対会長戦の話
なっ… あいつ敵味方関係なく撃ちやがったな…
「ご主人、2人で協力しても互角に持ち込むのが精一杯だと思うのです。どうするのです?」
「向こうから闘いやすい状況を作ってくれたんだ。やるしかないだろ。」
ジェーン会長はゆっくりと歩み寄ってくる。顔には笑みを浮かべ、数秒前に150人以上も消し去った人間には到底見えない。
「話し合いは終わったか?私にとっちゃ、最初で最後のイベントなんだ。存分に楽しませてくれよ?」
最初?どういうことだ?1年生の頃から学園にいるならこれで8回目のはず… いや、今はそんなこと考えてる場合じゃないな。
「全力で闘うんだろ?俺が剣を持ったって何の問題もないよな?」
「ああ、もちろんだ。だが…」
「何なのです。」
「『盾』が剣を持つってのもおもしろい話だな、と思ってさ。」
「いつまでそんな冗談言う余裕があるかね。」
相手の出方がわからない以上、うかつに斬りかかるのもちょっとな。とりあえず距離を取りながら火球を数発撃ち込んでみた。
「何だ?様子見か?その程度の魔法が私に当たるとでも思ってるのか?」
「いいや、そんなこと思ってないさ。」
「じゃあなんで…」
狙いは… 背中だ。
「観念するのです!」
俺の撃った魔法はいくつか外れて地面に当たり、煙を発していた。それが狙いだ。シュメリアとはごく僅かではあるが、意識を共有している。あいつには煙に紛れて背後に回ってもらった。
「ご主人の作戦はシンプルすぎるのです!」
そんなことを言いながらも、シュメリアはジェーン会長に強烈な回し蹴りを叩き込む。
「なるほどな。この程度を見抜けなかった私もまだまだだな。だが、甘い!」
参ったな…並の魔道士ならその身体を真っ二つにするほどの威力を持つシュメリアの蹴りが、まさか後ろ手で止められるとは思ってもみなかった…
「その体勢でなかなかやるのです。」
「いくら魔法で強化しているといっても、所詮は人の形をした者の体術だからな。訓練通りにやればいいだけだ。」
突然、シュメリアの右足を掴む手が爆発した。さしもの化物メイドも、ゼロ距離で魔法を喰らえば耐えられないようだ。足首から先を置き去りにして距離を取った。
「いったい…のです。」
シュメリアは止血代わりに、傷口に凍結魔法をかけて凍らせた。見てるだけで痛いな。
「俺の従者になんてことしやがる。」
「まだ片足が使えなくなった程度だろ。ごちゃごちゃ言ってんなよ。」
今やったの… 真似してみるか。俺は右手で剣を構え、左手には雷撃の魔法を溜める。
「お前の魔法じゃ私は倒せない。さっきのことでわかっただろう?それとも必殺技でも隠してるのか?」
「まぁ見てなって。シュメリア!まだ動けるな!?」
「少し不自由だけどまだいけるのです!」
俺の雷撃が溜まるには少し時間がかかる。あの化物相手に1人で耐え凌ぐのは不可能に近い。だが2人でやれば…
「ちっ… まだ動けるのかよ死に損ないが。」
「あなたにはご主人直々に引導を渡してやるのです。」
「俺が生徒会長を引き継ぐみたいに言うな。」
「私に勝てば序列1位に認定される可能性がグッと上がる。生徒会長も夢じゃないぞ?」
「可能性がってことは確実じゃないのか。」
「そうだ。序列ってのは教師陣が決めるものだから、単純な戦闘力を表す数字じゃない。」
「そうなのか。じゃあいっちょ、1位を目指してみようか!」
俺は左手に魔力を貯めたまま、剣にの柄を握りしめると剣の刃まで魔力が伝い、全体を覆い尽くすのがわかった。
「その程度はできるようになったか。」
「すごいのです、ご主人!この闘いの中でそんなに成長するなんてあたしは思ってもみなかったのです。」
「必殺技らしい名前でも考えとけばよかったぜ。」
俺が剣を振るうと、斬撃の筋を雷撃が伝っていく。さっきジェーン会長が手を爆発魔法で覆ってるのを見て真似してみた。
「確かにこれはものすごい威力だ。だが相手が悪かったな。私を倒すにはまだまだだ。」
ジェーン会長が呪文を詠唱すると、分厚い魔力の壁が身体の前方に出現した。ウォールだ。俺の斬撃がウォールの障壁にぶつかって、ギチギチと音を立てている。しばらくして、双方にひびが入ったような状態になると、どちらも掻き消えてしまった。
「魔力の量はおまえが上だが、質では私が勝っていたようだな。」
これが聞かないとなるとますます状況はまずいものになるな。どうするか。
「ご主人!もう一度やってみるのです!もっと魔力を込めればいけるかもしれないのです!」
そうか、と思って俺はまた魔力を溜めはじめる。するとジェーン会長は先ほど見たのと同じ構えを取った。高濃度の魔力から生じる白い光がその手に収束していく。
「ふん、まだまだだって言ってんだろ!」
まずい!あの光は…俺の視界が真っ白に塗りつぶされる。これは避けられない、初の死亡か…
激しい衝撃が襲って、俺の意識も遠のく…はずだった。しかし予想に反して大したダメージは負うことはなかった。なぜなら…
「シュメリア!」
「ご主人が無事なら…それでいいのです… あたしが…いなくても…きっと勝てるのです…」
背中の一部が消し飛び、肉だけでなく骨まで見えている。シュメリアはその身を地に倒すと、光の粒になって消えていった。
「『矛』は潰した。後はおまえだけだぞ。」
「ああ… そうだよ…俺は『盾』なのに、女の子一人守れずに自分だけが生き残ってるんだよ…」
「まぁそう自分を責めるな。それだけ私とおまえとの間には戦力差があったってことだよ。」
未だにどんなやつかよくわかってないシュメリアだが、戦闘の時には誰よりも頼れるやつだった。ただ強いというからという訳ではなく、俺よりも俺のことを理解してたからじゃないだろうか。
「うああぁぁぁぁぁ!!」
声にならない叫びをあげながら、俺は右手のその剣を… 投擲した。
「自暴自棄になったか。剣士が己の分身である剣を投げるとは… ガッカリだよ、イリアス=ガルディック。」
ジェーン会長は俺が投げつけた剣をいともたやすく地面に叩きつけた。剣の切っ先が地を切り、彼女の足元に突き刺さる。
「打つ手なし…か。まだ全然楽しめてないが、まぁ強かったと思うぞ、『矛と盾』。」
ジェーン会長が俺に止めを差すために魔力を溜め始めた。ここだ!
俺の左手はほぼ真上を向いている。
「そんなところに私はいないぞ。」
「わかってるさそんなこと。だから、『目印』を立てたんだろう?」
「おまえまさか…!」
明後日の方向に飛んで行くと思われた雷撃はその向きを変え、地面に突き刺さっている俺の剣に落ちた。多少威力は落ちるとはいえ、元の威力は雷以上、それは実証済みだ。事実、ジェーン会長は全身が痺れて力が抜け、剣に掴まって頭を地に伏せないようにするので限界だ。
「ここまで… 見越していた… と?」
「もちろん、俺の作戦勝ちだよ。」
俺は彼女の手を剣から引き剥がし、倒れたその身体から頭を切断した。




