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記憶を失った修道女と地下室の少年  作者: Sy
槍の王 第1部
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第21章 封印の儀式

儀式の日、正午を回った頃、ラミエラとバルキエルは地下室の少年と対面していた。


「以上が今回の儀式の概要だ。理解したか?」


ラミエラは毅然きぜんと少年に尋ねた。だが少年はあまり興味がなさそうにその質問を無視し聞き返した。


「今日はソフィアはいないのかい?」


「さあな、貴様の知るところではない。」


少年はすでに構築された魔力円陣の中央の椅子に座っていた。その表情から何を思っているかを予想するのは難しい様に思われた。


円陣の外にはラミエラとバルキエルの他にガブリエルとミツキが待機していた。薄暗い地下室は円陣から薄く立ち昇る緑色の光と照明となる炎でいつもより明るかった。


「できるだけ抵抗はしないでもらいたい。封印が失敗した場合、貴様の命を奪うことに躊躇ちゅうちょはしない。そういう命令だ。」


確かにラミエラは封印の詠唱は自分だけの役目であり、もしもの時は攻撃型だけに特化されたバルキエルが少年を消す事をソフィアに伏せていた。ガブリエルやミツキは、その決断に異論のない様子だった。


だが少年は一同を見回し、不敵に微笑んだ。なぜかラミエラはその少年の表情に見覚えがある気がしたが、気のせいであろう。


「『神の慈悲』と『神の雷光』か。期待している。」


ラミエラはバルキエルを横目にうなずいた。


「任せろっ。仮にお前が失敗しても俺がなんとかしてやるぜ。」


ラミエラはいつもとは違い、少しだけ自信なさげに小声でバルキエルに答える。


「ああ、頼む。」


予期せぬラミエラの答えにバルキエルが驚いた顔を見せる。


「お二人とも、ソフィアをもう少し待ってみてはいかがですか?」


後ろからガブリエルが尋ねた。


「そうしたいところだが、日が落ちれば奴の力は増してしまうだろう。もう一刻の猶予もない。」


「やりましょう。皆さんの防御と回復は任せてください。バルキエル様、もうすでに身体能力の強化、完了してます。」


とミツキが続ける。


「おっ、やるじゃねえか嬢ちゃん。通りでいつもよりも力がみなぎってると思ったぜえ。」


ラミエラはバルキエルの余裕に今回ばかりは羨ましく思うのだった。


「よし、始めよう。」


そう言ってラミエラは封印の書を開いた。


「あれはかなり高位な封印の書ですね。内蔵されている魔力が前のものとは比べ物になりません。」


ミツキがガブリエルに囁く。


「うまくいくといいですね。私も援護の準備を。ミツキ、念の為、今から防御魔法を。」


「もうすでにしてあります。」


ミツキがそう答えると、ラミエラはいよいよ封印の儀式詠唱を始めた。


『解放せよ、かのもといは旧約の外典、かのいしづえはあばら骨からいでた知恵の象徴。光を分けし創世の王よ、我が名は『神の慈悲』、放浪者の番人。憤り顔を伏せる者よ、ついほう…し…ぐっ、うう…」


ラミエラが初期詠唱を終えると全身に激痛が走った。気づくと腕と足に細かい切り傷があり、鮮血が流れ出ている。


(くそっ、やはり簡単にはいかないか…)


すかさずミツキが回復魔法を唱える。ラミエラは少し体が軽くなるのを感じ、そのまま中間詠唱に入る。前に座る少年は涼しげな顔で辺りを見つめていた。


『追放者にかしずく者よ。かの者の言葉は然り、然り、いないな、それ以上に出るものを反転せよ。ちっ・・・」


再びラミエラに激痛が走る。どうやら右腕の骨がやられた様だ。危うく封印の書を地面に落としそうになるが、横からミツキが直接ラミエラの体を支えて再び回復魔法を唱える。


(ラミエラ様、続けてください。援護は任せてください!)


ミツキが囁く。


が、突然少年が立ち上がり左手をかざして言った。


『我が返答は否、反転を肯定。』


その途端全員に重力の様なプレッシャーが走る。後方ではガブリエルが地面にうずくまっていた。部屋の中央に立つ少年から発せられるプレッシャーがラミエルの両足から急速に力を奪い始めていた。片足を地面に落とそうとするとミツキが堪え切れずに叫んだ。


「いけないっ!続けて最終詠唱を!このままでは悪魔を解放させただけです!」


「わかっている!」


するとバルキエルは大型の剣を振るいラミエラの前に背中を向け、少年の前に立ちはだかった。その様子では少年の重力操作を物ともしていない様だ。


「いつでもいいぜ、ラミエラ!合図をくれれば俺が奴をやる!」


「黙れ!まだだ!」


そしてラミエラは最終詠唱へ入ろうとしたが少年にまたしてもさえぎられた。全身にかかるプレッシャーが増し、声を発することができなくなる。


「まだ続けるか、愚かな。与えられた大天使の名はただの飾りか。」


少年の声は脳裏に直接響いてくる。


「ふんっ、そんじゃいくぜっ!」


バルキエルが大きく上空に飛び上がり、そのまま両手に持った大型の剣を少年に振り下ろした。


『我が眷属けんぞく咆哮ほうこうつるぎよ。我が名は『神の雷光』、うなれソロモン王の鍵!』


バルキエルの攻撃詠唱と同時に、少年へ向けて雷を帯びた斬撃が襲いかかる。


「ふっ、貴様は自分の力を理解していないようだ。」


少年はバルキエルの剣を人差し指で止め、続けてバルキエルの胸に手を置いて何かを囁いた。そのままバルキエルは投げ飛ばされ、壁に背中から激突し、地面に崩れ落ちる。大型の剣は跳ね返され、空を舞いながら少年の後方の地面に突き刺さった。


すると先程まで倒れていたガブリエルがラミエラとミツキの前に躍り出る。


「ラミエラさん!僕が時間を稼ぎます!詠唱の完成を早くっ!」


ガブリエルはそのまま右手を胸の中央で十字に描き、少年へ向かって叫んだ。


『黙示録の3。偽りの者よ、七つの霊、七つの星の前に平伏せよ。我が名は『神の言葉』。耳のある者よ、火で精錬された金を求め、その衣をひるがえせ!』


途端にガブリエルの結んだ十字から解き放たれた閃光が最初に敷かれていた魔力円陣に上書きされ少年を拘束する。


しかし少年は未だ涼しい表情を隠さないのだった。


「なるほど、一介の神父にしておくのは惜しい。」


そう言って少年は軽く指をはじいた。すると少年を拘束していた閃光は瞬く間に消失した。続けて少年のかざした左腕から発せられた旋風がガブリエルを襲う。


ガブリエルは後ろの壁に打ち付けられ、細かく破れた法衣から血が滲み出ていた。


「ぐ、、くそっ…」


(ここまで力の差があると言うのか…)


ラミエラはようやくく声を取り戻した。


「ダメだ!このままでは最終詠唱をしたとしても封印は不可能だ…」


封印の書の詠唱は全て完成していたが最後の欠片ピースがどうしても必要だと言うことにラミエラは気づいていた。このまま封印の儀式の最終段階を発動することはできるが、これまでの状況を見ると失敗する可能性が高い。そして、その失敗が何を意味しているのかラミエラは考えたくもなかった。


「ソフィアがあの少年の名前を入手できるかも分かりません。このままでは全滅してしまいます!」


ミツキが回復魔法でラミエラを支えながら叫んだ。ミツキの言う通り、ラミエラが待っているのは最後のピース、少年の名前だった。この少年の名前を詠唱に組み込めば儀式の成功の可能性が飛躍的に上がることは間違いない。事実、名前を入手した場合の儀式の失敗例はほぼないのだ。加えてここから活路を見出すにはそれしか方法はなかった。


「わかっている!もう少しだけ…、もう少しだけ耐える!奴の名さえあれば、この力をそぎ落とすことが出来るはずだ!」


だがまたしても全員にさらなるプレッシャーが覆いかぶさった。外ではすでに日が落ち、少年の魔力はさらに増大していた。


(このままでは自滅か…仕方がない。駄目元で詠唱を完成させるしかない!)


ラミエラは余力を全て最終詠唱に集中し、封印の儀式の最終段階に入る。


『不実な者の願いはその暴虐。むさぼり隠す者に復讐を。万象の神よ、裁きあざける者に、愚かな者に戒めの鞭を。死地にひかれゆく者、滅びによろめく者を救え。今こそ偽りの蛇の頭蓋ずがいを穿ち、我がきびすを砕け。かの者の名は…』


「そのまま!」


ミツキとガブリエルが気絶して倒れているバルキエルの傍で叫んだ。


「く、くそ…。かの者の名を省略っ…聖現せよ、ふ…う…いんのっ・・・」


すると突然地下室の扉が開き、灯となっていた松明たいまつが揺らいだ。そこには息を切らしたソフィアが立っていた。


「ラミエラ様!」


そしてソフィアはラミエラ達が待ちわびた答えを叫んだ。


「その子の名前は…!」


ラミエラが最終詠唱を叫び終えるその刹那、ソフィアは少年が微笑んだ様に見えた。

戦闘シーンをがっつり書いたことがなく、時間がかかりました。詠唱は厨二病全開でノリノリです。楽しかったあ。笑。

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