冒険の終わり
「俺は■■だ」
男が笑う。
彼は奇妙な、否、異形な姿をした存在だ。
全身を紅と蒼の紋様が走り、その両足には黒い翼が生えている。
「……」
相対するのもまた異形。
上から下まで真っ白な、無垢で無機質な■■。
その背に生えた6対の純白の大翼をはためかせながら、その真っ赤な瞳で、男のことをじっと見つめていた。
不意に、空間が歪んだ。
歪みの中心にあるのは極小の、黒い点。いや、点ではなく、穴。
空間に穿たれた「穴」は、もはや物理現象というよりは世界のバグだった。
穴を中心として、景色が極彩色に歪んでいく。穴の周りに浮かぶ光冠が太陽よりも明るく輝く。
空間が、世界が、その穴の中心に向かって墜ちていく。
そして―――世界が白色に染まった。
穴が蒸発する。そこから生じる超々高温の放射線が、周囲の物質を構成する原子結合を瞬時に断ち切る。
もしその場に鉄があったのなら、瞬時に気化していただろう。
もしその場にレンガがあったのなら、プラズマの塵へと変わっていただろう。
爆心地から数キロ圏内のすべての物質が、一瞬にして「沸騰」し、空へ向かって蒸発していただろう。
しかし、その場には何もない。
あるのは彼と■■のみ。
光の奔流が彼を呑み込む。
全てを溶かす死の光が彼の全身を余すことなく照らし出す。
彼はその光を全身に受け、跡形も残らず消え去る――はずだった。
「わかってるだろ」
そこにいたのは何ら変わらぬ異形の彼。
その身に火傷も傷も一切ない。
まるで先程の光がなかったものであるかのように、その身に変化を与えていなかった。
彼は謳う。
「俺は何をいつどうやってしたっていい」
それはいつかの宣誓の焼き直し。
聞いているのは、彼と、そして、目の前の異形。
「俺を縛る鎖は全て壊す」
彼の右半身に走る蒼い紋様が輝きだす。
それは彼の■■の象徴。その輝きが示すのは破壊の願い。
「俺の上に立つ奴は皆殺し」
彼の左半身に走る紅い紋章が輝きだす。
それは彼の■■の証明。その輝きが示すのは空への祈り。
「……」
相対する■■は、その宣誓を黙って聞いていた。
■■は知っている。
彼のそういう性を。彼の誓いを。彼の願いを。彼の祈りを。余すことなく知っている。
だからこそ、■■■■■■■だから。
両者、共に規格外の異形、異能。
お互いがお互い、世界を崩壊させうる力を持つ、人外の存在。
彼らが相対するその最後に待つのは、存続か破滅か。
その決着が今、つこうとしていた。
「俺が必ず―――」
いつかの宣誓。誓った言葉、願いと祈り。
それが福音の鐘音となるか、終末のラッパとなるか。
「■■を■■」
今はまだ、わからない。
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