月 夜
翌日、一応はリューオーのアクマとして付き従った。
多くの人の視線と、声をひそめているんだろうけれど聞こえてくる噂話に辟易した。
このときに空飛ぶ車を初めて見て目が点になる。
なるほど鳩が豆鉄砲を食らったというのはこのことですか、とリューオーは独り納得して、笑いをこらえながら、とぎれとぎれに呟いた。
ちょっとむっとする、散々な日だった。
3日目、どうやら生徒が授業に集中できないようですと職員室待機。
隣のキレイなおねーさん先生にお菓子をもらい、気づけば熟睡。
起きればリューオーの顔が近くて驚く。見渡せば小さな倉庫。
何故。
知らないひとに物はもらうなと、初めて聞いた敬語を外した言い方で怒られ、しょぼしょぼ。
落ち込んだ1日。
4日目以降は、自宅待機。
一人で外出禁止令を言い渡される。
何にもないから、お留守番はつまらない。
……夕方、リューオーに会うまで暇だった。
ただいま、おかえりなさい。
言葉のかけあいがなんとなく気恥ずかしくなった日。
5日目、リューオーは休みだという。
その日一日、リキギとはどんなものかと魔法を教えてくれた。
アニメ映画で見た茨姫の3人のおばあちゃん魔女のよう、便利すぎる……。
けれど召喚紋なしに、杖や手で何かを描くかのように手を振るのは高度な技だという。
アクマなあなたもできるはずです、と言われ試しにやってみた。
小さなタンポポひとつ、でてきた。
うわー、あたしでもできるんだーと浮かれてたら、リューオーから一言。
「この世界では、あなたは何もできないようですね」
妙に輝いている笑みが凶器になるなんて、言葉の槍がぐさりと心が傷ついた。
魔法使う能力は、皆無に等しいと気づいた悲しい日。
6日目、たわいない会話で、ふと散歩をしましょうということになり外に出た。
びゅんびゅん空飛ぶ乗り物を、地上で見る。
長い柄の草箒をまたがって、庭箒じゃないのが惜しいと思いながら、空を移動する男性には笑った。
一人笑うあたしに、何を理由に笑っているのですかとリューオーは説明を求める。
空想の話だけど元々住んでいた世界ではベタだったとしゃべると、彼は軽くうなずき、納得したようだった。
わたしにとってみればアレですかねと言って指さした先は、大きな金竜。
驚くあたしを尻目に、リューオーはどうやって玄関に入るでしょうかねえと遠くに行った竜を見る。
そ う い う 問 題 な の ?
注目するところはお互い違うけれど、二人で笑いあった。
7日目、その日の夜のことだった。
窓越しよりも直接見たほうがいいと、ベランダのガラス戸を開けて大きい満月を見る。
夜風が冷たいけど、その分、月はきれいに映えてると思う。
「花姫?」
「はい、何ですか」
いつのまにか帰ってきたらしい。
リューオーの声がした方向を見ようと後ろを振り向く。
薄紅色の花びらが舞った気がする。
瞬く間に強い風がきた。
「え?」
お互い思わず相手を凝視し、そして自分を見る。
自分の体が、花びらのごとく散り散りとなって舞い飛んだ。
「どうやら、お別れののようですね」
混乱して、体が消えていく感覚が怖くなって叫びそうなあたしとは逆に、冷静なリューオーはぽつりと言った。
何でこう落ち着いているのだろう、あたしは逆上しながら、リューオーに八つ当たりをする。
きょとんとした顔の後、リューオーは何かを察したように微笑んだ。
「無理もありません、わたしはただこの感覚に慣れただけですから」
大丈夫、大丈夫ですよ。
呪文のようにリューオーは何度もそう言って、あたしを慰める。
花びらが多く舞うにつれて、体がどんどんなくなっていく。
怖いけど、呑気にも月明かりに照らされ舞う花びらがきれいだと感じた。
「……きれいですね」
彼も同じことを考えていたようだった。
彼の言葉にうなずくと彼は優しく微笑む。
「またお会いしましょう、花姫」
そうして2度目の世界から、あたしは別れた。




