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1 ルクル、いっきま~す

「いや~、楽しみでしかたないですねぇ~。」


機能美に溢れた、機能美しか感じない樹脂製の廊下を足早に歩く女性がいた。


どこまでも黒く艶やかな髪を無造作にまとめて背中に流し、ぴっちりとしたパイロットスーツに身を包んだその上から白衣を着こんでいる。


『ルクル主任~、そろそろ準備が出来るそうですよ。現場には着きましたか?』


「プラティーく~ん、大丈夫で~すよ~。」


通信機越しにルクルと呼ばれた女性は目の前に迫っていたドアに手をかけ、迷いなく開く。


そこは、屋内と呼ぶにはあまりにも広い空間だった。


だが、人々があわただしく動き回り熱気に包まれ、まるで祭りの直前の様な賑わいがある。


その中を少しもペースを乱すことなく、ルクルは歩く。


そして、とあるものの前でその歩みを止め、その楽しみを抑えきれない表情を上に向けた。


そこには巨大な人型機動兵士が佇んでいた。


戦場の花形。パイロットと機体の性能が合わされば凄まじい戦果をだすこの兵種は、近年この銀河系を統べる帝国が特に開発に力を入れている。


ルクルはそこの開発主任をまかされていた。


「いいですねぇ、いいですねぇ、櫻麒麟・・・。いつ見てもほれぼれしちゃいますぅ。」


すりすりと櫻麒麟と呼んだ人型機動兵士の足に頬ずりをかましている。


はっきりいってアブナイ女だった。


だが、周りのスタッフはまったく気にしていない。 さもそれが通常運転であるように。


管制塔でその様子を眺めていた助手はため息とともに上司を促す。


『ルクル主任~。愛機が愛おしいのは分かりましたから、早く乗ってくれませんか?』


「まったく~。プラティー君はわかってませんねぇ。私がこの子にどれだけの愛情をそそいだのか。」


そう、櫻麒麟と呼ばれた機動兵士、この施設の年間予算を食い破る勢いで予算がつぎ込まれている。新しい実験的な試みがいくつも採用され、困難だと思われていた装備も実現。


その結果の一つが今日、これから実を結ぼうとしている。


『はいはい。わかってますって。いいから乗ってください。試験の予定時刻を過ぎてしまいますよ。』


「なんですと!それを早くいいなさい。とうっ!」


氣の抜けた気合いと共に、足の裏に魔法陣が展開し、ルクルの体は一氣に櫻麒麟の胸元まで飛び上がった。そして、胸元まで来るとそこで静止。その手を胸元にかざす。


「桜ちゃ~ん、あけてくださ~い」


『了解です、マスター。』


流暢な機械音声の返事があり、櫻麒麟の胸元の装甲がカパッと開き、透明な球体があらわになった。


ルクルは迷いなく手を入れると、とぷん、と球体が水面のように波打つ。そして、そのまま何の抵抗もなくルクルは身体をその球体の中に躍らせた。


『マスターの搭乗を確認。コックピットを機体の中心部へ移動。」


ルクルを取り込んだ後、球体は速やかに中心部へ移動し装甲が元に戻る。


『マスターとの神経パルスの接続を完了。同調率100%を確認。視界開きます。ただ、試験前のため、四肢との接続は制限。機体の各部はロックされ動きません。ゲート通過前に各部の同調を確立、動作を可能にします。』


ルクルは櫻麒麟に入る際に閉じた目を開く。そこには櫻麒麟自身から、視える、そして感じる世界が広がっていた。


「いいですねぇ~、この感覚。ただもうちょっと肌が敏感だったならいうことないんですが。」


『そういわれるのはマスターくらいです。他の方がこの設定をすると頭痛が凄まじいそうですから。』


「桜ちゃん、それは他の人がなってないからですよぉ~。受け入れて観察すればすぐ慣れますから。あと、それができるようにサポートとしてAIが余計な情報を結構カットしてくれてるじゃないですかぁ。」


そう、ルクルが感じているのは櫻麒麟という最新の機動兵士に搭載されている機器の情報なのだ。

視覚一つとっても、可視光だけではない。紫外線や赤外線などの情報もその脳に受け入れているのだ。本来ないはずの情報を受け入れ、平然としているのは並大抵のことではない。


『イチャイチャするのはそこまでにしてください。ルクル主任、準備が出来ました。それではこれより、次元跳躍試験。施設型次元跳躍装置と機動兵士内蔵次元跳躍装置の同期試験を開始します。』


この試験こそが、この機動兵士が作られた目的であった。


これまで、次元跳躍は、往復をするのであれば、どちらにも次元跳躍装置が必要であった。送るだけならば片方だけでもいいが、そうした場合、出る先が安定しないことが多く信頼性に欠けていた。


だから、この装置を使い、敵の重要施設に直接爆発物を送るなどは出来なかったし、次元跳躍特有の空間の歪みが発生することから察知・防御手段もあり運用は自国内の輸送が主であった。


しかし、今回、機動兵士に内蔵することが実現した。


内蔵された次元跳躍装置が、相手の既存の防御手段も破ることを可能にし、更には作戦終了後、呼び戻すことまでを想定した運用が成されることが期待されていた。


戦場の常識を一氣に変える、革新的な技術なのだ。


天才と変態は同居する。


「桜ちゃん、準備はいいですかぁ。」


『はい、マスター。』


施設全体に警報が鳴り響く。


そして、櫻麒麟の正面に鎮座していたあまりにも大きな輪が回転を始めた。


それはだんだんと速くなり、やがて、その中心に、施設の壁ではない穴が出来始める。


『ゲート生成30%、・・・、40%、・・・。」


数値が上がっていくにつれ、管制塔のスタッフの緊張が高まっていくようだった。


だが、そんな空気の中にあっても普段と変わらない人物がいた。


「ん~、跳躍先は帝国製造部お手製の跳躍妨害装置が展開ですかぁ。理論上は桜ちゃんにのっけている跳躍装置がその妨害装置で発生させている空間の力場を中和して、うにょっとその中に入る感じですねぇ。そして帰りは、桜ちゃんがバックドアを作ってそこを目印にして穴を開けて釣りあげてもらう、と。」


『製造部もこの試験に力を入れていますから。どのような結果になるか、楽しみですね。』


「この試験はぁ、成功しますよぉ。私が桜ちゃんを作りましたからねぇ。」


『その信頼に応えられるようベストを尽くします。』


周囲の緊張とはうらはらに和やかな会話が弾んでいくが、目の前の空間の穴は櫻麒麟を飲み込めるほどに大きくなっていた。


『ゲート生成100%。ルクル主任、ゲート生成完了致しました。それではお願いします。」


「は~い、プラティー君。それじゃあ、ちょっと、向こうまでピクニックにいってきますねぇ。桜ちゃん、いきましょう。四肢のロックを解除・同調を開始。」


『了解、マスター。四肢のロックを解除・同調を開始します。』


すると、今までただ直立していた鋼鉄の巨人に命が宿った。そしてゲートに向かって歩み始める。


その体幹に一切のブレはなく、武道の達人がそのまま歩いているかのようだった。


『ルクル主任、そういえば、いつものティータイムは済ませました?その中でお茶飲もうとしても出来ませんからね。』


「大丈夫ですよぉ。来る前の一杯はちゃんと味わってきましたしぃ、これが終わったらいつも通り最高の一杯を飲むつもりですからぁ。」


はいはい、ではお願いします、というは試験前、二人のお約束の会話だった。


やがて、ゲートの前にたどり着く。


「ルクル、いっきま~す。」


氣の抜けた掛け声とともに、櫻麒麟となったルクルはゲートに飛び込んだ。

初投稿です。

よろしくお願いします。


ストックが切れるまで、毎日21時ごろ投稿するつもりです(2026.05.08)

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