File30 大神田隆平
俺は九鬼泰照。とある男の生存に驚いた男だ。
それは遡ること数分前。とある依頼者から依頼を受けていたときであった。
今回の依頼者は、変わり種だった。千葉の小さなヤクザ組織、土橋組の元構成員、池辺敬だった。
「皆を殺し、組を無き者にさせた奴を落としてください!」
池辺の悔しさが、こちらに伝わった。
土橋組は、千葉の地元ヤクザであり、カタギに優しかった。
それが故に、土橋組は地元の人間から愛されていた。
しかし、そんな土橋組に悲劇が訪れる。それは、7年前の事であった。
土橋組が、新年会を行きつけの中華屋で行っていたときであった。
その時、池辺はトイレの個室にいた。
個室から出た際、向こうから銃声がした。それと同時に、声もした。
「ぎゃー!」
「うがぁぁ!」
「やめろぉ!」
それは紛れもない、仲間や自分の親父の声だった。
「皆!親父ぃ!」
池辺は急いで皆のいた部屋に向かった。
しかし、それは後の祭りであった。
そこには、皆の死体があっただけであった。
「う…うぅ…」
しかし、ただ一人生きていた者がいた。それは、土橋組の組長、土橋修作であった。
「親父!親父!」
池辺は土橋の方に駆け寄る。しかし、土橋は虫の息であった。
「い、池辺…」
「だ、誰がこんな事を…」
「すまねぇな…池辺…皆、死んじまった…かはっ…」
土橋は、血を吐いて死んだ。
「クソぉ…クソぉぉぉぉ!」
その後、池辺は警察からは死体の第一発見者とみなされ、『土橋組殺人事件』の捜査は始まった。
警察は最初、土橋組と敵対していた半グレ組織、蟷螂の構成員が殺人を行ったと踏んていたが、その時の蟷螂は存在しておらず、チーム絵札の傘下として活動していた。
しかし、警察は何故か捜査を止めてしまった。
無論、それに納得のいかなかった池辺は警察に文句を言った。しかし、警察は皆、『お上の命令だから』の一言で、池辺と取り合ってくれなかった。
警察に失望した池辺は、今に至るまで個人で調べ続けた。
そして、先週、やっと犯人を見つけたのだ。
それは、元蟷螂の構成員、大神田隆平であった。
「どうか…奴を落としてください。それをしてくれれば、天国の皆が浮かばれます」
「わかりました。では、奴を落としましょう」
しかし、この時まで俺は大神田は死んだものだと思っていた。
俺はまず、大神田の情報を集めた。
大神田隆平。29歳。元蟷螂の構成員だったが、チーム絵札の傘下となってからは、『グレイトキング最後の砦』とまで言われるようになった。さらに、7年前、22歳の頃に土橋組を襲撃。前まではグレイトキングの幹部だったが、その後、親桐田派のリーダーになり、またその後、反桐田派が全滅したことにより、ラストジョーカーの幹部になった。
警察が捜査をやめたのも、桐田が裏でなにかしらやったのだろう。
俺はこの手で、大神田の人生にピリオドを付けることにした。
まず、記者の金城に手伝ってもらい、土橋組の崩壊には大神田がやったと書いてもらった。
しかし、こんな記事では警察は動かなかったが、その記事は裏社会を驚かせた。
俺は大神田のいる富栄町東部に比嘉、伊波と共にカチこんだ。
「うらぁ!大神田だせぇ!」
「うわぁ!カチコミだ!」
「構成員全員集めろぉ!」
俺たちの前に立ち塞がったのは、元グレイトキングの奴ら。大体20人くらいだろうか。
「死ねやぁ!九鬼ぃ!」
一人の構成員が俺の前に襲いかかる。しかし、こんな攻撃は慣れたものだ。
「フン!」
「うげっ!」
俺はヤクザキックで奴を吹き飛ばした。
「ちっ!俺がやってやる!」
俺の前に出たのは、ラガーマンのような巨体の男。
「俺は大神田さん直属の部下、沼倉朔也!グヘヘ、お前はすぐに死ぬぅ!」
沼倉がそう叫び、こちらにタックルを仕掛けた。しかし。コイツは俺に仲間がいることを忘れているようだ。
「邪魔はさせねぇ!」
比嘉がバットで隙ありありの足を引っ掛けた。
「ぐふぇっ!」
沼倉は盛大に転んでしまった。
「せいやっ!」
比嘉が沼倉の後頭部を力強く叩いた。
「九鬼さん!雑魚どもは俺たちがやるので!」
「すまん!あとは任せた!」
俺は構成員を後にし、大神田のいる部屋まで行った。
「大神田ぁ!」
扉を蹴破ると、そこには大神田がいた。
「九鬼ぃ…」
「あのときは決着を付けていなかったな。今ここで、お前を…殺す!」
俺は着ていたシャツを脱ぎ捨てた。
「ほほう。あのときみたいに、本気ってやつか?」
「あれから俺は色んな猛者と戦った。あのときの俺とは違うぜ」
俺はすぐに奴の懐に入り込んだ。
「なっ…」
「しゃぁっ!」
俺はアッパーを上げた。しかし、奴は当たる直前に顔を避けた。
「危ねぇな。まぁいい。お前は今から、切り刻まれた死体になるからなぁ!」
大神田はそう言うと、懐からナイフを取り出した。
「喰らえやぁ!」
なんと、大神田は逆袈裟でナイフを振った。
「くっ…」
俺は胸元を軽く切られてしまった。じわじわと流れる紅い血。俺はそんなものを気にせずに攻撃を続けた。
「フン!」
全力の頭突き。しかし、大神田は余裕そうに避けた。
「ほらぁ!」
「くかぁ!」
今度は顔を横に一閃。鼻を切られてしまった。
「チッ、俺のフェイスがかっこ悪くなったらどうしてくれるんだ?」
「そんなもん、気にしなくていいだろ。何せ、お前は直ぐに死ぬからなぁ…トドメだぁ!」
大神田がナイフを心臓に突いた。しかし、その攻撃は当たることはなかった。
「せいやっ!」
俺は高速で後ろに避けた。
「ケッ」
「余裕ぶってるのは今のうちだ!」
俺は全力のパンチを、大神田の腹にぶっ放した。
「ぐへはぁっ!」
大神田は腹を抑え動かない。ならば、追撃と行こうか。
「うっしゃぁぁぁ!」
俺は全力のラッシュを大神田にお見舞いした。
「ぐへぇぇぇやぁぁぁ!」
最後の一発。それを顔に当て、奴は大の字に倒れた。
「くそぉ…お前の何が…お前を強くさせるんだ…」
「そりゃあ、アンタに殺された、土橋組の奴らの怨念よ」
「土橋組ねぇ…何個も潰してきたからわかんねぇや…俺は…山王さんを裏切った時から…いや、半グレになろうと考えた時から…地獄行は決定したんだろうな」
そう言って、大神田はポケットに忍ばせていたであろう瓶を取り出し、それの中身を飲んだ。
「お前、また死んだふりを…」
「ぐふぅ…」
大神田が口から血を吐き出すと、奴は立ち上がることなく、そのまま死んだ。
「大神田…お前は卑怯で、強い奴だったよ」
その時、比嘉と伊波が入ってきた。
「九鬼さぁん!大丈夫ですか!」
「大丈夫だ…」
俺はそれしか言わず、大神田の死体を見た。




