宵越し
……腹立たしい。
にこやかに話すリューオーの話を聞いて、1つの単語あげるとしたら真っ先にこれだろう。
確かに、もし自分の立場であったとしたら言いそうだと思うだけに、苦々しく感じる。
前半はよかった、よっぽど異世界トリップ堪えているんだなあーと思わせるくらい、物憂げな笑みを浮かべていたものだから。
過去を思い出してから、だんだんと皮肉めいた微笑みに変わったのがいけない。
にこやかという言葉が合う男だとは思う。
けれども、そこに腹黒といった言葉も垣間見えるとは思ってもみなかった。
……にこやかって、こんなおどろおどろしい意味もあったかな?
本当、前半はよかったのに。
「昔のわたしも、こうだったかもしれませんねえ」
ぶつくさしているあたしを見ながら、リューオーは独り勝手にくすくす笑う。
余計に、腹立たしい。
「さて、もう夜も遅くなりましたことですし」
また話は後にしまして、そろそろ寝ましょうか。
夕食前まで寝ていた客室が、しばらくの間あたしの部屋になるらしい。
わたしはあそこで寝ますから、と言って指をさした先はリビング奥の扉。
ほんと、ものすごい広いところに住んでいるな、このひと!!
……今更、だけれど。
部屋にある衣服を勝手に使ってもいいらしく、ついでにトイレと浴室の場所も教えてもらう。
「それでは、おやすみなさい」
そう言って、さっさとリューオーは自室へと向かう。
扉が閉まる音を聞き、しばらくして、なんとなく虚無感を覚えた。
「お風呂はいってこよー」
気持ちに疑問を持ちながら、それをかき消すように独り言を呟いた。
前の世界ではシャワーはあっても風呂の、習慣というか文化がなかった。
久しぶりのお風呂。
他人の家の風呂を好き勝手に堂々使っているなんて、図々しいけれど。
ゆっくり浸かろう。
夢見た念願のお風呂。
あたしはわくわくしながら、そして、浴室に向かったのだった。