File23.5 兄貴分
某月某日。藤松会直系高瀬組の幹部、佐伯直俊は、舎弟二人とともにシマの見回り兼、守り代の徴収に出かけていた。
佐伯は、会内でも武闘派として知られ、異名は『戦神の佐伯』。
更に佐伯は舎弟から愛されており、同じ高瀬組である比嘉や伊波、かつて死んでしまった戸崎からも兄貴分として慕われていた。
見回りをしているとき、佐伯達は苑頭町南部にある、とあるビルに入った。
そこは、二階に『キタオファイナンス』という金融機関があった。
佐伯達はそこに入り、そこの店長である北尾に挨拶をした。
「あ、佐伯さん。こんにちは」
「よぉ、北尾さん。商売の方は?」
「えぇ。なんとか、貴方達に守り代を払えるくらいには」
そして、北尾は佐伯に何枚かのお札が入った封筒を渡そうとした。すると、玄関の方から扉を強く叩く音が聞こえた。
「なんだ?」
「私が行ってきます」
北尾がそう言って玄関の方に向かった。その時、銃声が聞こえた。
「なんだ!?」
片方の舎弟が懐からドスを取り出す。
そして、玄関から部屋に繋がる扉が蹴り破られた。
「きしゃあ!てめぇら皆殺しだぁ!」
そこには、オールバックヘアーの男がいた。
「てめぇは、狡猾の梅戸」
「そうだ。今から死ぬんだよ!」
「お前たち、逃げ…」
梅戸は佐伯の後ろにいた舎弟をいつの間にか撃ち殺していた。
「き、貴様ァ…」
「確か、戦神の佐伯だっけなぁ…俺はチーム絵札の人間に生まれ変わったんだよ」
「そういえば、風のうわさでバイドクの梅戸がチーム絵札に行ったとは、聞いていたが、こんなことになるとはな」
佐伯の口は笑みがこぼれていた。
「何がおかしい」
「戦神の佐伯を舐めるな。俺は腐っても、藤松会の男なんだよ!」
そう叫んだ佐伯は一目散に階段の方に向かった。
「何逃げるんだぁ?」
梅戸は佐伯を追う。しかし、佐伯が向かったのは一階ではなく、屋上であった。
「よし、ここまで行けば…」
屋上の扉を開けると、そこにはチーム絵札の構成員二人が待ち構えていた。
「くっ…」
「ぐへへ、佐伯のタマは俺がとってやる!」
一人が、銃を発砲する。しかし、それは佐伯には当たらなかった。
「なに…いな」
いつの間にか、佐伯は後ろにいた。そして、ソイツの首の骨を折った。
「いぎっ…」
「うわぁ!八木ィ!」
もう一人は既に怯えていた。
「容赦なんかねぇよ」
佐伯はもう一人の頭を掴み床に叩きつけた。
「う……」
二人を殺す頃には、梅戸は屋上に着いていた。
「なっ…」
「さぁ、次はお前だ」
佐伯は懐からドスを取り出し、梅戸に突撃した。
「ウラァァァァァ!」
しかし、梅戸はここまで読んでいた。
「バァカ!突撃するのは猪だけだって相場で決まってんだよ」
梅戸は持っていた拳銃で佐伯の肩に撃った。
「うばぁ…」
「死ね!死ね!死ね!」
梅戸は乱発し、佐伯の体には何個もの銃槍が出来た。しかし、佐伯が倒れることはなかった。
「すぅ………」
「な…なんで死なねぇんだ、このゾンビ野郎!」
「さっきも言ったろ。俺はな、戦神の佐伯だ。そして、藤松会の男だァァァ!」
佐伯はそのまま梅戸に突撃し、掴んだ。そして、柵の方まで吹き飛ばした。
「だぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
柵が後頭部に当たり、梅戸の意識は途切れ途切れであった。
「くそっ……ここで……死んで……たまる……か…」
梅戸は隠し持っていたナイフを取り出そうとした。しかし、目の前には佐伯がいた。
「地獄で待ってろ。直ぐに………そこに……行くからよ………」
佐伯は梅戸の頭を掴み、15メートルもあるビルの屋上から、梅戸を落とした。
「ギャァァァァァァァァ………………」
梅戸の断末魔が途切れ、何が潰れる音がした。
佐伯はその場で大文字で倒れ、比嘉に電話をかけた。
「比嘉…」
「どうしたんですか、兄貴?」
「何人か連れて、ビラウドビルまで来てくれ…ハァ…ハァ…そこの、キタオファイナンスと、屋上を調べてくれ……」
「えっ、何故です?」
「理由はいい。今すぐ……来て……くれ……」
「ちょっ」
佐伯は電話を切った。
(あぁ…会長や舎弟共と会って、いい人生だった……戸崎…俺もそっちに行くから…)
佐伯の顔からは、生気を感じなかった。




