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獣人族はアホじゃないのだぁ  作者: 雪だるま


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65 最終回

 白銀の獣英雄レイ失踪。


 その報告が王都キャビアへ届いた時、最初に沈黙したのは王宮だった。


 白夜宮。


 豪華絢爛な謁見室。


 だが。


 そこにいた誰一人として口を開かなかった。


「……消えた?」


 国王カルパスが静かに聞く。


「はい」


 近衛長官の声も重い。


「森で護衛兵たちとはぐれ、そのまま」


「死体は」


「ありません」


 沈黙。


 王族たちの顔色は悪かった。


 理由は単純。


 レイは国家戦略級戦力だったからである。


 世界最強。


 しかも若い。


 兵士人気も異常。


 地方民人気はさらに危険。


 その存在が突然消えた。


 これは。


 国家的損失どころではない。


「……他国か?」


「不明です」


「魔物?」


「可能性は低い」


 誰も断言できない。


 だが。


 皆理解していた。


 “普通ではない何か”が起きたのだと。


 一方。


 貴族たちの空気も最悪だった。


 最初こそ。


 ほっとした者もいた。


 厄介な英雄が消えた。


 地方民の象徴がいなくなった。


 だが。


 数週間後。


 別の問題が浮上する。


「……ヴェルシナ地方です」


 会議室の空気が変わる。


「何だ」


「半獣人の子供が増え続けています」


 沈黙。


 そして。


 皆、嫌そうな顔をした。


 レイ本人は消えた。


 だが。


 “残したもの”があまりにも多かった。


 ヴェルシナ地方。


 元々は辺境の少数民族地帯。


 貧困。

 男不足。

 魔物被害。


 消えかけていた地域。


 そこへ。


 白銀の獣英雄が現れた。


 結果。


 大量の半獣人の子供が生まれた。


 しかも。


 異様に丈夫だった。


「今年の冬、乳児死亡率が激減しています」


「……何?」


「半獣人児の影響かと」


 さらに。


 食欲旺盛。

 寒さに強い。

 病気にも強い。


 辺境では極めて重要だった。


「冗談だろ」


「事実です」


 会議室が静まり返る。


 貴族たちは理解し始めていた。


 これは単なる愛人問題ではない。


 人口問題だ。


 国家問題だ。


 辺境開発。


 兵士供給。


 地方維持。


 全部へ関わる。


「……しかも」


 役人が嫌そうに続ける。


「現地で“英雄の血”として神格化が始まっています」


 さらに空気が悪くなる。


 ヴェルシナ地方では既に。


 レイの残した日用品。


 皿。

 服。

 食器。


 そういうものまで大事に保管され始めていた。


 そして。


 半獣人の赤ん坊たちは。


『白銀の子』


 と呼ばれ始めている。


 王都貴族からすれば悪夢だった。


 一方。


 当のヴェルシナ地方では。


 現実はもっと生々しかった。


「ほら、いっぱい食べな」


 女たちが赤ん坊へスープを与える。


 半獣人の子供たちは、普通の子供より元気だった。


 耳。

 尻尾。


 完全に人間ではない。


 だが。


 可愛い。


 そして。


 強い。


「また歯生えてる」


「早くない?」


「レイ様そっくり」


 女たちは苦笑していた。


 貧しさは消えていない。


 冬は厳しい。


 だが。


 以前よりは希望がある。


 それが大きかった。


「……レイ様、本当に帰ってこないのかな」


 若い母親がぽつりと呟く。


 空気が少し静かになる。


 誰も答えない。


 既に半年。


 音沙汰がない。


 王国中が探した。


 だが。


 見つからなかった。


 そして。


 ヴェルシナの女たちは理解している。


 あの獣人は。


 多分。


 普通には死んでいない。


 理由はない。


 だが。


 そう思う。


「……でも」


 年嵩の女が赤ん坊を抱き上げる。


「残ったからね」


 静かな声。


「この子たちが」


 窓の外では雪が降っていた。


 寒い。


 厳しい。


 それでも。


 昔より村に子供の声が増えた。


 笑い声も。


 泣き声も。


 全部増えた。


「……変な男だった」


 女たちは笑う。


「馬鹿だった」


「うるさかった」


「でもいっぱい肉持ってきた」


「尻尾ふわふわだった」


 皆、少しだけ寂しそうだった。


 一方。


 王都では既に別の計算が始まっていた。


「保護するべきです」


「いや、管理だ」


「王家直属教育施設へ」


「地方勢力化する前に囲い込め」


 半獣人児。


 彼らは今や政治的資産になり始めていた。


 世界最強の血。


 しかも数が多い。


 貴族たちが放置するわけがない。


 だが。


 ヴェルシナ地方の女たちは警戒していた。


「王都へは渡さない」


「レイ様の子だ」


「うちらが育てる」


 静かな対立が始まる。


 そして。


 誰も知らない。


 地下深く。


 古代神殿の最奥で。


 白い光の中。


 世界最強の獣人と、二千年孤独だった王女が、今も静かに眠り続けていることを。

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