章題1 もし愛を知っていたとして Ⅱ
マネージャーと、仕事に出る場所も、仕事が終わって帰る場所も一緒なのだと聞いたらきっと私のファンは卒倒する。
でもしょうがない。
私に生活力が皆無で、彼が世話焼きだったのだ。
もう少し正式な理由をでっちあげるとしたら、私の母が一人暮らしをするよりしょうちゃんに見てもらいなさいと言ったからだ。
弁解をすると、彼と私は幼馴染で、決してとは言えないがやましいことは……なきにしもあらずという状態だ。つまりあるのだが。
決してあっちから触れてくることはない。
許可を取られることはあるが、同意がない状態では私とそういうことを絶対しない。
私としょうちゃんは奇妙な関係だ。
この関係を一言でぴったり言い表せる単語を、私たちは知らない。
前に、幼馴染、と言った。次にマネージャーだと言い、私は彼の特別だと言った。私のものと言った。
前は、恋人だったこともあるし、そのずっと前は婚約者だった。まあ、幼稚園の私と中学一年生だった彼は正式な婚約者とは言えないけれど。
今、私と彼は幼馴染であり、仕事相手であり、同居人であり、肉体関係がある。
『特別』と言って仕舞えばそれまでなのだが、それは考えを放棄したようで違う気がする。
「パートナー」という言葉はあるが、そんなに親密なわけでもない。
どう言い表せばいいと思う?彼に聞いてみたことがある。
「え、セフレじゃないの?」
答えたヤツを殴っておいた。
まあ、パートナーよりは的を射ている。
なんて、その相手とキスをしながら考えることじゃないか。
しょうちゃんの唇は、私のそれより薄くて、大きくて、少し乾燥していて、温度が低い。
初めてキスした時は口を食べられるんじゃないかとさえ思った。
今よりずっとヘタクソだったけど。
合わせる唇からは吐息が漏れて、熱が昂っていく。ふと離した時に引く銀糸が艶めいていて、背筋が震えた。しょうちゃんはそれを見て笑い、私のシャツに手を入れた。細くて骨ばった手が、私は好きだった。
仕事が終わって、帰ってきて。ご飯を作っていた彼の隣に立ったとき。触れてもいい?と、いつもより甘くて低い声で言われた。
しょうちゃんは都合のいい時に私を誘って、私は都合のいい時にしょうちゃんを誘う。
完全な利害の一致で、私たちは成り立っていた。
基本的に、お互いの誘いには断ることをしない。居心地がいいから。恋人じゃない。でも、ずっと一緒にいると思う。この先も、多分。
「しょうちゃん、今日、ひどくして……」
朝思い出した、彼の面影。振り払いたくて、彼をまた利用した。
「ん、わかった」
しょうちゃんの髪が肌にあたる。それから香るシトラスが、私たちの関係をまた曖昧にした。
スクロールお疲れ様でした
音々が嫌いな方、しょうちゃんが嫌いな方、いると思われます。
全部正解なので安心して嫌ってください。




