相棒は無惨な姿
「ごめんなさいあああ!!!」
涙声が部屋に響く。色で大体は予測でわかるが、南澤くんは相当慌ててる様子だ。ちょこかと動くものが見えるだけで何やってるかわからないけど。
「あっうん、落ち着こうか」
「だって眼鏡があああ」
「まぁ無惨だろうね」
足元にある、おぼろげに見える黒い物体を触る。たぶん眼鏡の縁だろう。持ち上げて顔に近づけてよく見る。縁はぐにゃりと曲がって、レンズは見事に割れている。
(でもこれじゃ帰れないなぁ)
このまま歩いて帰っても、確実電柱にぶつかる。その前に玄関を出れるかも危うい。ここは南澤くんに帰りは送ってもらおう。
眼鏡が壊れた原因は僕にもあるし、とりあえず今日遊び(元言いデートか?)は無理だ。延期にして――、
「弁償するから!!」
「えっ」
僕の思考をぷっ飛ばすように強く言われた。これには僕も慌てる。
「いや、それはいいよ!!眼鏡高いし…、僕の不注意もあるから」
「でも誤って踏んだのは俺だよ!!」
「落としたのは僕だ」
そこに居るだろう南澤くんを睨む。しかしこのままではどっちも譲らないのでは…。
膠着状態も嫌だから、思いきって南澤くんの前に手を差し出す。
「とりあえず服を決めて」
「へっ」
「で、僕の家に寄ってお金持ってくるから。そしたら眼鏡屋に連れって」
「…わかった」
差し出した手に一式渡してくれた。服を抱え込む。でも着替えるその前に、眼鏡を南澤くんに悪いが片付けてもらった。いつまでも床に散乱させて置くのは危ないし、時間の有効活用だ。
片付けてもらってる間に僕は着替える。濃いめのグリーンのパンツで七分丈。南澤くんに言われたがクロップパンツってやつらしい。あとインナーは長袖のたぶんチェック柄の青いシャツ。そして黒のパーカーを着た。なんやら柄が入ってるが、詳しく見る気がしない。
「着替えはこれで良い?」
「うん満足」
ご機嫌が戻ったようだ。まぁいつまでも謝られてるよりは良い。南澤くんはその後準備があるからと奥に行ってしまった。立って待ってるのは何だからその場に座るけど、違う部屋からドタバタと聞こえてくる。
(なにやってんだろう…)
見えない向こう側を見たって仕方ないことだけど。
暫くして南澤くんが戻ってきた。
「さぁ行こうか」
「うん」
頷いて立ち上がると、手を握られた。
「…っ!!」
「えへへ」
僕だって目が見えないから手を引いてもらおうとは思っていたけど、まさか今の握り方はいわゆる恋人繋ぎっというやつではないだろうか…。
「はっ恥ずかしいだけど」
「大丈夫、大丈夫!!」
「いや、大丈夫じゃないよ!!」
「いいから〜」
僕の言葉に聞く耳持たず、そのまま手を引かれて外に飛び出された。…ちゃんと家まで送ってくれるか不安である。