前編 賢者と亡霊の朝
はい、作者の如月です。
今回は何時ぞやのパレンタイン企画で話していた、幽々子と紫の出会いの話ですね。
バレンタインが終わった後の話になっています。
本編に関わる設定にはそんなに大きく影響することは無いと思うので、
「あぁ?幽々子と紫?お前らの出会いなんてどうでもいいんだよ、ぺっ」
という方は無理して読むこともないとは思います。
作者としては、折角書いたので読んで欲しいとは思いますがね。思いますがね!
粉雪は、さながら零れ落ちる魂。舞い落ちる度、命が散っていくような感覚に囚われた。
──嗚呼、何故私は此処に在るのか。そして、いつまで在るのか。
少女は濁った瞳で舞い散る粉雪を眺め、答えの出ない問いを幾百、幾千と繰り返した。
別に、答えを求めていたわけではない。少女自身、答えなど出ないことは承知していた。ならば何故そうしていたかと問われれば、『そうでもしていなければ気が狂いそうだった』といったものだろうか。
雪の白と染め上げられた黒の中に一人佇む少女の姿は、酷く孤独を感じさせた。まるでただ一人、世界に取り残されでもしているかのように──
──────────
物語には、ベタな展開、“王道”と呼ばれるものがある。あまりにありふれすぎた展開、どこにでもあるようなつまらない展開のことを示す言葉だ。
幽々子が体験したのは正しくそれ、王道である。所謂“夢オチ”というヤツである。起き抜けに見知った顔がすぐ目の前にある、という一風変わったオプション付きだったが。
「……あら、随分と遅いお目覚めね。もう昼になるわよ、幽々子」
「……とりあえず幾つか言いたいことはあるけれど、一つだけ聞かせてもらうわね。どうして貴方が私の部屋に居るのかしら?」
幽々子の疑問は最もである。ここは白玉楼、それも幽々子の私室だ。此処の敷地ならまだしも、私室なんて庭師の許可があっても誰かを入れることはない。
部屋の主である幽々子が許可しない限りは人なんて入ることはない。その上で、幽々子にはそのことを許可した記憶など無い。
つまるところは不法侵入である。
幽々子の質問に不法侵入の現行犯──もとい幻想郷の大賢者はクスリと妖艶な笑みを浮かべる。
「そこはほら、“強硬手段”よ。久しぶりに見た幽々子の寝顔、可愛かったわよ?あの庭師に見せてあげようかしら」
「貴女も大概、やりたい放題よね……。そろそろやめたらどうなの?紫ってば、何処かの烏天狗よりプライベートに踏み入ってきてるんだから」
流石は神出鬼没のスキマ妖怪、かの『文々。新聞』の新聞記者顔負けとは。あの幽々子が起き抜けにここまで明瞭な口調で「やめろ」と言うのも納得である。
「……ふぅ。まぁ、それは良いとして。どうかしたの?紫がわざわざ白玉楼に出向いてくるなんて珍しいわね」
幽々子は紫に新たな質問を投げ掛ける。先程の質問より、本来聞くべきことは此方だっただろう。
八雲紫は大規模な異変以外ではあまり外に出てこない。異変が起こった場合でも対応は式神にやらせる。彼女が外に出ることなど、某大作RPGの鋼なスライムと出くわすことくらい珍しい。
その幻想郷のメ○ルスライムが直接出向いてきたのだから、異変でも起こったのかと身構えるのが自然だ。少なくとも最近の紫は博麗神社によく出向いているので、別段珍しいわけでもないだろうが……そんなことを幽々子が知るはずもない。
「そう身構えなくて良いわよ。別に異変が起きたわけでもない。そうね……昔を思い出したから、なんて理由では不足かしら?」
紫は笑みを湛えたまま、取ってつけたような理由を話した。不足というわけではないが、幻想郷の大賢者がその程度の動機で本当に動くものかと、幽々子は首を傾げた。
それも当然だろう。「会いたくなったから来ちゃった、テヘ☆」などと言われているようなものだ。
その程度で動くくらいフットワークが軽いのなら、どうして別の案件で動こうとしないのか。甚だ疑問である。
「……それこそ随分と珍しい話、というよりも初めてでしょう?本当は何が理由で此処まで来たの?それが分からないと、話も何も出来ないと思うのだけど?」
幽々子の言葉は一つ一つ正論である。そんな理由で彼女が白玉楼を訪れたことなどこの長い年月の中で一度として無く、何か別の意図があるとしか思えない。それに、何時までも理由をひた隠しにされては話など出来ようはずもない。
紫はそう問われたことに目を丸くした後、縁側の先、雪の降る庭を眺め、小さく呟いた。
「優都にね、私達の出会いの話をしたのよ。もちろん幽々子、勝手だけど貴女のことも。その所為か、柄にもなく懐かしく感じてしまってね。二人であの頃の話でもしようと思って」
今度は幽々子が目を丸くした。彼女が自分達の過去の話をすることなんてまず無い。それを、出会ってたった数ヶ月の少年に話すとは。
その上で更に驚きなのが、彼女が過去を振り返って“懐かしい”などと口にしていることである。何が彼女にここまでの変化を与えたのか……十中八九あの少年だが。
とは言え、幽々子としても紫の変化は悪いことでは無い。最近の妖夢は優都のことばかりだし、正直に言って退屈していた。紫がこんな風に会いに来るというのなら、別に悪いことではないだろう。
「あの幻想郷の大賢者が、たった一人の人間によくもまぁ、そこまで変えられてしまうものね。彼のこと、そんなに好きなの?」
関心と興味だった。正義感が強い割にサボり癖が直らなかった紫が、此処まで変わるのだから興味だって湧くだろう。
その声音や口調から、紫がかの少年に何らかの特別な感情を抱いていることは分かっている。幽々子も伊達に数千の時を過ごしてはいない。
その感情は“愛”か純粋な“信頼”か。幽々子の問いでわかりやすく頬を染めたところを見ると、前者で確定のようだ。
「……まぁ?それなりに信頼のおける人であることは確かね。私より強い男、それも人間なんて初めてだし、窮地には必ず現れて助けてくれるし……デリカシーの無さは見られるけど、天然で可愛いと思うし、助けを求めれば誰だって颯爽と助けそうだけど、それは彼が優しい証拠だし、時々私でも足が竦みそうなくらいの殺気を見せることもあるけれど、だからこそ優しさがより強く感じられるし、種族関係なく誰でも同じように扱うし、でも、逆に言えば彼の“特別”にはなれないってことよね。そう思うと残念だけれど、その辺は努力次第だと思うし。紅魔の吸血鬼とも仲が良いみたいだから年齢なんかは気にしていないんだろうし、後は性格とか容姿とか、その辺りの好みの問題よね。彼の周りには積極的に動く子達が多いけど、彼はそれに靡いていない。ということは、あまり攻めに徹しすぎても逆効果?でも、少しくらい積極的に行かないと気持ちすら伝わらないし……だいたい、彼は鈍感すぎるのよ。この間だって私が──」
「もういい分かった!うん、充分理解したからもう良いわよ。そろそろその話は終わりにしましょう、ね?別の機会にでも聞いてあげるから」
少々止めるのが遅すぎたようだ。幽々子が制止の声を掛けなければ小一時間はあのまま話し続けていたであろう勢いであった。ここまで落ちた紫を見て顔を引き攣らせると同時に、ここまで落とした優都に戦慄を覚えた。
紫は「ん、そう?」と呟いて腰を下ろした。どうやら興奮しすぎて半ば無意識に立ち上がってしまっていたらしい。少し残念そうなのは何故だろうか。
「で?ここに来た本来の目的についての話はしないの?私、妖夢にご飯を作ってもらおうと思ってるんだけど」
「……幽々子、相変わらずよく食べるのね。あの半人半霊の子は兎も角、貴女は食べなくても生きていけるでしょうに」
「べ、別に良いじゃない!1日三食にプラス間食10回入れても良いじゃない!一食分が成人男性の一日分の食事量でも良いじゃない!食費が嵩みすぎて妖夢が涙目になっていても良いじゃない!幽霊なんだから増えないはずの体重が何故か増えていて私が涙目になっても良いじゃない!美味しいんだから良いじゃない!人間の頃の感覚が未だに抜けなくて食べなくても生きていけるのに有り得ない量の食事を摂っていたって別に良いじゃない!ここは私の屋敷で私が主なんだから、食事くらい摂ったって良いじゃない!」
「わ、分かった。分かったわよ。食べても良いから少し落ち着きなさいな。と言うか、食費の件は良くないでしょうに」
全くである。
今この時間、妖夢が自分の寝室で今月の出費を記録しながら、『食費』の欄を見て半泣きになっているのはまた別の話である。幾らかは言わないが、たった一週間で成人男性が三ヶ月楽して暮らせるくらい、と言っておこう。
今のこの状況、またしても話が本題から大幅コースアウトしていることに彼女らは気づいているだろうか。否、気付いていないからこんな茶番を繰り広げられるのだろう。
──────────
本題に行こう。
「それで?私達の出会いの話だったかしら?今更そんなことを話すなんて、何となく気恥しさを感じる気もするけど……」
間食と朝食を終えた幽々子は、漸くこの話に戻ってきた。何故かいつもより食事量が多く、妖夢の顔が某ホラゲーの鬼ばりに真っ青になっていたのはまた別の話である。
紫は「あぁ、そんなことも……」と呟いて、幽々子に向き直った。この女、明らかに白玉楼に来た本来の目的を忘れていた。物忘れが激しくなるのは歳を──いや、何も言うまい。
「ところで、あの半人半霊の子は何処に行ったの?貴女が食べ終わる前に出かけたみたいだけど」
え、まだ本題に入らないんですか紫さん。そろそろ長いと思うんですけど。作者も読者も疲れると思うんですけど。自分で言っといてこれメタいと思うんですけど。
はい、紫さんから『うるさいわよ黙ってなさい。もしくは死になさい』という目 (殺気付き)を向けられたので黙っておきましょう。読者の皆さん、もう少し我慢してくださいね。
「妖夢?あの子なら、優都のところに行ったわよ?最近は白玉楼の庭で剣術の鍛錬して、その成果を彼に見せに行く……師弟の関係、かしら?まぁ、それ以上の関係、それ以外に彼に会いたい理由もあるのかもしれないけれど」
「へぇ、そう?鍛錬の成果を見せに、ねぇ。頑張っているのね。そんな口実つけて優都に近づくなんて本当に妬ましいわね」
「紫、本音が漏れてるわよ。別の妖怪みたいになってるじゃない」
普通に本音がダダ漏れしております。どうやら紫は優都のことになると残念キャラに成り下がるようである。何処ぞの橋姫みたいになっているが、そこはスルーしよう。
こほん、と一つ咳払い。
「さて、もうそろそろ本題に入りましょうか。これ以上長くなると大多数の人が飽きてしまうでしょうし。『タイトル詐欺だろ』とか言われても困るからね」
電波を受信されたようです。
皆さん、ようやく。ようやく始まりますよ。長らくお待たせいたしました。これだけ待たせたんです、それはもう、大ヒット映画ばりに壮大なストーリーのはずですよ!期待しましょう!
「では、また後編でお会いしましょう!」
ここでその引き!?




