File30.5 獅子身中の虫 前編
獅子身中の虫…味方でありながら災いをもたらす者や、恩を仇で返す者のたとえ。(意味はコトバンクより)
俺は九鬼泰照。衝撃の真実を知った武闘派情報屋だ。
それは、大神田の死闘から一週間後の事だった。
暴露屋の事務所にて新聞を読んでいたときのこと。
玄関から、ノックの音がした。
「はい」
部屋に入ってきたのは、黒スーツにバッチ、否、代紋を付けた角刈りの男であった。
「あなた…」
「どうも。九鬼さん。私、藤松会の片平組幹部の小橋川貴嗣といいます」
片平組というと、最近先代組長の片平亨太が死に、安藤秀人という若い幹部に変わったという組ではないか。
「それで、小橋川さん。何のようで。誰か、暴露してほしい人物がいるのですか?」
「はい。ウチの親父、安藤秀人を暴露してほしいんです」
俺はその言葉に反応した。しかし、時々この暴露屋には自分の親を落としてほしい人間が訪れるため、あまり驚くことはなかった。
「何故、自分の組の組長を」
「実は、安藤の親父、否、安藤は武蔵野会と関わっていたんです」
「武蔵野会と…」
「はい。それ以前に、先代も武蔵野会と関わっていたらしく…安藤直々に言っておりました」
「そうですか。しかし、安藤は本当に藤松会を裏切っているのか。こちらで調べさせてもらいます」
「分かりました」
そう言って、小橋川さんは事務所を出た。
「………仕方ない。本当はやりたく無いが、あれをやるか」
俺はシマの見回りをしている比嘉に電話をかけた。
「九鬼さん。どうしましたか?」
「少しばかり暴露屋を空ける。すまない」
「分かりましたけど…」
俺は電話を切り、とある所へ向かった。
それは、武蔵野会のシマ、義憐町の東部、宮梨通りだ。
宮梨通りは武蔵野会の二次団体、小田島組の担当である。
俺はそこで、小田島組組員を見つけることにした。
無論、俺の顔は武蔵野会でも知らないものはいないため、ホームレスの振りをすることにした。
数時間後、辺りは暗くなり、繁華街の顔を見せ始めた。
高架下で見張りをしていると、二人のチンピラがこちらに近づいた。
「このホームレス、見ない顔だな。なんかムカつくから殴ろうかな」
「そうだな、北見。なんかイライラするし、殴ろうか」
どうやら、この二人は倫理観のないチンピラのようだ。しかし、胸元には武蔵野会の代紋を付けている。
俺は立ち上がった。
「何だよ?」
俺は後ろにいた方のチンピラを殴った。
「ぐべっ!」
「なっ、大下!テメェ、俺たちを誰だと思っていやがる!」
「知ってるよ。倫理観のない外道チンピラだろ?」
「きっ、貴様ぁ!ホームレスの分際で!」
そのチンピラは、ドスを取り出した。
「ほう。カタギに光り物か」
「うるせぇ!死ねやぁ!」
チンピラはドスを俺に突き刺した。しかし、それは当たらなかった。
「なっ…」
俺はソイツの腕を既に掴んでいて、ドスを動かすことが出来なかったからだ。
「ホレ」
「ぎゃびっ!」
俺は容赦のないグーパンで奴の顔を殴った。
「く…クソっ…」
俺はソイツに馬乗りになる。
「お前、武蔵野会のモンか?」
「そ、そうだけどよ…」
「名前は?」
「き、北見…」
「アンタの所に、片平組という団体が関わっているな?」
「は、はい…」
「そうか。ありがとよ」
「ぐふっ…」
俺は北見とその仲間を気絶させ、そこに放置した。
俺は事務所に戻ると、比嘉が待っていた。
「九鬼さん、どこに行ってたんですか?」
「少しばかり、別の街に。それより、重大な情報を手に入れた」
「重大な情報?」
「あぁ。それは、片平組が、武蔵野会と関わっている事だ」
「片平組、確か、安藤という幹部に変わったあの組ですか?」
「あぁ。武蔵野会の組員から聞いた情報だがな」
「そうですか…じゃあ、どうすればいいと…」
「とりあえず、俺の方でも調べていく。ある程度情報をまとめたら、会長に伝えといてくれ」
「分かりました」
そう言って、比嘉が事務所を出た。
「よし。じゃあ、やりますか」
俺は片平組の事を調べ上げた。
片平組。現在の組長は安藤秀人。若き幹部で、それなりにも実力がありため、先代の片平亨太から次期組長として注目されていたとか。
片平は藤松会を嫌がっており、武蔵野会に鞍替えをしたのだ。
さらに、片平を殺したのはなんと安藤。武蔵野会は片平より実力のある安藤と協力したいと考えていた。
俺は小橋川さんに電話をかけた。
「小橋川さん。どうやら安藤は本当に裏切っていたことが分かりました」
「調べていただきありがとうございます。では、データをこちらに…ぐわぁ!」
「小橋川さん!」
「平井!中本!お前たちも裏切った…ぐはぁ!」
そして、電話が切れた。
もしかしたら、組を裏切ろうとした小橋川さんを殺害したのだろうか。俺はすぐに桂田さんに電話をかけた。
「どうした?九鬼よ」
「桂田さん。落ち着いて聞いてください。片平組は……藤松会を裏切っています…」
「何っ!?」
俺は全てのことを桂田さんに語った。
「くっ…片平の時から裏切っていて…安藤は自分の親を殺したとでも言うのか…」
「はい…」
「安藤は許しておけん。片平組の事務所は確か功楼町にあるはずだ。うちの組から2名出しておく」
「わかりました」
そう言って、桂田さんは電話を切った。
「さて…どうなることか…」
俺は心配をしながらも、自分の家に帰ろうとしたときであった。すると、小橋川さんから電話がかかってきたのだ。
「小橋川さん、大丈夫でしたか!?」
俺は開口一番、そう叫んだ。しかし、返ってきたのは、知らぬ者の声だった。
「テメェ、九鬼かぁ?」
「誰だ?」
「俺は片平組の平井だ。今すぐに功楼町の関坂通りに来い」
そして、電話が切れた。
「何をする気だ…」
俺は今すぐに関坂通りに向かった。




