File11.5 誓いの破り
藤松会と武蔵野会は戦後まもなく作られた組織であった。
藤松会初代会長、藤松耕一郎と武蔵野会初代会長、武蔵野紀男は予めこの2つの組織が戦争を行わないように手を結んでいたのだ。これを裏社会では藤武の誓いと言われている。
藤松会二代目会長、滝哲次と武蔵野会二代目会長、堤雄太もこの誓いを破ることなく、藤松会三代目会長、桂田義成と武蔵野会三代目会長、本堂迅も、初代、二代目に続き、この誓いを守っていた。しかし、ある時、この誓いは破られる事になる。
この日は、会長の桂田と若頭の福地、若頭補佐兼護衛の島崎と松木田が、新しく出来たショッピングモールの視察に行った帰りであった。
「オヤジ、オーナーが良い人で良かったですね」
「あぁ、あの調子なら組は急成長だ」
そう語っていた桂田、福地の前にヘルメットを被った不審者が止まった。
「誰だい?アンタ」
島崎が威圧をかけて不審者に近づく。すると、男はポケットからリボルバーを取り出し、島崎の心臓目掛けて撃った。
「グフェッ」
心臓を撃たれた島崎はその場に倒れ、その次に桂田を撃とうとする。
「この野郎!」
弾丸が放出された瞬間、桂田の前に松木田が遮った。弾はたまたま松木田の肩を掠め、桂田に当たることは無かった。
不審者は予想外の事に驚き、リボルバーを捨てると、その場から逃げた。
「松木田!お前はオヤジを連れて逃げろ!」
「しかし、福地のカシラは」
「俺はアイツを追いかける!早く!」
「わかりました、オヤジ、車はあっちです」
福地は早速、例の不審者を追いかけた。
そして、不審者を袋小路に追い込み、逃げ場をなくした。
「この野郎…オヤジを殺そうとしやがって…その面見せろ!」
福地が不審者のヘルメットを外すと、そこには情けない男の顔があった。
「これは…一体?」
「福地さん」
名前を呼ばれて後ろを振り向くと、そこには四人ほどの組員を連れた本堂がいた。
「本堂さん?」
「この男はウチの傘下の闇金で首が回らなくなった男なんです。どうせその後マグロ漁に行くことになるんで、せめて何かに使おうかと」
「はぁ!?嘘だろ!?殺したら借金はチャラって言ったじゃないか!」
「お前が殺したのは若頭補佐だろう。俺が言ったのは『組長と若頭を殺せ』と言ったんだ。殺せてないじゃないか」
「そんな…嘘だ」
福地が二人の間に割って出る。
「ちょっと待った。本堂さん…まさか…ウチの組を…」
「そうです。俺は藤武の誓いを破って、半グレ組織と協力したんです」
「オイオイ!誓いを破るなんて、タブーだぞ!しかも半グレ組織と協力だなんて…」
「結局ね、頂点を取るのは金と力、そして権力なんですよ。ヤクザやってそれを得ても、意味がなかった。だから、暴対法に縛られない半グレと組んだんだ」
「そんな……」
衝撃的なことにより、福地は真っ白になった。
「ウチに歯向かっても無駄です。俺たちには、最強のチーム絵札と組んでいるのですから」
本堂らが襲撃者を連れて行き、その場を去った。
「くっ……」
福地は、桂田に電話を掛けた。
「オヤジ…武蔵野会が半グレと手を組んで、誓いを破りました」
一人残された福地はそう伝えるしか他なかった。
藤絵戦争に、介入者__