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まじん斬り  作者:
2/2

第一話

窓から差し込む光が、いつも通りの平和な一日が始まることを告げる。


時刻は既に八時を回っていた。もっとも二時間ほど前には目覚めていたが、ベッドの上で今日までの穏やかで、同じことを繰り返すだけの平和な日常を振り返っていた。この先しばらく、いやもしかするともう二度と戻ってこられないかもしれない日常を。


「いよいよ、だな…」


そろそろ起き上がろうとしたその時、下の階から声が聞こえてきた。


「そろそろ起きなさーい。朝食の時間よ」


声に従い、ゆっくりと階段を降りていく。一歩踏みしめるごとにギシギシと音をたてるこの階段にももうすっかり慣れてしまった。今となっては、この音すら名残惜しい。


一階のリビングでは、テーブルの上に既に朝食が用意されていた。


「おはようおじさん、おばさん」


椅子に座り、辞書くらいあるのではないかという分厚さの本を読んでいた男性―おじさんがこちらに目を向ける。


「ああ、おはよう……ショウ」


辞書(仮)を置くと、おじさんは大きな伸びをして眼鏡をクイッとかけ直した。


「ショウも起きてきたことだし、そろそろ食べるとするか」


「そうね。はいどーぞショウ。紅茶で良かったわよね?」


目の前に置かれたティーカップには、好物である紅茶が注がれていた。


「うん。ありがと、おばさん」


慣れた手つきで朝食の準備を終えたおばさんが、おじさんの隣、つまりぼくの正面の席に座る。


「それじゃあ、いただくとしましょうか。…こうやって三人揃ってご飯を食べることも当分無くなるわね…さて、」


「「「いただきます」」」


食事を始めて数分、おじさんがテレビリモコンに手を伸ばした。


『続いてのニュースです。昨日、魔獣による中規模の侵攻が発生しました。数時間後に軍によって鎮圧されましたが、被害者は三十人以上にのぼるとみられ…』


ニュースの映像から目を離さずに、おじさんが僕に語りかける。


「とうとう行くんだな…寂しくなるな」


「うん。たまには帰ってこられるようにするよ。できたらね」


表情には出さないおじさんと違って、おばさんは見るからに不安そうな顔をしている。


「とにかく、体には気をつけてね。絶対に死んじゃダメよ」


「大丈夫だよおばさん。たくさん訓練もしてきたしね」


実際、独学ながらそれなりに訓練は積んできた。 軍に入ってからも、それなりに動けるはずだ。


「ごちそうさま。そろそろ出発するよ。荷物を持ってくるね」


二階に戻り、用意した荷物を一階に下ろす。いよいよ出発の時だ。


「父さん…行ってくるね」


おばさんから聞いた、僕を拾ってくれて僕を守るために魔人に殺されたという亡き父に語りかける。顔は全く覚えていないが、きっと優しい人だったんだろう。


「シュウ、これを持っていきなさい」


おじさんから、なにやら随分と年季の入ったネックレスを渡された。


「お前の育ての父親が大切にしていたものだ。お守り代わりにしなさい」


ところどころ傷がついており、他人が見ればただのゴミに見えるかもしれないそれが、なんだか自分を見守ってくれるような、そんな気がした。


「わかった。それじゃあ二人とも、そろそろ行くね。今まで育ててくれてありがとう。二人のことは、本当の両親のように思ってたよ」


最後に二人と抱擁を交わすと、扉を開けて外に出る。


「さてと。とりあえず入隊志願書を出さないと。街の方に行けば見つかるよね」


小柄な体に似つかわしくない大きなバッグを背負い、腰には短剣を二本。これが今の僕の装備だ。


「軍に入ればきっと新しい武器を貰えるよね…さすがにこれじゃあ戦えないよ」


地図を見て街の方へ向かって歩きだす。平和な日常を、穏やかな毎日をここに置いて、戦いの人生が幕を開ける。



2日に1回投稿する予定が2日連続になった

これで2日休んでもよくなった

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