでいて、月明かりがこの状況に似合わず美しくセレンちゃんを照らし出している。


「セレンちゃん!お願いだからこっちに来て!そんなところ危ないよ!」


「そうだよ、あんたが犯人なわけないじゃん!一緒に作業したあたしがそう言うんだから信用してよ!」


ここが正念場だ…!さっきは友達扱いされて悲しんでいた。ならば今度は…


「セレンちゃん!俺は君のことが好きだ!もっと一緒に楽しいことをしたい!だから、死んじゃだめだ。」


セレンちゃんの目に光が戻った。その瞳から一筋の涙がこぼれ落ちる。うまくいったか…?


「嬉しい…!ありがとうイリアス君、そんなこと言ってくれるなんて思ってなかった。だけど、もう遅いよ… 私はみんなに人殺しだっていうレッテルを貼られたまま生きていくなんてできない。だから、ごめんね…」


間に合わないとわかっていても、俺の足は勝手に走り出していた。俺の突き出した手は、虚しくも空を切った。


「なんでだよ… 未来がわかっても変えられないってのかよ…!セレンちゃん… ごめん…」


俺は激しい絶望感に包まれながら、やがて聞こえてくるであろう鈍い衝撃音やカノンちゃん、ミロクちゃんの悲鳴を待つことしかできなかった。しかし、それらの代わりに聞こえてきたのは予想だにしないものだった。


「じゃじゃじゃじゃーん。呼ばれなくても飛び出す、『愛の戦士』学園長ですよー。」


は…?一体何が起こって… 学園長がセレンちゃんを抱えている?カノンちゃんとミロクちゃんも俺と同じように固まっている。


「危機一髪でしたね。まぁ生徒が愛を叫んだってのに、それを悲恋に終わらせるつもりなんてさらさらないんですけどね。」


「なんであんたがここに…」


「それは秘密です。でもこの子を助けてあげたんですよ?これ以上追求する必要なんてないですよね?」


学園長はセレンちゃんを抱えたままふわふわと浮いていて、そのまま屋上に降り立った。


「みなさん疑問がいくつもあると思いますが、それは後回しです。まずは重要なことをひとつ伝えておきましょう。『ガウス博士殺人犯』を先ほど捕まえました。」


「はぁ?何言ってんだよあんたは。」


「彼女は僕も殺しに来たんですよ。それでさっき返り討ちにして、身柄を拘束しています。詳しいことは本人を交えて話しましょうか。」


何一つ理解できねぇ… ここまで来たら身を委ねるしかないな、そう考えた俺たちは学園長とともに屋上を後にした。




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